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30,六歳の誕生日
しおりを挟む残念なお話をしようと思う……。
突然なんだと思うだろうが、とにかく聞いてほしい。
最後の魔力暴走で倒れ目を覚ました日、僕は兄様と話をして完全にお互いの蟠りを解いた。まぁ蟠りがあったのは兄様だけだったとも言えるんだけど。
そんでもって、兄様と話し終えて穏やかな時間を過ごしていた時、ふと兄様が言ったのだ。
『そういえば、眠っている間にシルの誕生日が過ぎてしまったね。本当は当日にパーティーもしたかったけれど仕方ない。誕生日おめでとうシル』
『…………はい??』
そう、僕がぐーすか眠っている間に、六歳の誕生日が過ぎてしまっていたのだ!
その事実を知る過程で教えられたのだが、魔力暴走を起こして目が覚めるまでにかなり時間が経っていたのだとか。
僕としては一日くらい経っちゃったかなぁ?くらいの認識だったのだが、なんと実際は二週間も眠ったままだったらしい。
今思えば、僕が目を覚ましたときの父上と母上の喜びようは異常だった。
最後の魔力暴走から生還したからだと思っていたが、二週間も眠っていた息子がようやく起きたからってのもあったのか。
その後の話によると、どうやら誕生日の一ヶ月ほど前から僕の誕生日パーティーの準備は秘密裏に進められていたそうな。
僕にも誕生日が近付いたらパーティーについて教えるつもりだったらしい。
だがご存知の通り、僕は誕生日間近で拉致事件に巻き込まれた挙句、魔力暴走を起こし、更にはパーティー当日も眠っていた始末……。
完全に皆の努力を水の泡にしてしまった……と、思ったのだが。
『パーティーは後日、改めて催そう。当初の予定にはなかったけれど、お披露目も兼ねようという話も出ているんだ』
『おひろめ……?』
『今までの誕生日は邸の者だけで祝っていたでしょう?六歳の誕生日は、他の貴族達も招待して大々的に祝おうってこと。シルは表に出るのは初めてだから、事実上お披露目を兼ねていると言っていい』
この通り、誕生日パーティーはちゃんとやれることになった!
そんでもって、そのパーティーではたくさんの貴族達も招待するらしい。
なんで突然お披露目することになったかと言うと、僕の魔力暴走が完全に起こらなくなったから。
前の僕は体に爆弾を抱えたみたいな子供だったけど、今は人よりちょっとだけ体の弱いただの子供だからね。
たくさんの人達の前に出しても問題なくなったから、僕もようやく何も悩むことなく外に出られるようになったのだ。
けれど今まで僕は深窓の令嬢ならぬ深窓の令息だったから、初めて正式に人前に出ることになって少しばかり不安もある。
それ以上にワクワクもあるけどね!
「──シル、入るよ」
ソファに寝っ転がって誕生日のことやら色々考えていると、部屋の扉が控えめにノックされた。
「兄様!どうかなさいました、か……って、あぁ!!」
「ミャー」
扉を開けて入ってきた兄様の足の影からちょこんと顔を出した黒猫。
呑気に欠伸をしながらゆったりと近付いてきたのは、あの日以来久しぶりに見るミューだった。
こっちに辿り着く前にソファから飛び起き、ミューの元に駆け寄ってギュッと抱き締める。
ミューが若干苦しそうな鳴き声を上げたが、それでも抵抗することはなかった。
「ミュー!心配してたんだよ!今までどこに行ってたの!!」
「ミャ、ミャー……」
申し訳なさそうにシュンと垂れる尻尾、折り畳まれる耳。紅い瞳も潤んでいる。
「~~!もうっ、メッだよミュー!ほんとに心配したんだから!怪我がなくてよかった……」
しっとりとした毛並みにうりうりと頬擦りする。
いつもはウザったそうに抵抗するミューだけれど、泣きそうな僕を見て同情心が湧いたのか、暴れることなく腕の中に収まってくれた。
それどころか、僕のほっぺをぺろっと舐めて慰めてくれて……。
まるで、ミューも僕の無事を確認して安心しているんじゃないか。そんな自意識過剰なことを考えてしまうくらい、ミューの紅い瞳は優しく蕩けているように見えた。
「その黒猫、今朝急に帰ってきたんだ。最近シルがずっと探していたから、早く会わせてあげようと思ってね。一応怪我がないかとか虫が付いてないかとか確認していたら連れてくるのが遅くなってしまった、ごめんねシル」
「いえ、そんな……!ありがとう兄様……」
困ったように笑う兄様に礼を言う。
ミューは例の拉致事件のあとすぐに行方不明になっていて、僕は目覚めたあとにすぐミューを探し回っていた。
ルーと一緒に助けに来てくれたところまでは覚えているから、ルーにも聞いてみようと思ったんだけれど……どうやらそのルーも、何やら忙しいみたいで当分会えないようだった。
そんなこんなで途方に暮れていたけれど、兄様が見つけ出してくれたみたいだ。
本当によかった……と改めて兄様にお礼を言い、ミューの毛並みに顔を埋める。
あぁちなみに、すっかり忘れていたけれど、僕を拉致監禁した犯人はまだ捕まっていない。
いや、実行犯……拉致を実行した人達は見つかって拘束されたんだけど、計画した首謀者はまだ見つかっていないのだ。
彼らは金で雇われただけで、黒幕については何も知らないようだと兄様に教えられた。
捜査は進められているみたいだけど、結果は乏しいらしい。
今回は被害者が魔塔主の息子である僕だったこともあり、魔塔の魔術師達も捜査に協力的なのだとか。
魔塔には基本的に単独行動や人との馴れ合いが苦手な人達が多いから、これだけ協力的なのは珍しいんだって。
拉致が行われたのが魔塔ってことも大きな理由だろうけど、何より魔塔のトップである父上が進んで捜査に手を貸しているのが最も大きな理由だろう。
「ミャー」
「あ、ごめんね。ボーッとしてた」
ミューの鳴き声にハッとする。
扉の前に立ったままの兄様に視線を戻すと、兄様はミューをじっと見据えていた目を僕に向けて微笑んだ。
「……猫、戻ってきてよかったね」
「……?はい!本当によかったです!」
気のせいだろうか。
ほんの一瞬、兄様がミューに探るような視線を向けたような気がしたけれど。
違和感の正体を探ろうと兄様をじっと見つめるけれど、すぐに兄様が僕の視線から逃れるように動いたから、それは叶わなかった。
「それじゃあ私はそろそろ行くよ。魔塔にも呼び出されているから」
「……そうですか」
「ふふ、そんな顔をしないでシル。行きたくなくなってしまうでしょ?帰ったら一緒に散歩しよう、寝たきりで体力も落ちてしまっているだろうからね」
「……!はいっ!!」
もう魔力暴走による発作の心配もないので、出かける時に無理に僕を連れていく必要がなくなった。
それは健康体になった明確な変化だから喜ぶべきことなんだろうけど……ちょっとだけ寂しかったのも確かだ。
僕のそんな気持ちを察してくれていたのだろう、兄様は優しい微笑を浮かべて言った。
散歩をするのも久しぶりだ。
倒れた後遺症が心配だからと、ずっとベッドで過ごしていたから退屈だったし、兄様のお誘いはとってもありがたい。
そうだ、久々に護衛のみんなを連れて庭で遊ぶのも楽しそうだ。
兄様の帰りをわくわくと待ち侘びながら、僕は兄様ににこっと笑顔を向けた。
「待っていますね、兄様!帰ってきたら、いーっぱい遊んでください!」
「うん、行ってくるよ。なるべく早く帰ってくるから、たくさん遊ぼう」
「えへへっ!行ってらっしゃいませ!お気をつけて!」
兄様はルンルン気分の僕を見て瞳を甘く細めたかと思うと、おでこにチュッと唇を押しつけて、何事もなかったかのように颯爽と部屋を出ていった。
ひらひらーっと手を振る僕の足元に、ミューがゴロゴロと擦り寄ってくる。
あまりにもナチュラルすぎる口付けに、後になって赤面した。
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