公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓

文字の大きさ
31 / 57

30,六歳の誕生日

しおりを挟む

 残念なお話をしようと思う……。

 突然なんだと思うだろうが、とにかく聞いてほしい。
 最後の魔力暴走で倒れ目を覚ました日、僕は兄様と話をして完全にお互いの蟠りを解いた。まぁ蟠りがあったのは兄様だけだったとも言えるんだけど。
 そんでもって、兄様と話し終えて穏やかな時間を過ごしていた時、ふと兄様が言ったのだ。


『そういえば、眠っている間にシルの誕生日が過ぎてしまったね。本当は当日にパーティーもしたかったけれど仕方ない。誕生日おめでとうシル』

『…………はい??』


 そう、僕がぐーすか眠っている間に、六歳の誕生日が過ぎてしまっていたのだ!
 その事実を知る過程で教えられたのだが、魔力暴走を起こして目が覚めるまでにかなり時間が経っていたのだとか。
 僕としては一日くらい経っちゃったかなぁ?くらいの認識だったのだが、なんと実際は二週間も眠ったままだったらしい。

 今思えば、僕が目を覚ましたときの父上と母上の喜びようは異常だった。
 最後の魔力暴走から生還したからだと思っていたが、二週間も眠っていた息子がようやく起きたからってのもあったのか。

 その後の話によると、どうやら誕生日の一ヶ月ほど前から僕の誕生日パーティーの準備は秘密裏に進められていたそうな。
 僕にも誕生日が近付いたらパーティーについて教えるつもりだったらしい。

 だがご存知の通り、僕は誕生日間近で拉致事件に巻き込まれた挙句、魔力暴走を起こし、更にはパーティー当日も眠っていた始末……。
 完全に皆の努力を水の泡にしてしまった……と、思ったのだが。


『パーティーは後日、改めて催そう。当初の予定にはなかったけれど、お披露目も兼ねようという話も出ているんだ』

『おひろめ……?』

『今までの誕生日は邸の者だけで祝っていたでしょう?六歳の誕生日は、他の貴族達も招待して大々的に祝おうってこと。シルは表に出るのは初めてだから、事実上お披露目を兼ねていると言っていい』


 この通り、誕生日パーティーはちゃんとやれることになった!

 そんでもって、そのパーティーではたくさんの貴族達も招待するらしい。
 なんで突然お披露目することになったかと言うと、僕の魔力暴走が完全に起こらなくなったから。
 前の僕は体に爆弾を抱えたみたいな子供だったけど、今は人よりちょっとだけ体の弱いただの子供だからね。
 たくさんの人達の前に出しても問題なくなったから、僕もようやく何も悩むことなく外に出られるようになったのだ。

 けれど今まで僕は深窓の令嬢ならぬ深窓の令息だったから、初めて正式に人前に出ることになって少しばかり不安もある。
 それ以上にワクワクもあるけどね!


「──シル、入るよ」


 ソファに寝っ転がって誕生日のことやら色々考えていると、部屋の扉が控えめにノックされた。


「兄様!どうかなさいました、か……って、あぁ!!」

「ミャー」


 扉を開けて入ってきた兄様の足の影からちょこんと顔を出した黒猫。

 呑気に欠伸をしながらゆったりと近付いてきたのは、あの日以来久しぶりに見るミューだった。
 こっちに辿り着く前にソファから飛び起き、ミューの元に駆け寄ってギュッと抱き締める。
 ミューが若干苦しそうな鳴き声を上げたが、それでも抵抗することはなかった。


「ミュー!心配してたんだよ!今までどこに行ってたの!!」

「ミャ、ミャー……」


 申し訳なさそうにシュンと垂れる尻尾、折り畳まれる耳。紅い瞳も潤んでいる。


「~~!もうっ、メッだよミュー!ほんとに心配したんだから!怪我がなくてよかった……」


 しっとりとした毛並みにうりうりと頬擦りする。
 いつもはウザったそうに抵抗するミューだけれど、泣きそうな僕を見て同情心が湧いたのか、暴れることなく腕の中に収まってくれた。

 それどころか、僕のほっぺをぺろっと舐めて慰めてくれて……。
 まるで、ミューも僕の無事を確認して安心しているんじゃないか。そんな自意識過剰なことを考えてしまうくらい、ミューの紅い瞳は優しく蕩けているように見えた。


「その黒猫、今朝急に帰ってきたんだ。最近シルがずっと探していたから、早く会わせてあげようと思ってね。一応怪我がないかとか虫が付いてないかとか確認していたら連れてくるのが遅くなってしまった、ごめんねシル」

「いえ、そんな……!ありがとう兄様……」


 困ったように笑う兄様に礼を言う。

 ミューは例の拉致事件のあとすぐに行方不明になっていて、僕は目覚めたあとにすぐミューを探し回っていた。
 ルーと一緒に助けに来てくれたところまでは覚えているから、ルーにも聞いてみようと思ったんだけれど……どうやらそのルーも、何やら忙しいみたいで当分会えないようだった。

 そんなこんなで途方に暮れていたけれど、兄様が見つけ出してくれたみたいだ。
 本当によかった……と改めて兄様にお礼を言い、ミューの毛並みに顔を埋める。

 あぁちなみに、すっかり忘れていたけれど、僕を拉致監禁した犯人はまだ捕まっていない。
 いや、実行犯……拉致を実行した人達は見つかって拘束されたんだけど、計画した首謀者はまだ見つかっていないのだ。
 彼らは金で雇われただけで、黒幕については何も知らないようだと兄様に教えられた。

 捜査は進められているみたいだけど、結果は乏しいらしい。
 今回は被害者が魔塔主の息子である僕だったこともあり、魔塔の魔術師達も捜査に協力的なのだとか。
 魔塔には基本的に単独行動や人との馴れ合いが苦手な人達が多いから、これだけ協力的なのは珍しいんだって。
 拉致が行われたのが魔塔ってことも大きな理由だろうけど、何より魔塔のトップである父上が進んで捜査に手を貸しているのが最も大きな理由だろう。


「ミャー」

「あ、ごめんね。ボーッとしてた」


 ミューの鳴き声にハッとする。
 扉の前に立ったままの兄様に視線を戻すと、兄様はミューをじっと見据えていた目を僕に向けて微笑んだ。


「……猫、戻ってきてよかったね」

「……?はい!本当によかったです!」


 気のせいだろうか。
 ほんの一瞬、兄様がミューに探るような視線を向けたような気がしたけれど。
 違和感の正体を探ろうと兄様をじっと見つめるけれど、すぐに兄様が僕の視線から逃れるように動いたから、それは叶わなかった。


「それじゃあ私はそろそろ行くよ。魔塔にも呼び出されているから」

「……そうですか」

「ふふ、そんな顔をしないでシル。行きたくなくなってしまうでしょ?帰ったら一緒に散歩しよう、寝たきりで体力も落ちてしまっているだろうからね」

「……!はいっ!!」


 もう魔力暴走による発作の心配もないので、出かける時に無理に僕を連れていく必要がなくなった。
 それは健康体になった明確な変化だから喜ぶべきことなんだろうけど……ちょっとだけ寂しかったのも確かだ。
 僕のそんな気持ちを察してくれていたのだろう、兄様は優しい微笑を浮かべて言った。

 散歩をするのも久しぶりだ。
 倒れた後遺症が心配だからと、ずっとベッドで過ごしていたから退屈だったし、兄様のお誘いはとってもありがたい。
 そうだ、久々に護衛のみんなを連れて庭で遊ぶのも楽しそうだ。

 兄様の帰りをわくわくと待ち侘びながら、僕は兄様ににこっと笑顔を向けた。


「待っていますね、兄様!帰ってきたら、いーっぱい遊んでください!」

「うん、行ってくるよ。なるべく早く帰ってくるから、たくさん遊ぼう」

「えへへっ!行ってらっしゃいませ!お気をつけて!」


 兄様はルンルン気分の僕を見て瞳を甘く細めたかと思うと、おでこにチュッと唇を押しつけて、何事もなかったかのように颯爽と部屋を出ていった。
 ひらひらーっと手を振る僕の足元に、ミューがゴロゴロと擦り寄ってくる。

 あまりにもナチュラルすぎる口付けに、後になって赤面した。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る

黒木  鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。

処理中です...