50 / 57
49,皇太子との出会い
しおりを挟む公爵邸に着くとすぐに執務室まで走った。
廊下で仕事をしている使用人たちが必死の形相で走る俺を見て何事かと目を見開いていたが構う暇はない。今は一刻も早くシルビオ様のことを当主に報告しなくては。
とにかく無我夢中で足を動かし、執務室の扉を勢いよく開いた。
中には当主の他にランベルト様が立っており、思わず目を見開いて固まる。
「ラ、ランベルト様!?学園に戻ったんじゃ……!」
「何事だラルク、騒々しい」
俺の言葉を遮った当主にハッと我に返った。
ランベルト様のことは気になるがそれよりも重要な報告がある。執務室の扉を閉めて部屋の奥へ進み、執務机の前まで来ると口を開いた。
緊張感を含んだ硬い声はやけに大きく室内に響いた。
「シルビオ様が……騎士団に拘束されました」
大きく目を見開く当主とピクッと顔を歪めたランベルト様。
「何だと……?」と怒りを堪えるような低い声が重く届く。シュッと風を切る小さな音が鳴ったかと思うと、気付けば首元に鋭利な氷の刃が突き付けられていた。
「ッ……ラ、ランベルト様」
「シルが、どうしたって?」
鈍い痛みを感じて息を呑む。刃の切っ先が首元に食い込んでいるらしい。
だがランベルト様がそれを気にする様子はなく、ただ瞳に強い感情を宿した無表情を向けて問い掛けてくる。
首筋を伝う生温かい液体の感覚に緊張感が高まった。
「皇太子殿下に仕える騎士がっ……皇太子殿下への暗殺を計画した容疑が、シルビオ様に掛けられていると──」
「馬鹿な……!!」
執務机を荒々しく叩いた当主が苛立ったように立ち上がる。
公爵家を通さずに事を進めた騎士団に酷く怒っているようだ。状況把握の為に皇宮へ向かうと言った当主が、先程まで手を付けていたのだろう書類の山をそのままに部屋を出て行ってしまった。
「……ラルク」
「は、はいっす!」
ふと気付けば首元に突き付けられていた氷の刃は溶けてなくなっており、思わず体から力が抜けた。
呼ばれて慌てて返事をすると、さっきよりは落ち着きを取り戻した様子のランベルト様が何かを悩み込むような仕草を見せて問い掛けてくる。
「その騎士達は何番隊だ?」
「何番隊……いや、たぶん近衛騎士だと思うっす。奴ら魔塔を目障りだって言ってたんで。それに……第二皇子殿下のことを呪われた皇子だと……」
「……そうか」
何かを察したように頷いたランベルト様が颯爽と部屋を出たので、俺も慌ててそれを追った。
「どこ行くんすか!?」と問うと、振り向かずに答えが返って来る。
「シルを嵌めた人間のところ」
「嵌めた……って、え!?もう黒幕分かったんすか!?」
シルビオ様が暗殺計画なんて物騒なことを企てるはずがないのはよく分かっているから、そもそも微塵も疑ってはいない。
ただ、何もしていない人間に突然身に覚えがないにも程がある疑いが掛けられれば、何らかの陰謀に巻き込まれていると思うのは明白。
悪意を持ってシルビオ様を陥れようとしている人間がいるということだ。
背後にその黒幕がいるのは察していたが、まさかそいつの正体がもう分かったとでも言うのか。
「黒幕かどうかは分からないが、今回の件に関わっている可能性は高い。ただ、どうやってシルを陥れる程の材料を手に入れたのか……」
ランベルト様が重苦しい面持ちで考え込む。
俺には正直何が何だか理解出来ないし混乱しているが、ランベルト様は既に色々な事を整理し始めているのだろう。
実際に現場に居合わせたのは俺なのに、何もできていない状況に歯がゆい気持ちになる。
守るべき対象であるシルビオ様を守れなかったどころか、騎士団に拘束させてしまうなんて、思い返せば無能でしかない。
「……っ」
この失態は絶対に取り返す。
相手が騎士団だろうが皇族だろうが、再びシルビオ様にどんな容疑を掛けられようが関係ない。無事にシルビオ様の容疑を晴らして、今度こそ何があっても守るのだ。
***
「あ、あのぉー……?」
「いかがしましたかシルビオ様!ケーキはお口に合いませんでしたか!?」
「紅茶はダージリンの方がお好みでしたか!?」
「お体冷えますか!?毛布をご用意いたしましょうか!?」
「いや、そうじゃなくて……あの、なんで……?」
なんでこんなに好待遇なの……?
言葉が最後まで紡がれることはなかった。
さっきから部屋の中で慌ただしく動いている騎士達が、別のケーキを用意したりダージリンを淹れ始めたりと忙しなく動き出したからだ。
室内を動き回る監視役の騎士は三人。
全員が大柄で、いかにもって感じのマッチョ騎士さん達。
何か恐ろしい尋問でもされるのかとビクビクしていたが、実際はこの通り子供のお守りである。
ここに僕を連れてきた騎士達は性格悪そうだった……というか感じ悪くて不安だったけど、連れてこられた騎士団の基地には優しそうな人たちしかいなかったし、何なら拘束されてる僕を見てギョッとした顔をしていた。
何故か僕じゃなくて、僕を拘束していた感じの悪い騎士達の方をシバき始めたのはとても驚いた。
ギャーギャー言いながら抵抗する彼らから僕を引き離した優しそうな騎士さん達は、そのまま僕をこの応接室みたいな場所に案内してくれたのだ。
それからはこの通り、甘いものをくれたり飲み物を出してくれたり毛布を掛けてくれたりと、およそ罪人に向けるものではない親切の数々を与えられるばかり。
一応僕は罪人らしいからこの三人も監視役だと勝手に思っているけど、それにしても優しすぎやしないか。相手が子供だからかな。
「あの、騎士さんたち」
「はいっ!!」
テーブルにずらりと並べられたお菓子を見下ろし、その視線を騎士さん達に向けて呼びかけた。
スッとテーブルの上を指さし「一緒に食べませんか?」と提案する。
三人のマッチョ騎士さんは揃って目を丸くして、そしてすぐにドバーッと滝のような涙を流し始めた。
小さい子供に泣かされる大柄なマッチョ騎士たち……どういう状況だよと困惑しながらあたふたと立ち上がる。
「だ、大丈夫ですか……!?僕、なにかいやなことでも言って……」
「いえ、いえいえっ!!」
「なんてお優しい!流石は我らがシルビオ様!!」
「噂通りの天使ッ!!」
何が何だか分からないが、どうやら僕の評判は悪いものではないようで安心した。
けれど三人のマッチョが号泣しているというカオスな状況を前に、僕も混乱して慌ててしまう。
騎士達を落ち着かせるために「どうぞ」とお菓子を差し出すと、三人はますます「天使ッ!」と言いながら膝をついて泣いてしまった。
おかしいな、僕が悲しくなった時はお菓子を食べれば一発で立ち直るんだけど……。やっぱりそういうのは人によって違うよね。
「き、騎士さんたち……」
野太い声で泣いているところ申し訳ないが、そろそろ尋問とか始めなくてもいいんだろうか。
全然身に覚えもないし自分的には冤罪で間違いないんだけど、僕って一応今、皇太子殿下の暗殺を計画した容疑が掛けられてるんだよね?かなりの大罪人じゃない?
普通に牢屋とかに入れられると思っていたからちょっと拍子抜けだ。やっぱり子供だからちょっとばかし待遇が甘くなってるのかな。
なんて考えながら困惑していると、突然部屋の扉が開かれた。
「──おや、何やら熱が籠ったむさ苦しい光景だね」
その声はとても澄んでいて、さほど大きな声でもないのに部屋中に響いて聞こえた。
微かに毒が含まれた言葉に首を傾げて立ち上がる。
跪いて泣く騎士さん達を慰めるためについていた膝を上げると、騎士さん達の大きな体躯越しに息を呑むほど美しい青年が見えた。
全てのパーツが完璧に揃った、まるで神に愛されたような容姿のその男性は、突然ひょこっと現れた僕を視認するなり目を見開く。
ルーと同じ眩いばかりの金髪に、髪と同じ金色の瞳。
純白の布地に金の刺繍を施した華美な衣装を見に纏った彼は、固まっていた体を解くと愉しげに口角を上げた。
「私の暗殺を企てた者がいると聞いて来てみれば……こんなに愛らしい少年だったなんて予想外だ」
「っ……!!」
"私の暗殺"。
まさか、という驚きが顔にも出てしまっていたのだろう。口を開けた間抜けな表情で固まった僕に、彼はおかしそうに笑いながら名乗った。
「初めまして可愛らしいご令息。私はオリヴィエ。君のような天使に命を狙われたなんて光栄だね」
そう言うと彼……皇太子殿下は、ニコッと笑って手を差し伸べてきた。
1,932
あなたにおすすめの小説
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る
黒木 鳴
BL
妖精のように愛らしく、深窓の姫君のように美しいセレナードのあだ名は「眠り姫」。学園祭で主役を演じたことが由来だが……皮肉にもそのあだ名はぴったりだった。公爵家の出と学年一位の学力、そしてなによりその美貌に周囲はいいように勘違いしているが、セレナードの中身はアホの子……もとい睡眠欲求高めの不思議ちゃん系(自由人なお子さま)。惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバート、なんやかんやで振り回される従兄のエリオットたちのお話し。完結しました!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?
詩河とんぼ
BL
前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
主人公の義弟兼当て馬の俺は原作に巻き込まれないためにも旅にでたい
発光食品
BL
『リュミエール王国と光の騎士〜愛と魔法で世界を救え〜』
そんないかにもなタイトルで始まる冒険RPG通称リュミ騎士。結構自由度の高いゲームで種族から、地位、自分の持つ魔法、職業なんかを決め、好きにプレーできるということで人気を誇っていた。そんな中主人公のみに共通して持っている力は光属性。前提として主人公は光属性の力を使い、世界を救わなければいけない。そのエンドコンテンツとして、世界中を旅するも良し、結婚して子供を作ることができる。これまた凄い機能なのだが、この世界は女同士でも男同士でも結婚することが出来る。子供も光属性の加護?とやらで作れるというめちゃくちゃ設定だ。
そんな世界に転生してしまった隼人。もちろん主人公に転生したものと思っていたが、属性は闇。
あれ?おかしいぞ?そう思った隼人だったが、すぐそばにいたこの世界の兄を見て現実を知ってしまう。
「あ、こいつが主人公だ」
超絶美形完璧光属性兄攻め×そんな兄から逃げたい闇属性受けの繰り広げるファンタジーラブストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる