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二章
66.鳴り響く銃声
しおりを挟むまずい!よくわかんないけど、俺がぐーすかしてしまったばかりに人死にが出ようとしている……!
これだから父のことはまだ正直苦手なのだ。沸点が謎だから。
いつもクールで冷静かと思えば、急にブチ切れて人を殺そうとし始める。
この間なんか、夕食の時に俺がほんのちょっと噎せてしまった時、それを見た父が突然怒りの形相で『飲み込みづらい料理を作るとは何事か!』『ルカは口も小さいのだぞ!』『シェフは処刑だ!』と大騒ぎしだしたくらいだ。本当に沸点が謎すぎて怖い。
幸いその時は、俺が死を覚悟しつつ『優しいお父さまに戻ってぇぇっ!』と号泣したら直ぐに冷静に戻ってくれたから良かったが。
問題は、その時のような策が今の父にも通じるかどうかということだ。対シェフの時は前提の因縁が無かったから丸く収まったとはいえ、今回はその前提も複雑そうだし……。
「おたくのガキが主導したってんなら、保護者のアンタに今回の件の責任を取って頂かねぇと」
「……責任だと?」
「まさか忘れただなんて言わせませんよ。暗殺ギルドとマフィアの抗争は基本タブー。無関係の奴らに首突っ込まれちゃあ、ギルドとしても黙ってられねぇですから」
まさに一触即発の睨み合い。暗殺ギルドのリーダーさんと父は、互いに一歩も譲らない睨みをきかせて黙り込んでいる。おめめ疲れないのかね。
何となく重苦しい空気に引っ張られて俺もお口チャックする。
きょろきょろ、と控えめに周りを確認してみると、周囲も同じような反応をしていた。ただ、今回の件にめちゃくちゃ関わっているはずのジャックは興味無さそうに知らんぷり、ジャックの仲間であるカルロも困惑気味に隅で様子を窺っていた。
まったく。なんでなんにも悪くない父が、悪そうなお兄さんに責められなきゃならんのだ!
なーんて。父がぷんすかされてるのは半分俺のせいなんだけどな。冷や汗たらたら。
それにしたってどうしたもんか。せめて父が怒られているこの状況を何とかしないと。
一か八か、父は悪くない!悪いのは俺だ!って叫ぶか?いやでも、たぶん暗殺ギルドからしたらそんなのどうでもいいことだよなぁ……。
彼らからすれば、認識は『無関係のベルナルディが首を突っ込んできた』って感じだろうし。
「責任か、笑わせてくれる。寧ろ貴様らこそ責任を取れ。突然有望な側近に手を出されてどれほど困り果てたものか……我々こそ黙ってはいられない」
「はっ……!何ですかその下手な誤魔化しは。先に手を出したのはおたくらの側近ですよ」
有望だとか何とか、普段の父からは絶対出ないような言葉がスラスラと口から飛び出す。
対象のジャックはとっても気味悪そうだ。ドン引きするような目で父を見つめている。確かにゾワワッてしたけれど、そこまで引かないであげてよぅ。
それにしても、父ってば一体どうしてこんなにも分かりやすい嘘を突然吐いたのか。
きょとんと動向を見守っていると、ふと暗殺ギルドのリーダーさんの返答を聞いた父が微かに口角を上げた。
「──……ほう。“ベルナルディの物”に手を出した、という事実は認めるのだな」
数秒の沈黙の後、暗殺ギルドのリーダーさんが「……は?」と乾いた笑いを零した。
隠しているようだが、動揺のせいか俺でも分かるくらいの僅かな焦燥。そんな焦りを滲ませたリーダーさんは、一歩退いて首を振った。
「何を……!た、確かに結果的にはそうなったが、不可抗力でしょう!こっちは正当防衛をしたまで!初めにおたくの側近が奇襲してきたのは紛れもない事実だっ」
このリーダーさん、もしかしてポンコツなのかな?なんて、俺でさえそう思っちゃうくらいのあわあわっぷりに眉尻を下げた。
普通に誤魔化せばいいだろうに。こんな変に動揺したら余計怪しく見えちゃうことくらい、ちょっと考えれば分かるのに。
ジトーッと憐みの視線を向けていると、父はそんな俺をぎゅうっと抱き締めて悪魔みたいに微笑んだ。綺麗だけれど、怖いが勝つ。そんな感じの笑み。
「暗殺ギルドが暗黙の了解を冒すような信用に値しない組織であること、既に界隈に周知されているぞ」
「なッ、なんだと……!?」と瞳を揺らすリーダーさん。やっぱりポンコツさんみたいだ。
傍から見てもまんまと父の手のひらの上で転がされている。これは父が優秀なんじゃなくて、明らかにこのリーダーさんがポンなだけだ。
暗殺ギルドって、原作だと基本マフィアの事情に不干渉な手強い秘密組織!って感じの印象だったけれど……。なんだろう、実際に見てみると全然違うな……。
原作のジャックはどうしてこんなポンコツさんに一杯食わされたんだ?
ジャックはスラム街一の実力を誇るのに、こんな人に目の前で成す術無くお姉さんを殺されてしまっただけでなく、片腕まで失ったなんて。
……考えてみれば妙だ。何かがおかしい。
「何せ一時期“裏”を牽引した暗殺ギルドは、今となっては代替わりで無能集団に様変わりしてしまったからな」
父の嘲るような声音に形相を歪ませるリーダーさん。言い返す言葉の語彙は幼稚で、それすら父に一方的に返されてぐぬぬと声を詰まらせている。
やっぱり、彼は小説で読んだ『暗殺ギルド』の印象をまるで覆すようなポンコツさんだ。
この人が率いる組織が、ジャックを二度も追い詰めるだなんて到底信じられない。
この違和感の正体は一体なんなのか。
父の腕の中で神妙に考え込んでいると、ふいにリーダーさんの嘆くような声が聞こえて思わず顔を覗かせた。
「クソッ、どうなってやがる……!ベルナルディが介入するだなんて聞いてねぇぞ……!」
リーダーさんが頭を抱えて独り言のように叫んだそのセリフ。
ハッと眉を顰めたのは俺だけじゃなかった。父もジャックも、ジャックの仲間のカルロも。玄関ロビーに集まっている主要人物は皆何かを悟ったように怪訝を瞳に滲ませた。
「“あの人”は……“あの人”はそんなことッ──!」
「あの人……?」と首を傾げる父の呟きがふと頭上から聞こえた。
俺も同じく目を瞬く。違和感の正体にようやく辿り着く!というまさにその時。
──パァンッ!!
突然、鼓膜をつんざくような高い銃声が辺りに響き渡った。
銃声なんてものに慣れていない平和ボケしていた俺は最初、それが銃声だとすぐに認識することが出来なかった。
その音がなんなのか理解出来たのは、階段の上で突如ゆっくりと倒れ込んだリーダーさんを見たから。
リーダーさんのこめかみから勢いよく飛沫を散らす、赤い鮮血を見てしまったから。
────
次章に続きます
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