66 / 241
二章
66.鳴り響く銃声
まずい!よくわかんないけど、俺がぐーすかしてしまったばかりに人死にが出ようとしている……!
これだから父のことはまだ正直苦手なのだ。沸点が謎だから。
いつもクールで冷静かと思えば、急にブチ切れて人を殺そうとし始める。
この間なんか、夕食の時に俺がほんのちょっと噎せてしまった時、それを見た父が突然怒りの形相で『飲み込みづらい料理を作るとは何事か!』『ルカは口も小さいのだぞ!』『シェフは処刑だ!』と大騒ぎしだしたくらいだ。本当に沸点が謎すぎて怖い。
幸いその時は、俺が死を覚悟しつつ『優しいお父さまに戻ってぇぇっ!』と号泣したら直ぐに冷静に戻ってくれたから良かったが。
問題は、その時のような策が今の父にも通じるかどうかということだ。対シェフの時は前提の因縁が無かったから丸く収まったとはいえ、今回はその前提も複雑そうだし……。
「おたくのガキが主導したってんなら、保護者のアンタに今回の件の責任を取って頂かねぇと」
「……責任だと?」
「まさか忘れただなんて言わせませんよ。暗殺ギルドとマフィアの抗争は基本タブー。無関係の奴らに首突っ込まれちゃあ、ギルドとしても黙ってられねぇですから」
まさに一触即発の睨み合い。暗殺ギルドのリーダーさんと父は、互いに一歩も譲らない睨みをきかせて黙り込んでいる。おめめ疲れないのかね。
何となく重苦しい空気に引っ張られて俺もお口チャックする。
きょろきょろ、と控えめに周りを確認してみると、周囲も同じような反応をしていた。ただ、今回の件にめちゃくちゃ関わっているはずのジャックは興味無さそうに知らんぷり、ジャックの仲間であるカルロも困惑気味に隅で様子を窺っていた。
まったく。なんでなんにも悪くない父が、悪そうなお兄さんに責められなきゃならんのだ!
なーんて。父がぷんすかされてるのは半分俺のせいなんだけどな。冷や汗たらたら。
それにしたってどうしたもんか。せめて父が怒られているこの状況を何とかしないと。
一か八か、父は悪くない!悪いのは俺だ!って叫ぶか?いやでも、たぶん暗殺ギルドからしたらそんなのどうでもいいことだよなぁ……。
彼らからすれば、認識は『無関係のベルナルディが首を突っ込んできた』って感じだろうし。
「責任か、笑わせてくれる。寧ろ貴様らこそ責任を取れ。突然有望な側近に手を出されてどれほど困り果てたものか……我々こそ黙ってはいられない」
「はっ……!何ですかその下手な誤魔化しは。先に手を出したのはおたくらの側近ですよ」
有望だとか何とか、普段の父からは絶対出ないような言葉がスラスラと口から飛び出す。
対象のジャックはとっても気味悪そうだ。ドン引きするような目で父を見つめている。確かにゾワワッてしたけれど、そこまで引かないであげてよぅ。
それにしても、父ってば一体どうしてこんなにも分かりやすい嘘を突然吐いたのか。
きょとんと動向を見守っていると、ふと暗殺ギルドのリーダーさんの返答を聞いた父が微かに口角を上げた。
「──……ほう。“ベルナルディの物”に手を出した、という事実は認めるのだな」
数秒の沈黙の後、暗殺ギルドのリーダーさんが「……は?」と乾いた笑いを零した。
隠しているようだが、動揺のせいか俺でも分かるくらいの僅かな焦燥。そんな焦りを滲ませたリーダーさんは、一歩退いて首を振った。
「何を……!た、確かに結果的にはそうなったが、不可抗力でしょう!こっちは正当防衛をしたまで!初めにおたくの側近が奇襲してきたのは紛れもない事実だっ」
このリーダーさん、もしかしてポンコツなのかな?なんて、俺でさえそう思っちゃうくらいのあわあわっぷりに眉尻を下げた。
普通に誤魔化せばいいだろうに。こんな変に動揺したら余計怪しく見えちゃうことくらい、ちょっと考えれば分かるのに。
ジトーッと憐みの視線を向けていると、父はそんな俺をぎゅうっと抱き締めて悪魔みたいに微笑んだ。綺麗だけれど、怖いが勝つ。そんな感じの笑み。
「暗殺ギルドが暗黙の了解を冒すような信用に値しない組織であること、既に界隈に周知されているぞ」
「なッ、なんだと……!?」と瞳を揺らすリーダーさん。やっぱりポンコツさんみたいだ。
傍から見てもまんまと父の手のひらの上で転がされている。これは父が優秀なんじゃなくて、明らかにこのリーダーさんがポンなだけだ。
暗殺ギルドって、原作だと基本マフィアの事情に不干渉な手強い秘密組織!って感じの印象だったけれど……。なんだろう、実際に見てみると全然違うな……。
原作のジャックはどうしてこんなポンコツさんに一杯食わされたんだ?
ジャックはスラム街一の実力を誇るのに、こんな人に目の前で成す術無くお姉さんを殺されてしまっただけでなく、片腕まで失ったなんて。
……考えてみれば妙だ。何かがおかしい。
「何せ一時期“裏”を牽引した暗殺ギルドは、今となっては代替わりで無能集団に様変わりしてしまったからな」
父の嘲るような声音に形相を歪ませるリーダーさん。言い返す言葉の語彙は幼稚で、それすら父に一方的に返されてぐぬぬと声を詰まらせている。
やっぱり、彼は小説で読んだ『暗殺ギルド』の印象をまるで覆すようなポンコツさんだ。
この人が率いる組織が、ジャックを二度も追い詰めるだなんて到底信じられない。
この違和感の正体は一体なんなのか。
父の腕の中で神妙に考え込んでいると、ふいにリーダーさんの嘆くような声が聞こえて思わず顔を覗かせた。
「クソッ、どうなってやがる……!ベルナルディが介入するだなんて聞いてねぇぞ……!」
リーダーさんが頭を抱えて独り言のように叫んだそのセリフ。
ハッと眉を顰めたのは俺だけじゃなかった。父もジャックも、ジャックの仲間のカルロも。玄関ロビーに集まっている主要人物は皆何かを悟ったように怪訝を瞳に滲ませた。
「“あの人”は……“あの人”はそんなことッ──!」
「あの人……?」と首を傾げる父の呟きがふと頭上から聞こえた。
俺も同じく目を瞬く。違和感の正体にようやく辿り着く!というまさにその時。
──パァンッ!!
突然、鼓膜をつんざくような高い銃声が辺りに響き渡った。
銃声なんてものに慣れていない平和ボケしていた俺は最初、それが銃声だとすぐに認識することが出来なかった。
その音がなんなのか理解出来たのは、階段の上で突如ゆっくりと倒れ込んだリーダーさんを見たから。
リーダーさんのこめかみから勢いよく飛沫を散らす、赤い鮮血を見てしまったから。
────
次章に続きます
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ