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四章
109.再会とご褒美とてれてれ
「おとうしゃまぁぁ!」
警備隊本部の門前でそわそわ待っていると、やがて入り口から待ち望んだ人影が現れて思わず号泣しながら駆け出した。
議会の時は涙なんて一滴も出なかったのに、我ながら極端なものだ。ぶわぁっ!と滝のような涙を溢れさせながら、俺の叫びに気付いてこちらを向いたその人にむぎゅっと抱き着いた。
「ルカ……!」
「おとしゃま!おとうしゃまっ!よがっだぁぁ!うぅっー……!」
すかさず背中に力強い腕が回り、ひょいっとお尻を持って抱き上げられる。
うりうりーっと首元に顔を擦り付けると、父も俺の頭のてっぺんに顔を埋めてちゅっちゅと口づけを落とした。今までにない激甘の甘やかしにちょっぴり頬が赤く染まる。
真っ赤な顔でぐすっと嗚咽を漏らしながらチラリと見上げると、肩越しにリノと視線が合って一瞬硬直する。
すぐにそれを解いて片手を伸ばすと、リノは柔らかく目を細めてその手をきゅっと握ってくれた。
「ぐすっ……リノも、おかえりだぞ。お父さまのこと、守ってくれてありがとな」
「いえいえ。私など精々紅茶を淹れる程度しか働いておりませんでしたよ。ルカ坊ちゃまこそ、我が主を救い出す為に尽力してくださったようで……感謝致します」
そう言って頭を下げるリノにあわあわと慌てる。有能なリノより俺が働いたなんて絶対有り得ないのに、また謙遜させてしまった……。
あたふたする俺をむぎゅっと抱き締めながら、父が静かに一歩踏み出して目を細める。振り返ると、父の視線に応えるように、アンドレアが無言で佇んでいた。
瓜二つのクールな無表情が無言で見つめ合うという謎の時間が流れだして数秒。やがて初めに動き出したのは父の方だった。
「……。……よくやった」
「……はい」
低く、そしてとっても短い一言を告げてすぐに父が歩き出す。アンドレアの横を通り過ぎてスタスタ踏み出す父にぎょっとして、思わずぬんっと万歳して父の視界を遮った。
そうすると計画通り、視界の自由を奪われた父がピタッと立ち止まる。む?と眉を寄せる父にふんすっ!と頬を膨らませてお説教を突き付けた。
「お父さまっ!なんですかいまのはっ!お兄さまは、お父さまをお助けするためにとーってもがんばったんですよっ!」
「っ……」
「“よくやった”じゃなくて“ありがとう”でしょ!お父さまのおばかっ!あんぽんたんっ!」
ぺちぺちっと父の顔をぶっ叩いて激おこを表現する。
流石に鼻やら眼やらに当たったら痛そうなので、ほっぺを両側からぺちぺち叩くという謎の激おこを披露してしまった。
やがて父が俺の手をぱしっと掴み、ちょっぴり赤くなった頬をそのままに溜め息を吐く。
数秒迷うように瞳を揺らしたかと思うと、ほんの僅かに振り向いてボソリと小さく呟いた。
「…………助かった……ありが、とう」
空気に掻き消されてしまいそうなほどちっちゃな声。それなりに強い風が吹いていれば誰にも聞こえなかったんじゃないか?ってくらいの小声だ。
それをしっかりと聞きとったらしいアンドレアは、ゆっくり、けれど確実にみるみる目を見開いて硬直した。有り得ないようなものを見る目を父に向けている。
「……はい」
父と同様、とってもちっちゃな声が零れる。さっきの淡々とした返事とは違い、色々な感情が入り混じって掠れてしまった声だ。
まぁ及第点かね……と眉を寄せる俺を抱え、父が今度こそスタスタと速足で歩き出す。
肩越しに見えたアンドレアとリノ。アンドレアは俯いているせいで顔に影がかかって、表情がよく見えない。その隣では、リノが眉尻を下げて微笑み、なぜか俺に向かって静かに頭を下げた。
お礼?のお辞儀だろうか。別に特に何もしていないんだけどな……と困惑しながら、無言で馬車へ向かう父にぎゅっと抱き着く。
何やらちょっぴり不思議な空気に首を傾げた時だった。ふと頭上から妙な風を感じたかと思うと、父が突然ピタリと立ち止まった。
「む……?」
なにごと?と視線を上げた瞬間。
突如視界を影が覆い、何かが父の前にふわっと着地した。
あんまりびっくり仰天したものだから「むぇっ!」とおかしな声を上げてしまう。だらだらと冷や汗を垂れ流す俺のもとに、突然現れたソイツがむんっと前のめりに近付いた。
さらりと靡く朱殷色の髪を見て、その正体を悟りハッと息を呑む。
「ご主人様ぁ!会いたかったよぉ!」
「じゃ、じゃっく……!?」
父ごとガバッ!と俺を抱き締めたたのは、なんだかとっても久しぶりな感覚のするジャックだった。
父があからさまに『気色悪い』とでも言いたげな顔で俺を抱く力を緩める。それをすぐに察して俺をひょひょいっと奪い取ったジャックが、改めてむぎゅーっ!と強く抱き締めてきた。
「僕頑張ったんだよぉ!褒めて褒めてぇ!なでなでしてぇ!」
「わ、わかったわかった。わかったからちょぴっとおちつけっ、な?」
うりうりーっと物凄い勢いで頬擦りしてくるジャックにむぐぅ……と窒息しかけながらも、必死に拘束から抜け出して手を伸ばす。
朱殷色の髪を梳くようによしよしと撫でてやると、たちまち勢いが収まり、ジャックが嬉しそうにニコニコと笑った。
「じゃっく、おつかれさま。お父さまのこと、お守りしてくれてありがとな。えらい、えらいだぞ」
「……!えへ、えへへ」
ふにゃふにゃとめちゃんこ嬉しそうに笑う姿は、なんだか天真爛漫な子犬みたいだ。
もふもふ好きな俺はおもわずもふもふなジャックを想像してしまい、堪え切れずわしゃわしゃっと物凄い勢いで頭を撫でてしまった。
ジャックの綺麗なミディアムヘアが乱れてしまうけれど、当人は特に気にする様子もなく、むしろニコニコで俺の手に擦り寄ってくる。
「寂しかったよぉご主人様。ご褒美にぃ……今日は一緒に寝てくれる?」
「む?むぅ……しょうがないなー」
そんなに寂しかったのか、と驚きながらも素直にこくりと頷く。
ジャックには嫌いな警備隊の本陣での任務を課してしまっていたし、これくらいのお願いは聞き届けてあげないと主人の名が廃る。
ガウも呼んで今日は三人で寝るかーとほくほくしながら言うと、ジャックは何やら笑顔を引き攣らせて「……わーい。三人で寝るの嬉しいなー」と答えた。そうであろうそうであろう、ふふん。
その後もジャックは俺にうりうりとくっ付いていたが、やがてその様子に呆れたらしい父とアンドレアに無言でグイッと引き離された。
首根っこを掴まれた状態でもムッスーッと頬を膨らませたジャックが、キャンキャンと我儘な子供みたいに喚き始める。捨て犬みたいな顔で手を伸ばされるけれど、グッと衝動を堪えてその手をとることはしなかった。
これ以上くっ付いたら、ジャックってば本当に離れてくれそうにないからなぁ……。
ごめんよジャック、と息を吐いた直後。
ふいに音もなく近付いてきていたらしい誰かに、背後からぎゅっと抱き締められて「ぴゃッ!」と思い切り肩を揺らした。
「──ルカちゃん、俺のこと忘れてない?」
ツンツン、と後ろからほっぺを突っつかれてハッと振り返る。
ずっと門の外で待ってくれていたらしいヴァレンティノ親子を見て、慌てて首を振った。
「ご、ごめんよロキ。お父さまにあえたのがうれしくて、つい……その、わすれてたわけじゃ」
あわあわ、と目を回して弁明する。
正直父との感動の再会で二人のことを忘れてしまっていた。けれどそれをバカ正直に白状するのは失礼なので焦っていると、ふいにロキの肩をリカルド様がポンと叩いた。
「こーら、ロキ。あんまりルカちゃんを虐めてはいけないよ。虐めたくなっちゃうのは分かるけど」
「ごめんなさい父上。ルカちゃん可愛いから、つい意地悪したくなっちゃうんです」
むむぅ……ロキってば全部見透かしてて俺をイジッていたのか……むぅ。
リカルド様がちょっぴりドSなのはさておき、とりあえず俺を虐めたらしいロキをぽかぽか殴って無言の抗議をした。
まぁでも、素直に「ごめんねぇ」「可愛すぎてつい……」と謝罪を口にしたので良しとしよう。
可愛いは不服だけども。可愛いじゃなくてカッコいいだっちゅーに。まったくぷんすかである。
「──……ヴァレンティノ」
ぷくぅっと不貞腐れていると、さっきから険しい表情でリカルド様を見据えていた父がついに動き出した。なんかめちゃんこ睨んでるなぁとは思っていたけれど、案の定声も中々険しい。
こんなところで二大ファミリーの抗争が巻き起こるなんて笑えんぞ!とドキドキしたが、父が続けた言葉は予想に反して険の無いものだった。
「……私が不在の間、子供達の面倒を見ていたらしいな」
ぱちくり、と珍しく目を丸くしたリカルド様だったが、すぐにニコッといつもの笑顔を浮かべて頷いた。
「あぁ。とは言え私は何もしていないよ。今回のことも、殆ど全てこの子達だけで成し遂げたんだ」
「……そうか」
「そうさ。だから沢山褒めてあげると良い。二人共、君の為にとても頑張っていたんだからね」
リカルド様の柔らかい声を聞いて、父がふと振り返る。
俺とアンドレアを無言で抱き寄せる父にきょとんと瞬くと、父はまたもやとっても小さな声で呟いた。
「…………頑張った、な」
ぱちくりと瞬く。アンドレアが隣でピシッと固まったのを察した。
二人の頭をポンと撫でて、父が表情を見せることなくサッと踵を返す。その背中がやけに照れくさそうに見えて、俺は思わずむふふと笑いながら、呆然とするアンドレアの手を引いて父のもとへ駆け出した。
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