179 / 241
五章
177.救出
しおりを挟む「ルカ!こっちへ!」
後頭部から血を流したチェレスが倒れ伏せたところで、ふと焦りの滲んだ声が響き渡った。
その声に、呆然としていた頭がハッと我に返り動き出す。ぐったりと倒れるチェレスの身体を押しのけてぽふぽふっとベッドの上を転がるように進んだ。
服を脱がされる時に幸運にも足首の拘束も外されていたので、そのままぽふっとベッドから下りる。
同時にシーツで全裸の身体をくるりと巻き付けられ、誰かにひょいっと抱き上げられた。
「助けが来ました、早く逃げましょう」
耳元でぽそっと囁かれ、そのセリフの意味を理解した途端ふっと身体から力が抜ける。
俺を抱っこしたその人に縋るように抱き着くと、彼も抱っこの力をぎゅうっと強めてくれた。
「はおらん、ありがと……」
チェレスを花瓶でぶん殴り、こうして俺のことを今抱っこしてくれているその人に掠れた声でお礼の言葉を呟く。すると彼は……ハオランは、ピクッと肩を揺らして一瞬俯いた。
「何を……礼を言われる資格などありません。全て終わったら、どんな糾弾も罰も甘んじて受け入れる覚悟です……」
どこか震えたその声と共に、ハオランは俺を抱えて勢いよく走り出した。
視界の端でチェレスがゆっくりと起き上がったところが見えた気がしたが、すぐにふいっと視線を逸らして見なかったフリをする。大丈夫、俺は何も見ていない、だいじょーぶ。
部屋を飛び出したハオランはなんの迷いもなく足を進めていて、それだけで、この場所には随分慣れているのだろうと悟った。
ここはやっぱりガースパレの所有する建物なのかな。そういえば、さっき言っていた助けって?ハオランはどうしてここに?なんて、怒涛の展開に追い付けず、大量の疑問がどんどん湧き上がる。
ひとまず今一番気になる『助け』についてを……と口を開きかけた瞬間、ふいに身体の内側から何かが跳ねて湧き上がるみたいに、鼓動がドクンッと大きく高鳴った。
「ッ!っは、はぁッ、はぁっ……!」
「なッ、ルカ……!?」
まただ。注射をぷつってされたすぐ後に感じたこの酷い熱。
全身が燃えるみたいに熱くなって、触れた箇所から火傷が広がるみたいにジンジンして、擽ったいのか何なのかで痙攣が止まらなくなるあの感覚。
シーツが擦れたところから、ハオランに触れられたところから、一気に熱が広がり全身に行き渡る。
身体をぐっと丸めて荒く呼吸すると、ハオランは何かを察したように息を呑み、顔を歪めた。
「まさか……!っ……大丈夫ですよルカ、すぐにロキ様と合流出来ますからね」
どうして急にロキの名前が出たんだ?と不思議に思ったけれど、言葉を自在に操れないほど力が抜けていたから、結局一言も発すことが出来なかった。
ものすごい速さで廊下を走り抜けるハオランにぎゅっと抱き着き目を瞑る。
視界に広がる景色が流れるだけで眩暈が酷くなりそうだから、目を開けるだけでも億劫だった。さっきよりもこの熱の酷さが悪化しているのが確かに分かる。
「もうすぐです、もうすぐですからね……」
頭を撫でる大きな手に少し癒されて、ほんのちょっぴりだけ瞼を上げてみた。
いつの間にか場所は見慣れないところに移り変わっていて、振り返ると、進行方向に玄関ロビーに続きそうな階段が見えた。
ハオランの言う通り、もうすぐという言葉に嘘はないらしい。
そこへ近付くほど何やら争うような騒音も大きくなっていって、一体この場所で今何が起こっているのかと怖くなる。
ハオランは階段の目前まで走ると、駆け降りるのではなく手摺を越えてそのままロビーへと飛び降りた。ただの熱血ゆるふわお兄さんかと思ったら、意外と運動神経がいいらしい。
「──ルカ!」
一階へと降り立った瞬間、聞き慣れた声が聞こえて思わず涙が滲んだ。
もはや自ら力をいれることも難しい身体を叱咤し、なんとかそろりと振り返る。俺の名前を叫んで駆け寄ってきてくれたのはロキだった。
純白の髪と、綺麗な赤い瞳。それを目にした途端、とてつもないほどの安堵がこみ上げた。
「ろ、きぃ……!」
ぶわぁっと涙が溢れて、号泣しながらロキに手を伸ばす。
シーツでぐるぐる巻きになった俺をハオランから奪い取るように抱き上げたロキは、全身真っ赤で震える俺を見下ろし、何故かとっても辛そうに顔を歪めた。
「遅くなってごめんね……もう大丈夫だからね……全員殺してやるから安心してね……」
なんだか発言の最後ら辺が急に物騒になった気がしたけれど、上手く聞き取れなかったので気のせいということにしておこう。
慣れた温もりに安堵してスリスリと頬擦りすると、ロキはふにゃっと微笑んで俺のほっぺを軽く撫でた。その瞬間、またもやビクッと身体が痙攣し始める。
それを見たロキが驚いたように手を離して「ルカちゃん……?」と呼びかけてきたけれど、こうして震えているうちは頭がぼやけるから何も返せない。
黙りこくりながらぷるぷる痙攣する頭上で、何やらハオランとロキがぽそぽそと会話をしているのが辛うじて聞こえた。
「……どういうこと?どうしてこんなに苦しそうなの?」
「申し訳ありません、どうやら即効性の媚薬を打たれたようで……」
「媚薬?まさか……犯されたの?」
「いえ!未遂で止めたのでそれはありません!ただ、使用された媚薬が恐らく違法性のある強力な薬ですので、症状は想定より重くなっているかと──」
なんだなんだ、俺をほっぽって、二人して一体何を話しているんだ?
こんなにふにゃふにゃになっているのにスルーか?スルーなのか?とちょっぴりムッとなって、ロキにむぎゅーっと強く抱き着いた。
更に身体が熱くなって痙攣も増すけれど……同時に、得体の知れない快感のようなものも増していくからやめられない。半ば身体を擦り付けるように抱き着くと、ロキはハッとしたように俺を見下ろした。
「ルカちゃん?ルカちゃん、大丈夫?」
「うぅーっ……」
どうしてか凶暴な感覚が湧き上がって、思わず目の前にあるロキの首にがぶっと齧りついてしまった。歯型が出来るくらいがぶがぶと食らいついてしまい、すぐにハっと我に返る。
「うぅッ、う……うぁ、っ、ごめ……ごめん、しゃっ……」
充血した肌を見てぷるぷると震える。
齧りついてしまったところをぺろっと舐めると、ロキが慰めるみたいに頭をよしよし撫でてくれた。
「大丈夫、いいんだよ。あむってしたら、苦しいのちょっとなくなる?」
「ぅ、うん……なくなる……」
「そっかそっか。それじゃ、あむってしていいよ。血が出ても痛くないから、大丈夫。あとで楽にしてあげるから、今だけ熱いの我慢ね」
優しい声音が緊張と硬直を解す。こくこくと頷くと、よくできましたとばかりに頭を撫で回された。
「よし、それじゃ俺はルカちゃんの熱を冷ましてあげないといけないから、この辺で帰るね。外でベルナルディの奴らがドンパチやってるから、君はそこで合流して、あと自分で何とかして」
「え、は、ロキ様……!?」
ふいに振動が強くなり、伏せていた顔をそろりと上げた。どうやらロキが突然走り出したらしい。
よく分からないけれど、ロキの表情にほんのちょっぴり焦りが見られるから、俺は黙って伏せていよう。
そう思い、上げた顔を再びロキの肩にぽすっと埋めた。時折首をがぶがぶと食らうのも忘れずに。
467
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
をち。「もう我慢なんて」書籍発売中
BL
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる