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六章
200.完全な魂
しおりを挟むチェレスの相棒だという狐獣人のフォルは、とってもお利口さんな様子で捕らえられていた。
チェレスと同様、尋問でできたらしい拷問の跡はあるけれど……特に暴れ散らかす様子もないし、とち狂った気配もない。傍から見ると、本当にスンとしたお利口さんだ。
ダミアーノが俺に対してだけ素直に答えていると知ったフォルも、自分も俺にだけは正直に答えると牢番に申し出たらしい。それも理由で、俺が王太子直々に指名されたというわけだ。
そんなこんなでフォルを前にして、俺はてくてく近寄り、目の前によっこらせと座り込んだ。
単純に、ここに来るまで疲れたから休もうかなーとか、そのくらいの心持ちである。同じ目線の高さになって、フォルをじーっと見つめてふむふむと頷いた。
フードを被った姿ばかりだったから、こうしてきちんと顔を見るのは初めてだ。
三角のでっかい耳に、キリッと整った容姿。あのケモ耳、もふりたくて堪らないぞ、じゅるり……。
「こんにちは。おひさしぶりだな。おれのこと、覚えてるか?」
「……えぇ、もちろん。お久しぶりです。アホの子の贄さま」
「えぇい、だぁれがアホの子じゃいっ!まったくもう……んむ?にえさま?」
相も変わらずツンツンって感じのヤツだぞ。一言多そうなヤツだなーって印象があったけれど、やっぱり間違いじゃなかったみたいだぞ。
ふんすふんすとぷんすかして、途中でふと首を傾げる。こやつ、今なんと言った?
アホの子の……いやそこはどうでもいいぞっ!ちがくて、その後の発言だぞ。えぇっと確か、俺のことを『にえさま』って言ったか?ふむふむ。
……って、なにを言うとるがなだぞ。まったく、キツネさんってば、キリッとした顔して間違っちゃってるぞ、ふんふん。
「むん。ちがうぞ。おれは『にえさま』じゃなくて、ルカさまだぞ」
「つられて自分に『さま』つけちゃうルカちゃんマジきゃわっ!」
ルカさまなり!と胸を張る俺の背後で、何やらロキがきゃわたん!と悶絶し始める。
ロキの突然の暴走はよくあることなので、フツーにスンとスルーした。なんだ、いつもの発作か。
気を取り直してフォルにじっと視線を返すと、彼は面倒くさそうに深い溜め息を吐いた。
「もしかして、まだ知らないんですか。我が王と初代王弟があなたを欲した理由を」
ぱちくり。わがおう……チェレスが、俺を誘拐した理由ってことか?
それはアレだろ?二大ファミリーをつぶすための策略、みたいな。大きな組織を崩すには、脆いところから狙うってのは定石だからな。俺が脆いって思われているのは癪だけれども。むん。
俺の誘拐事件に関しては、そういうことだと思っていたが。なんて言うと、フォルは呆れ顔をしてふるふると首を横に振った。
「確かに、二大ファミリーの没落もあの傲慢な初代王弟の望みではありましたが……我が王、チェレス様の目的はあなただけでしたよ」
「チェレスとダミアーノは共通の目的を掲げていたと思っていたけれど、そうではなかったの?」
フォルの発言に気になることがあったのか、ふいにロキが背後から問い掛ける。
するとフォルはロキを一瞥し、すぐにぷいっとそっぽを向いた。つまり、ロキの質問を無視したというわけである。うーむ、主人に似て命知らずさんね……。
案の定ニコニコ笑顔で怒りオーラを纏いだすロキ。そんなロキをどーどーと鎮めつつ、今度は俺からロキの問いを口にしてみる。
「チェレスとダミアーノは、ちがう目的を持ってたのか?」
そろりそろりと問い掛ける。フォルはそっぽを向いていた顔を戻すと、俺にチラッと視線を向けて頷いた。
「えぇ。大方の目的は王位獲得で共通していましたが、その過程では目的がすれ違うことが多々ありました。十年ほど前の暗殺ギルドに関わる件では、特に衝突が多かったと記憶しています」
「十年くらい前の、あんさつぎるど……」
そこまで聞いて、賢い俺はぴこぴこぴこーんっ!と閃いてしまった。
十年ほど前に起きた暗殺ギルドのいざこざというと、ジャックのお姉さんが殺された辺りの件とかか。そういえば、ジャックのお姉さんを殺したという、ジャック以上の実力者については、まだ話を聞いたことがなかったな。
むーんと悩みながら何となく聞いてみると、フォルは何てことなさそうに「あぁ、あの件ですか」と頷いた。
「あれは初代王弟の仕業です。そもそもチェレス様はあの頃、切り裂きジャックに興味をお持ちでは無かったので。例の殺人鬼を欲した故の事件は、全て初代王弟が起こしたものです」
なんと、そうだったのか。それじゃあチェレスは、ジャックの因縁には無関係だったってことか。
うーむ……いや、待てよ?それじゃあ、まだ切り裂きジャックになっていなかった頃の話とはいえ、ダミアーノは初期のジャックと同等、もしくはそれ以上の実力を持った強者ということになる。
アイツ、そんなに強かったのか……俺のこと押し倒してハァハァしてる時と、鎖に繋がれているところしか知らないから分からなかったぞ……。
「二人はそれほど昔から身体を共有していたのか。それって、意識の交代は互いに権限があるのかな?今はダミアーノが身体を支配しているけれど、王弟の意思で表に出ることはできないの?」
何やら気になったらしいロキが声を上げる。すると再びフォルがぷいっとそっぽを向き、ロキがニコニコ笑顔で拳を振り上げた。
それをどーどーと収めつつ、ロキと同じ質問を俺の口からごにょごにょと繰り返す。フォルは視線を戻すと、今度はスルーすることなくつらつらと語り始めた。
「意識は自由に交代できます。どちらにも権限があります。しかし、今チェレス様が表に出てこないのは当然のことかと」
「とーぜんって、なんでだ?」
「チェレス様は臆病なお方ですので。尋問で行われる拷問に、あのお方が耐えられるとでも?」
「むん……おまえ、チェレスのこと好きなのかバカにしてるのか、どっちなんだ……」
こやつ、チェレスへの忠義は並外れたものだけれど、たまーに無礼な発言をかますんだよなぁ……。
まぁ、それは置いといて。チェレスとダミアーノの意識の交代とか、ジャックの件とかは分かったぞ。それはそれとして、最初の『にえさま』発言についても気になるんだぞ。
「おっけーおっけー。それじゃあ、にえさまってのは結局なんなんだ?そういえば、ダミアーノもたまにソレ、言ってた気がするが……」
思い返せば、ダミアーノも初め、俺に対して贄だのなんだのと言っていた気がする。
なんのこっちゃと首を傾げると、フォルは特に隠すことなくフツーに教えてくれた。
「悪魔の儀については聞きましたか」
「うむ。命をいっぱい使って、永久の魂を手にいれるってやつだな」
「えぇ。それによって初代王弟が、己と同じ境遇を辿る子孫の器を転々とし、今に至っているということもご存じですね」
うむうむ、と頷く。ちょっぴり難しくて頭ぐるぐるだけれど、きちんと分かるぞ。
悪魔の儀を実行した後、永久の魂を手に入れたダミアーノは、血族である子孫の身体に憑依しながら今まで生きてきた。
今回はチェレス。どうやら初めは、傍系の血筋であるヴァレンティノ家の優秀な後継者、ロキに憑依しようとしたらしいけれど……それは失敗に終わったらしい。
して、それが『にえさま』発言にどう関係するんだ?きょとんとすると、フォルは何てことなさそうに淡々と答えた。
「詳しいことは把握していませんが、どうやらあなたの無垢な魂は、悪魔の儀によって作られた歪な永久の魂を、限りなく完全なものにすることが出来る最後の材料となるようです」
「うぅむ、うむぅ……む、むじゅかしい」
なんか、とんでもないことを言われたということだけは分かる。
裏を返せばそれしか分からなかった。とうにゅうにゅ眉を寄せる俺に溜め息をこぼしたフォルは、今度はちょっぴり噛み砕いて説明してくれた。
「つまり初代王弟は、未完成の悪魔の儀を、完成形にしようとしているのです。そのために、最後の材料であるあなたの魂を得ようとしている」
「ふむふむ。……な、なんだってー!!」
思ったより壮大そうな計画に、思わずぴゅーんと飛び上がってしまった。ま、まだよくわかんないけど、なんとなくヤベー状況ってのはわかったぞ……。
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