220 / 241
六章
213.おれだけ!
俺は今、夢の中にいる。
それに気が付いてからどれほどの時間が経っただろうか。同じ夢を何度も繰り返しているから、たぶん相当の時間が経過しているはずだ。
魔法をモロに受けて、めちゃんこひどい痛みを感じながら気絶したところまでは覚えている。
目が覚めてすぐ、よっしゃ死んでない!と安心したのは本当に最初の頃だけだ。今はぶっちゃけ、実は死んじゃったんじゃないか説をかなりマジメに推してしまっている。
ここが夢の中なのか、それとも天国なのか地獄なのか。それすらも、そろそろ曖昧になってきた。
「だぁー……いつまでつづくんじゃ、これぇ……」
そろそろ見飽きた。そう思いながらも、もう何度目かのエンディングを迎えた『原作のストーリー』をぼーっと眺める。
夢の内容は、なんと原作小説がそのまま現実に反映されたかのようなものだった。
本来結ばれるはずの主人公たち……ロキとアンドレアが数々の困難を乗り越え、結末を迎える。その様子を、俺は幽霊みたいに俯瞰の構図で繰り返し眺め続けているのだ。
ぶっちゃけ、めちゃんこ違和感がすごい。ロキとアンドレアが結ばれるシーンなんて、ちょっぴりゾワゾワしちゃうくらいだ。
あの俺様クールなアンドレアが、しおらしくロキの腕の中に収まっている姿。そこは特にドン引きポイントが強かった。
ちょいまち、アンドレアならそこはロキをぶん殴るところだろ!と思わずツッコみを入れてしまうくらいには、不気味だった。
「むぅ……」
それに何より、一番はこのムカムカが面倒で堪らない。
エンディングが近付く度、結末を迎える度。ロキとアンドレアの恋愛シーンを見てモヤモヤが溜まっていく。ほっぺぷくーして眉を寄せちゃうくらいには、ムカムカしてしまう。
だってだって、夢だと分かっていてもちょっぴりムカつくだろう。あんなに俺に好き好きちゅっちゅしていたロキが、ここではアンドレアにデレデレなんだぞ?
理不尽なことだとは分かっていても、アンドレアに微笑みを向けるロキに怒りが湧いてしまうのだ。
原作ストーリーが始まり、繰り返されてから、これでかれこれ百回目。なんなら全員のセリフを一語一句違わず被せられるくらいの回数は見たと思う。
まぁそういう感じなので、フツーに苛立ちもふつふつと限界に向けて溜まっていくわけだ。
ほっぺぷくぷく、ムカムカぷりぷり。
「む、むぅ……むむぅっ!」
百回目のエンディング。ロキとアンドレアのキスシーン。
前世ではキュンキュンしながら読んでいたその場面を見て、俺はとうとう限界を迎えてしまった。
「いいかげんにせんかぁーいッ!」
ムッキーッ!とぷりぷりしながら二人のもとへ突撃する。
霊体的なアレだから、きっとすり抜けちゃうだろうなーと思いつつ、エアパンチを食らわせるために突撃したわけだが……
「あぶッ!?」
あべしっ!と二人の身体にぶち当たり、筋肉質な二人よりよわっちくて小さい俺の身体が後方にすってんころりんと吹っ飛ぶ。
なぬっ!いま何に当たったんだ!?とらんぽりんかっ!?とアホみたいな衝撃を受けながらそろりと起き上がった。ちょっと、割とガチでビビったぞ。
「なんっ、なん、なんだっ!なにが起きたっ!」
アクション漫画のモブみたいなセリフを吐きながら、目をぐるぐると回して立ち上がる。
あわわっと慌てながらも視線を上げてギョッとした。な、なんか、二人が俺のことをじっと見下ろしているような気が……。
いやいや!そんなはずないんだぞ。今の俺はふよふよ幽霊、そしてここは夢の中!二人とまともに目が合うなんて、そんなことあるわけ……
「……何だこのガキは。何処から出てきた」
「せっかくイイところだったのに、邪魔されちゃったね」
ぎょえぇっ!見えとる!しっかりきっちりおめめぱっちりなんだぞぉーっ!
あばばっとめちゃんこ焦りつつ数歩後退り、ゴミを見る目を向けてくる二人を見つめ返して涙ぐむ。
ひ、ひどいぞ……二人とも、どうしてそんな目で俺を見るんだ。いつもの優しさが微塵も籠っていない、まるで互い以外はどうでもいいスタンスだった原作でのロキアンみたいな目で……。
「あ、あばっ、あばばっ……ぴえぇッ!?」
ぷるぷる震えていると、ふいにジロッとめちゃんこ怖い睨みを向けてきたアンドレアが、どこからか取り出した拳銃を構えた。
銃口を真っ直ぐ向けられ、思わずあぴゃーっと涙を溢れさせる。ア、アンドレアに銃口向けられた!夢でも悲しいぞ!しょんぼりだぞ!
「邪魔なガキだな、殺すか」
「こーら。アンドレアったら、そんなガキほっといて俺のことだけ見てよ。妬けちゃうなぁ」
「……馬鹿なことを言うな」
「ふふ、照れてるの?かーわいー」
ぞぞぞわぁッ!ぞわわぁッ!
目の前で繰り広げられるイチャイチャタイム。全身に鳥肌が立ってぶつぶつする。あれ?小説を読んでいた時はキャッキャしていたのに、今は全然微笑ましくないんだぞ……。
赤面するアンドレアの頬に手を添え、甘い笑みを浮かべるロキ。
や、やめろだぞ。ムカムカとかモヤモヤとかの前に、ちょっぴりドン引きなんだぞ。申し訳ないけれど、普段の殺し合う二人ばかり見ている俺からすると、めちゃんこ違和感しかないんだぞ。
「んぐ、んぐぐぅ……」
もどかしい気持ちを抱えながら夢を見守り続けていたが、もう限界だ。
ロキとアンドレアが互いに顔を寄せ合う。二人の唇がごっつんこしそうという正にその時、俺はムッキー!とほっぺを膨らませて二人の間に割り込むみたいに飛び込んだ。
「むむぅッ!原作がなんぼのもんじゃぁーいッ!」
俺が飛び込んだことで、二人が慌てたように後退る。間に距離が出来たことを確認して、今度はロキにとりゃあっ!と飛び掛かった。
「──ロキとちゅーしていいのはおれだけじゃあぁーッ!」
むぎゅっと抱き着く。視界が真っ暗に染まる。
ぽすっとロキに抱き着いた感覚が、なんだか妙にリアル味があって。それがとっても気になったものだから、俺は不思議に思いながらそーっと身体を離した。
「──……ほぇ?」
目の前に見えたのは、真っ赤な顔をして固まったロキの姿。
その奥には見慣れたベッドの天蓋。背中に感じるのはふかふかの感触。
なんだか急に景色が変わったような……とぱちくりした直後、目の前のロキがふいにぽつりと呟きを零した。
「ル、ルカちゃ……いま、なんて……」
ロキの赤い瞳が、徐々に熱っぽく潤んでいく。
なんだか妙に距離が近い気が……?と首を傾げると同時に、ロキが感極まった様子で更に顔を近付けてきた。
唇にむにゅっと柔いそれが触れ、カッと目を見開いた。
「──んむっ!?」
ななっ!なんで急にちゅーするんだッ!?
さっきまでアンドレアとちゅっちゅしてたくせにぃ……!という苦言は、ロキの情熱的すぎるちゅーによってむぐむぐと塞がれてしまった。
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
処刑エンドの悪役公爵、隠居したいのに溺愛されてます
ひなた翠
BL
目が覚めたら、やり込んだBLゲームの悪役公爵になっていた。
しかも手には鞭。目の前には涙を浮かべた美少年。
——このままじゃ、王太子に処刑される。
前世は冴えない社畜サラリーマン。今世は冷徹な美貌を持つ高位貴族のアルファ。
中身と外見の落差に戸惑う暇もなく、エリオットは処刑回避のための「隠居計画」を立てる。
囚われのオメガ・レオンを王太子カイルに引き渡し、爵位も領地も全部手放して、ひっそり消える——はずだった。
ところが動くほど状況は悪化していく。
レオンを自由にしようとすれば「傍にいたい」と縋りつかれ、
カイルに会えば「お前の匂いは甘い」と迫られ、
隠居を申し出れば「逃げるな」と退路を塞がれる。
しかもなぜか、子供の頃から飲んでいた「ビタミン剤」を忘れるたび、身体がおかしくなる。
周囲のアルファたちの視線が絡みつき、カイルの目の色が変わり——
自分でも知らなかった秘密が暴かれたとき、逃げ場はもう、どこにもなかった。
誰にも愛されなかった男が、異世界で「本当の自分」を知り、運命の番と出会う——
ギャップ萌え×じれったさ×匂いフェチ全開の、オメガバース転生BL。
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ