異世界マフィアの悪役次男に転生したので生き残りに励んでいたら、何故か最強の主人公達に溺愛されてしまった件

上総啓

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六章

213.おれだけ!



 俺は今、夢の中にいる。
 それに気が付いてからどれほどの時間が経っただろうか。同じ夢を何度も繰り返しているから、たぶん相当の時間が経過しているはずだ。

 魔法をモロに受けて、めちゃんこひどい痛みを感じながら気絶したところまでは覚えている。
 目が覚めてすぐ、よっしゃ死んでない!と安心したのは本当に最初の頃だけだ。今はぶっちゃけ、実は死んじゃったんじゃないか説をかなりマジメに推してしまっている。
 ここが夢の中なのか、それとも天国なのか地獄なのか。それすらも、そろそろ曖昧になってきた。


「だぁー……いつまでつづくんじゃ、これぇ……」


 そろそろ見飽きた。そう思いながらも、もう何度目かのエンディングを迎えた『原作のストーリー』をぼーっと眺める。

 夢の内容は、なんと原作小説がそのまま現実に反映されたかのようなものだった。
 本来結ばれるはずの主人公たち……ロキとアンドレアが数々の困難を乗り越え、結末を迎える。その様子を、俺は幽霊みたいに俯瞰の構図で繰り返し眺め続けているのだ。

 ぶっちゃけ、めちゃんこ違和感がすごい。ロキとアンドレアが結ばれるシーンなんて、ちょっぴりゾワゾワしちゃうくらいだ。
 あの俺様クールなアンドレアが、しおらしくロキの腕の中に収まっている姿。そこは特にドン引きポイントが強かった。
 ちょいまち、アンドレアならそこはロキをぶん殴るところだろ!と思わずツッコみを入れてしまうくらいには、不気味だった。


「むぅ……」


 それに何より、一番はこのムカムカが面倒で堪らない。
 エンディングが近付く度、結末を迎える度。ロキとアンドレアの恋愛シーンを見てモヤモヤが溜まっていく。ほっぺぷくーして眉を寄せちゃうくらいには、ムカムカしてしまう。
 だってだって、夢だと分かっていてもちょっぴりムカつくだろう。あんなに俺に好き好きちゅっちゅしていたロキが、ここではアンドレアにデレデレなんだぞ?

 理不尽なことだとは分かっていても、アンドレアに微笑みを向けるロキに怒りが湧いてしまうのだ。
 原作ストーリーが始まり、繰り返されてから、これでかれこれ百回目。なんなら全員のセリフを一語一句違わず被せられるくらいの回数は見たと思う。

 まぁそういう感じなので、フツーに苛立ちもふつふつと限界に向けて溜まっていくわけだ。
 ほっぺぷくぷく、ムカムカぷりぷり。


「む、むぅ……むむぅっ!」


 百回目のエンディング。ロキとアンドレアのキスシーン。
 前世ではキュンキュンしながら読んでいたその場面を見て、俺はとうとう限界を迎えてしまった。


「いいかげんにせんかぁーいッ!」


 ムッキーッ!とぷりぷりしながら二人のもとへ突撃する。
 霊体的なアレだから、きっとすり抜けちゃうだろうなーと思いつつ、エアパンチを食らわせるために突撃したわけだが……


「あぶッ!?」


 あべしっ!と二人の身体にぶち当たり、筋肉質な二人よりよわっちくて小さい俺の身体が後方にすってんころりんと吹っ飛ぶ。
 なぬっ!いま何に当たったんだ!?とらんぽりんかっ!?とアホみたいな衝撃を受けながらそろりと起き上がった。ちょっと、割とガチでビビったぞ。


「なんっ、なん、なんだっ!なにが起きたっ!」


 アクション漫画のモブみたいなセリフを吐きながら、目をぐるぐると回して立ち上がる。
 あわわっと慌てながらも視線を上げてギョッとした。な、なんか、二人が俺のことをじっと見下ろしているような気が……。
 いやいや!そんなはずないんだぞ。今の俺はふよふよ幽霊、そしてここは夢の中!二人とまともに目が合うなんて、そんなことあるわけ……


「……何だこのガキは。何処から出てきた」

「せっかくイイところだったのに、邪魔されちゃったね」


 ぎょえぇっ!見えとる!しっかりきっちりおめめぱっちりなんだぞぉーっ!

 あばばっとめちゃんこ焦りつつ数歩後退り、ゴミを見る目を向けてくる二人を見つめ返して涙ぐむ。
 ひ、ひどいぞ……二人とも、どうしてそんな目で俺を見るんだ。いつもの優しさが微塵も籠っていない、まるで互い以外はどうでもいいスタンスだった原作でのロキアンみたいな目で……。


「あ、あばっ、あばばっ……ぴえぇッ!?」


 ぷるぷる震えていると、ふいにジロッとめちゃんこ怖い睨みを向けてきたアンドレアが、どこからか取り出した拳銃を構えた。
 銃口を真っ直ぐ向けられ、思わずあぴゃーっと涙を溢れさせる。ア、アンドレアに銃口向けられた!夢でも悲しいぞ!しょんぼりだぞ!


「邪魔なガキだな、殺すか」

「こーら。アンドレアったら、そんなガキほっといて俺のことだけ見てよ。妬けちゃうなぁ」

「……馬鹿なことを言うな」

「ふふ、照れてるの?かーわいー」


 ぞぞぞわぁッ!ぞわわぁッ!
 目の前で繰り広げられるイチャイチャタイム。全身に鳥肌が立ってぶつぶつする。あれ?小説を読んでいた時はキャッキャしていたのに、今は全然微笑ましくないんだぞ……。

 赤面するアンドレアの頬に手を添え、甘い笑みを浮かべるロキ。
 や、やめろだぞ。ムカムカとかモヤモヤとかの前に、ちょっぴりドン引きなんだぞ。申し訳ないけれど、普段の殺し合う二人ばかり見ている俺からすると、めちゃんこ違和感しかないんだぞ。


「んぐ、んぐぐぅ……」


 もどかしい気持ちを抱えながら夢を見守り続けていたが、もう限界だ。
 ロキとアンドレアが互いに顔を寄せ合う。二人の唇がごっつんこしそうという正にその時、俺はムッキー!とほっぺを膨らませて二人の間に割り込むみたいに飛び込んだ。


「むむぅッ!原作がなんぼのもんじゃぁーいッ!」


 俺が飛び込んだことで、二人が慌てたように後退る。間に距離が出来たことを確認して、今度はロキにとりゃあっ!と飛び掛かった。


「──ロキとちゅーしていいのはおれだけじゃあぁーッ!」


 むぎゅっと抱き着く。視界が真っ暗に染まる。
 ぽすっとロキに抱き着いた感覚が、なんだか妙にリアル味があって。それがとっても気になったものだから、俺は不思議に思いながらそーっと身体を離した。




「──……ほぇ?」




 目の前に見えたのは、真っ赤な顔をして固まったロキの姿。
 その奥には見慣れたベッドの天蓋。背中に感じるのはふかふかの感触。

 なんだか急に景色が変わったような……とぱちくりした直後、目の前のロキがふいにぽつりと呟きを零した。


「ル、ルカちゃ……いま、なんて……」


 ロキの赤い瞳が、徐々に熱っぽく潤んでいく。
 なんだか妙に距離が近い気が……?と首を傾げると同時に、ロキが感極まった様子で更に顔を近付けてきた。
 唇にむにゅっと柔いそれが触れ、カッと目を見開いた。


「──んむっ!?」


 ななっ!なんで急にちゅーするんだッ!?

 さっきまでアンドレアとちゅっちゅしてたくせにぃ……!という苦言は、ロキの情熱的すぎるちゅーによってむぐむぐと塞がれてしまった。

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