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六章
214.熱の籠った
しおりを挟む「はぅ、ん、むぅー……」
口の周りがそろそろべっちゃべちゃになってきたんじゃないか?
そう思うくらいの情熱的なきっすが、もう数分ほど続いている。流石の俺も顔を真っ赤に染める照れムーヴを通り越して、いい加減にしろだぞという呆れムーヴに突入してしまった。
ロキが感極まったような、とっても嬉しそうな様子で俺の唇に食らいつく。
一体なにがそんなに嬉しいんだよぅ、という問いは紡がれることはなく、声は全てロキの唇によって塞がれてしまった。むぐむぐ、むぐぅ。
そんな情熱きっすが始まってから早数分。やがて、ついにそのちゅっちゅが終わる時が訪れた。
「ん……はぁ」
色っぽい吐息を吐きながら、ロキがそっと顔を離す。
自由になった口でふんっとおっきな息を吐いて、吸って……だぁー生き返るんじゃぁー。
袖でべちゃべちゃになった口周りをごしごし拭っていると、同時に頭をよしよしと撫でられた。
なんぞ?と視線を上げると、甘く蕩けるような笑みを浮かべたロキと目が合う。ぱちくりする俺を見下ろして、ロキは何やら意味わかんないことを言い出した。
「ふふっ……心配しなくても、俺はルカとしかキスしないよ。ルカったら、俺を誰かに盗られる夢でも見てたの?キスしていいのは俺だけとか……んふふ、ルカのえっち」
ぞわ、ぞわわ、ぞわわわぁッ!
なんだなんだ、目覚めて早々なんだこの意味不ロキは!なんか一人でウフフアハハしちゃってるぞ。
それに、何だかロキの手も妖しい。さっきから俺の太ももとかお腹とかをなでなでしやがっている。おいおいふざけるなだぞ。俺ってば一応アレだろ?怪我人じゃんか。怪我人を襲うとかサイテーの極みなんだぞ。ドン引きなんだぞ。
ぺちぺちっとロキをぶん殴りつつ、妖しい手から逃れてのそのそと起き上がる。
いや、起きあがろうとして……ふいに心臓の下辺りに走った激痛によって倒れ込んでしまった。
「はぅっ!」と呻いてばたんきゅーって感じだ。いてててて……。
「あぁダメだよルカ。傷口は塞がっているけど、まだ安静にしていないと」
「うぅ、いちゃいぃ……ふえぇっ」
「うんうん、いちゃいねぇ。ほらおいで、ぎゅってしてあげる」
優しいお叱りを受けながら、ロキにひょいっと抱き上げられる。
涙目でむぐむぐと嗚咽を堪える俺を、ロキは優しく包み込むみたいに抱き締めてくれた。ポンポンと至るところを撫でられてほぅっと息を吐く。
この優しさ……間違いない、いつものロキだ。景色が変わって、感触にリアル味が増した瞬間から気付いてはいたけれど……よかった、本当にきちんと目覚められたみたいだな。
あの夢の中にいたロキじゃない。それを改めて実感してようやく、俺はロキをぎゅうっと抱き締め返した。
むぎゅむぎゅ、ぎゅっぎゅ。えへへ、ロキあったかい、ぽかぽかなんだぞ。えへへ。
「ろきぃ」
「うん。ロキだよ。ちゃんとここにいるからね」
うりうりと胸元に頬擦りすると、ロキが髪を梳くみたいによしよしと撫でてくれる。
それにふにゃあっと緩い笑みをこぼしながら、俺も更に強く抱き着いた。腕だけじゃなく足もむぎゅっと回してっと。よし、コアラ抱っこの完成だぞ。えっへん。
てな感じでのほほんとしていたが、やがてそういえば……と疑問が湧いたのでスンと動きを止めた。
きょとんと首を傾げるロキを見上げて「ねーねー」と裾を引っ張る。なぁに?と微笑むロキに、ふいに湧いたその疑問をぶつけてみた。
「おれ、どのくらい寝てたんだ?一日くらいか?みんな心配しちゃってるかな」
ぱちくり、と至って純粋な瞳を向けながら問うと、ロキはへにゃっとよく分からない苦笑を零した。
なんだなんだ、なんなんだその苦笑いは。おれ、なんかおかしなことでも言ったか?
むむぅ?と眉を寄せる俺をムニュムニュと撫でながら、ロキはサラッととんでもない答えを発した。
「二週間だよ」
「……むぅ?」
「ルカちゃんが倒れてから、今日で二週間が経ったよ」
淡々と語られたそれに、サーッと顔が青褪めた。
ピタッと硬直した身体をぎゅっぎゅと抱き締められる。楽しそうにうりうりぎゅっぎゅしているところ悪いけれど、今そんな場合じゃないんだぞ。やめろだぞ、どさくさに紛れてちゅーするなだぞ。
「にににっ、にしゅーかんッ!?」
「うん。二週間」
「ほえぇぇッ!」
ナヌーッ!とびっくり仰天。ピーンと万歳の形で両腕を挙げてびっくり!を表現する。
にに、二週間だと!寝坊どころの騒ぎじゃなくてあわわだぞ!俺ってばちょっぴり寝すぎだぞ!
でも確かに……考えてみれば、原作ストーリーを百回繰り返し見てから目覚めたのだから、そりゃあ結構な時間が経つに決まっているよな……。
いや、それにしてもだぞ。二週間て。プチ植物状態ってやつじゃないか。むん……。
「はわ、はわわ……おれってば、おねぼうさんだぞ……」
「ほんと、お寝坊さんだね。全然起きないから、とっても心配したよ」
「うぅ……ごめんなさいだぞ……」
ぷるぷると涙目で震える俺を、ロキがぎゅーっと抱き締める。
ふにふにと頬擦りされながら、俺はロキにぎゅぎゅっと抱き着いて呟いた。
「心配かけて、ごめんなさいだぞ」
ぽつりと零したそれに反応してロキが顔を上げる。
とっても優しい、蕩けるような微笑みが向けられ、ちゅっと淡いちゅーをされた。
「ん……いいの、謝らないで。俺の方こそ、本当にごめんね」
眉尻を下げるロキを見上げてきょとんと瞬く。
どうしてロキが謝るんだ?とぱちくりして、やがてハッと思い出した。そっか、そういえば俺、ロキを庇って大けがしたんだ。
ロキってば、あのことを申し訳なく思っているのか?ふんふん、まったくおバカさんだな。ごめんなさいする必要なんてなーんにもないのに。
ふんす!と胸を張って、ロキをよしよし撫でながら笑顔を向けた。
「ロキはごめんなさい言わなくていいんだぞ!おれが勝手に助けただけだからなっ!おれが、おれが……ロキが痛いって泣いちゃうのが、イヤだっただけだからな。むん……」
最後の方はちょっぴり照れくさくなって、真っ赤な顔でもごもごと語ってしまった。
けれどしっかりと聞こえたようで、ロキが表情を綻ばせて笑う。俺を見つめる瞳には、熱っぽい何かととてつもないほどの愛情が籠められているように感じた。
「うん、うん……ごめんね、ありがとう……」
嬉しそうに、ちょっぴり瞳を潤ませるロキ。
その姿があんまりにも健気に見えたから、諦めてむんっと全身から力を抜いた。
しょーがないなーだぞ。ほれ、俺は太っ腹だからな。好きなだけちゅっちゅしろだぞ。
むぐむぐと何とか呼吸をしながら、廊下からドタドタと足音が鳴り響いてくるまで、俺はロキのちゅっちゅ攻撃を大人しく受け入れた。
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