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六章
225.不意打ちのプロポーズ
「よし、よし。おれってば天才だぞ。迷わなかったぞ」
てくてくっと歩き、ようやく目的地に近付いてきた。
噴水のざざーっという音が微かに聞こえて、むふふと得意気に笑う。完全勝利だぞ、迷子にならずにしっかり辿り着くことが出来たんだぞ。えっへん。
これはついたらまずロキに褒めてもらわんとなーと上機嫌に鼻歌を歌いながら、薔薇に囲まれた道を抜けて開けた場所に出た。
まず見えたのは大きな噴水。その向こうにある純白のガゼボ。
一瞬、おや?と瞬いた。水越しに見えるガゼボに、見慣れた数人の人影があったような気がしたから。けれどすぐに手前に焦点がいったから、その人影の正体を考える間もなかった。
「ロキ!」
噴水の前に立っていたのは、何やらそわそわと忙しない様子のロキだった。
俺の呼びかけにハッと振り返り、ふにゃっと嬉しそうな笑みが浮かぶ。本当に心底幸せそうな笑顔だったから、不意打ちでドキッと胸が高鳴った。
な、なんなんだまったく。急にそんな笑顔向けられたら、俺ってばドキドキしちゃうんだぞ。
ふんふん……と照れくささを隠しつつ駆け寄る。近付いたところで、ふいに違和感を悟ってぱちくり瞬いた。
「むん?ロキ、今日なにかあるのか?いつもよりとってもクールなんだぞ」
気になったのはロキの服装。舞踏会で着るような綺麗な正装姿のロキに、きょとんと首を傾げた。
純白を基調とした衣装。膝下まであるペリースは、裏面がロキの瞳と同じ赤色の、とっても高価そうな代物だ。そして両手には、とっても大きな薔薇の花束を抱えている。
なんだなんだ?と瞬きながら更に近付き、ロキの正面まで進む。するとロキは、微かに頬を染めながら突然地面に跪いた。
「ほぇっ!?ロキ、どしたんだっ?」
びっくり仰天してぎょえーっとなる俺を、ロキが熱く蕩けた瞳で見つめる。
ロキは俺におっきな花束を差し出すと、珍しく緊張したような面持ちで囁いた。
「──俺と、結婚してください」
ピタッ!と身体が硬直する。
あまりに予想外のセリフだったから、驚愕とか衝撃よりも先にポカーンと固まることしか出来なかった。まるで俺だけ時間が止まっちゃったみたいな、そんな感じだ。
そしてその間も、ロキは緊張を表情に滲ませて返事を待ち続ける。差し出された花束がぷるぷる震えているのは、きっとロキの手が緊張で震えているからだろうと冷静に悟った。
数秒……いや、数十秒ほど遅れて、ようやく全身が足先から頭までぷしゅーっと赤く染まる。
「は、はわっ」と口元に当てた手をすぐに伸ばして、ずっと差し出されていた花束をよっこらせと受け取った。
その瞬間、ロキの赤い瞳が期待を宿してキラキラと輝く。
「あぅっ……し、したいぞ。おれも、ロキとけっこん……」
下手をすれば俺の胴体と同じくらいの大きさの花束を、ぎゅっと抱えてもごもご答える。
なぜだかほろりと零れた涙をそのままに、ふにゃっと頬を緩めると……ロキはそんな俺の表情を見て目を瞠り、同じように瞳を潤ませた。
けれど浮かんでいるのは今までで一番嬉しそうな笑顔で、それを見ると俺まで嬉しくなって、心がほくほくぽかぽかと温かくなった。
同時に涙の勢いもぽろぽろと強くなって、数秒後にはぶえぇっ!とぐしょぐしょの泣き顔を晒してしまった。
「しゅ、しゅきだじょ……ロキ、好きだぞぉー……ふえぇぇ!」
「あぁもう、どうして泣くの。ルカったら、ほんと可愛いんだから」
ぎゅうっと抱き締められ、腕の中で「だってだってぇ!」と思い切り泣き喚く。
ロキってばサプライズが過ぎるんだぞ。婚約も結婚も、決まった時は割とスンッて感じだったし、流れるような怒涛の展開だった。プロポーズなんて何度もサラッとされていたし、俺もそれをサラッと受け入れた。このままサラッと結婚するもんなんだろうなって思っていた。
だから当然、こんな不意打ちのプロポーズなんて想像もしていなかった。
ロキがこんなに着飾って、しっかりプロポーズの場を用意して、薔薇の花束なんてものも準備して……これほど本気のプロポーズをしてくれるなんて、俺が予想できたはずもない。
驚愕がようやく追いついたからか、それとも喜びが許容量を超えたからなのか。まったく止む気配のない号泣を晒す俺を、ロキは幸せそうな顔をしてぎゅっと抱き締め続けた。
「俺も愛してるよ。プロポーズもね、しっかりしたかったんだ。やっと結婚を認めてもらえたから、嬉しくて、気が早まっちゃって……起きたばかりでまだ眠いだろうに、急かしちゃってごめんね?」
ぶんぶんっと首を横に振る。ぐっしょり濡れた顔をロキの肩に埋めてむぐむぐと答えた。
「うぅん……おれ、ひとりで起きたんだぞ。二度寝しなかったぞ。ぱっちり、目が覚めたんだぞ。ロキに、あいたくて……おれ、がんばっておきたんだぞ。ここに来るときも、迷わなかったぞ……」
瞳を潤ませてそう言うと、ロキも一筋涙を零しながら、幸せそうに綻んだ微笑みで頷いた。
「うん、うん。そっか、そっか。頑張って起きたんだね。迷わないで来られて、偉いね。ルカはとってもえらい。いい子だね。俺のためにありがとう。ありがとう……好きだよ、愛してる……」
肩に埋めた顔をそっと持ち上げられる。ほっぺに大きな手を添えられて、額にちゅっちゅと口づけられた。いつもならぺちぺちっと抵抗して離れているところだけれど、今だけは素直にそれを受け止めて、俺もお返しするみたいにロキのほっぺにちゅーをした。
「ッえ、えぇっ!」
俺がちゅーすると、ロキが頬に手を当ててぎょっと仰け反る。
真っ赤な顔が面白くて、離れる顔を追っかけて何度かちゅーを繰り返す。やがてロキはかぁっと赤く染まったまま、俺をぎゅっと抱き締めてうりうり揺さぶった。
「なッ、なんなの、もうッ!ルカちゃんったら、急に小悪魔になっちゃって……俺をどうしたいの!?殺したいの!?」
「むっ!おバカなこと言うなだぞ。ロキ大好きだぞ。ずっと一緒だぞ。死ぬなだぞ」
錯乱するロキをむぎゅーっと抱き締めてむんむんと拗ねた顔を向ける。
するとロキがハッとしたように目を瞠って、俺にちゅっちゅ攻撃を仕掛けながら「ごめんね!」と声を上げた。
「うぅっ、小悪魔なルカちゃんも好きすぎる……どんなルカちゃんも愛してるーっ」
「えへ。そか、そかぁ。むへへ。おれも、ロキのこと全部好きだぞ?」
「ぐあぁッ!破壊力ッ!」
こてんと首を傾げて言うと、ロキは限界でござると言わんばかりに倒れ込んだ。
「ルカちゃんすきすき、あいしてるー」と縋り付いてくるロキをぎゅっぎゅしていると、ふいに複数の大きな影がかかってきょとんと瞬いた。
見上げた瞬間、ぎょっと息を呑んだ。
「くそ。不愉快で見てられん」
「くッ……その通りだな。実に不愉快だ。くッ……」
「そんなこと言って、アロルドってばガチ泣きしてたじゃないか。というか、今も泣いてるじゃないか」
そこにいたのは、むぅーっと不貞腐れた顔をしたアンドレアと、ハンカチで目元を覆った父、そしてそれを苦笑しながら見据えるリカルド様だった。
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