出来損ないの次男は冷酷公爵様に溺愛される

栄円ろく

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番外編(短編)

書籍化記念SS①

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 お待たせいたしました! 書籍化記念SSです!

 一作目は、第一章のテニスをした後のお話……


 「うわぁ……すごい真っ赤だ……」

 風呂上がりに鏡を見ると、目の周りがぱんぱんに腫れた自分の顔が写っていた。

 もう明らかに『号泣しました!』と全顔で訴えていて、羞恥で頬が赤くなる。

 う、うぅ……今まで泣くことなんて、ほとんど無かったのに……

 父の鞭打ちにも食事抜きの罰にも、悲しい気持ちにはなったけれど泣くまではいかなかった。

 だから余計に恥ずかしい。二十歳にもなって子供みたいに顔を腫らしてしまうなんて……

 「どうしよう……明日ライア様にどんな顔で会えばいいんだ……」

 洗面器に手をつきうなだれる。その時、部屋の扉がノックされた。

 「ジル様、いらっしゃいますか?」

 「あ、はい。なんでしょうか?」

 先ほど別れたナティさんの声がして、首を傾げる。

 どうしたんだろう? さっきは去り際に『早く寝てくださいね』と釘を刺していたのに。

 洗面器から離れて扉のほうへ行くと、ちょうど桶を持ったナティさんと、タオルを持った使用人の女の子が入ってくるところだった。

 ナティさんはいつものすんっとした表情だ。しかし女の子のほうは、俺の顔を見てぎょっと目を見開いた。

 「あっ、す、すみません……変な顔で……」

 「いえ、そんなことはございません」

 動揺している女の子に代わってナティさんが答える。

 いや、そんなことはあると思うけどなぁ……なんて苦笑いをしたら、ナティさんが桶を差し出した。

 「きっと目を腫らしているだろうから、氷を持っていってくれと。ライア様からのご指示です」

 「えっ、ライア様が?」

 差し出された桶を受け取ると、中で氷がカランと音を立てた。

 ライア様はすごいな……慰めるだけじゃなくて、気までつかえるなんて。

 ふとした優しさが心に染みて、緩んでしまった涙腺がまた熱くなり始める。

 俺は慌てて目元を擦り、「ありがとうございます」と頭を下げた。

 「いえ、お礼は明日ライア様にお伝えくださいませ」

 「はい。わかりました……でも、ナティさんも、書類の選別本当にありがとうございます。今日はしっかり寝て、明日からがんばりますね」

 精一杯の笑顔を作ると、束の間の沈黙が訪れる。

 あれ、変なことしちゃったかな? と後悔しかけたところで、「さぁ、タオルをお渡しして」とナティさんが静かに言った。

 「あ、は、はい!」

 女の子は慌ててタオルを差し出し、二人は一礼して部屋を出ていく。
 俺が扉を閉めようとドアノブに手をかけたとき、

 「は、破壊力すごかったです……!」
 「でもだめよ。あなたに勝ち目は無いわ」
 「わかってますよ! でもさすがにライア様、テニスでいじめすぎじゃないですか?」

 という会話が聞こえてきて、俺は『なんの話だろう?』と思いながら扉を閉めた。







 そしてこの後使用人たちの間で「ジル様は、ライア様に泣くほどこてんぱにされたらしい!」という噂が立つことになるのです……ジルは別に負けてないのに……

 ということで、明日は新年度祭でやきもきするライア様視点のお話です!
 お楽しみに!
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