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番外編(短編)
書籍化記念SS②
しおりを挟む今日は新年度祭のとある出来事のお話……
「じゃあ僕は実験があるのでお先に失礼します」
ウェスが一礼して私のそばを離れる。今日の新年度祭も遅れてきたし、実験が山場なのだろう。私は頷き、ウェスの背中を見送った。
視線を会場に戻すと、フェルを探しているジルの茶髪が見える。出会った頃はパサパサだった毛質も、今じゃ見違えるように艶やかだ。
ふっ、私の元で生活しているからな。それは綺麗にもなるだろう。
自分が育てたわけではないが、どこか誇らしげな思いで立っていたら、ふら~っとどこぞの貴族がジルに近づいて行った。ん? と訝しんでいる間に、男はニコニコとジルに話しかけている。
なんだあいつは。やけにジルと距離が近いな。
心の中をもやもやさせていると、男がジルの肩を触った。それも軽く叩く感じではなく、いやらしく撫でるように。
プッチーンと何かが切れる音がしたあと、気づいたときにはジルの横に立って、男の手を掴んでいた。
「どうされたかな? ジルにご用件でも?」
誰の許可をもらって触ってるんだ、と目で殺すと、男はしどろもどろになって私の手を振り払う。そのまますぐに帰って行ったので、深追いはしないでやった。
「ライア様……? 俺に用事ですか?」
「いや、あ、まぁ、そうだな……」
苛立って考えるより先に体が動いていた、なんて言えるはずもなく、私は適当に言葉を濁す。するとジルがふわりと笑った。
「よかった。なんかあの人圧がすごくて……『私の家に来ないか』ってずっと言ってきて困ってたんです」
「えっ」
それは、求婚? もしくは愛人の誘い……?
焦りと動揺で目を震わせていると、ジルがあっけらかんと
「でも俺はライア様の元で働きたいので、あなたのところでは働けませんってお断りしたんですよ。なのになんかうまく伝わんなくて……」
はぁ、困ったように呟いていて、私は思わず脱力しそうになった。
……よかった、ジルが鈍感で。いや、それで私も困っている部分はあるのだが。
「……ジル、なるべく私の目の届くところにいてくれ」
「えっ? やだぁなぁーライア様。俺もそこまで子供じゃないですよ~」
おかしそうに笑う笑顔は大変可愛らしい。それに釣られた変な虫が寄ってこなければ、私も素直に頭を撫でているのに。
「はぁ……身なりを整えるのも考え物だな……」
「えっ? ライア様大変似合ってますよ?」
そうじゃない、とつっこむ代わりに、ジルに近づいてきた虫にひと睨みを効かせた。
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