婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

栄円ろく

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 「ん? どうしたの?」

 「いや……やっぱり浮気は、隠れてするのが楽しいんだなって」

 アデルの視線の先に目をやると、中庭の大きな銀杏が葉を落としているところだった。その黄色く色づいた葉の隙間に、桃色と銀色がちらつく。

 「あっ」

 「気づいちゃった?」

 この前の中庭とは違うけれど、たしかにここも人目につきにくい。
 俺は『ああ、たしかにな。逢瀬をするにはぴったりだ』と、どこか他人事で納得していた。

 「……まだ好きなの?」

 「え?」

 「彼女のこと。あんなひどいことしてるのに」
 耳に届く声は、ひんやりと冷たい。俺はやっぱり、嘘に包まれた甘い声より、こっちのほうが好きだなと思った。

 「……好き、というよりは、大事にしたいと思える人かな……」

 「大事にしたい?」

 「そう。困っていたら、助けてあげたくなるというか……」

 「ふーん、なんで?」

 「な、なんで??」

 「なんで彼女をそこまで大事に思えるの?」

 アデルはどこか責めるような口調で聞いてくる。意味がわからないけれど、答えないともっと空気が悪くなりそうなのは明白だった。

 「それは、その……」

 ソフィーの柔らかな笑みと、温かな眼差しを思い出す。誰にでも優しく、誰にでも手を差し伸べる。まさに聖女のような子だった。

 「……彼女だけが、俺を心配してくれたんだ。魔力欠乏症と診断されて、その翌年に母が亡くなって……みんなが俺に冷たくする中、彼女だけが『セム様、大丈夫ですか?』って、声をかけてくれた」
 
 前世の記憶もあったから、使用人や父に冷たくされても『ああーそりゃそうだよなぁー』ぐらいでそこまで傷つきはしなかった。

 それよりも実家に捨てられないようにどうしようか考えて、とりあえず勉強に打ち込んでいたときだ。

 まだ十一歳の彼女が、俺を心配して家まで来てくれた。

 俺はそのとき、純粋に『すごいな』って感心した。だって十一歳の頃なんて自分のことしか考えられないし、他人を心配する頭なんてなかった。

 きっと、この子は本当に心根が優しい子なんだ。

 そう思うには十分な出来事で、また同時に、彼女が困ったら俺も助けてあげようと思った。

 だから異性として好きと言うよりは、可愛い妹に近い感覚かもしれない。

                                      
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