婚約者が義弟と不貞を働いていたので、俺も隣国の皇子と浮気します

栄円ろく

文字の大きさ
47 / 64

47

しおりを挟む
 それからアデルには『春休みが終わるまで少し考えさせて欲しい』と言って、別れを告げた。ヴィリは全てを知っていたのか、帰り際に「アデル様の件で困ったことがあればいつでもご連絡を」と言って、とある住所が書かれたメモをくれた。

 春休みが終わるまでの三日間、一度もアデルとは会うことが無かった。でも気持ちはずっとふわふわしたままで、ちっとも嫌な感じはしなかった。

 じゃあ、これって……

 なんとなく、わかっていたけれど。でも認めてしまうのも怖い。だってそれでアデルに裏切られたら、俺は一生立ち上がれない。

 でも……アデルはちゃんと、覚悟を決めてくれた。領事館にまで連れていって、過去にあった話もしてくれた。

 「うん……そうだな。俺も、覚悟を決めよう」

 春休み最終日、俺はベッドの中でとある決意をした。決意と言う割には、かなり曖昧なものだったけれど、それでも今までの関係よりは、少し前に進めるんじゃないかなと思ったんだ。

 「おはようセム! 今日も髪がさらさらだね~」

 「う、うん……」

 翌朝、アデルは何事もなかったかのように俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。普段の俺ならすぐに振り解くけど、今日は抵抗しなかった。

 「……? セム、どうし……」

 アデルが戸惑って、手を離す。俺は俯きながら、一度深呼吸をした。

 「そ、その、俺、この三日間一生懸命考えて、でもまだアデルのこと、恋愛的に好きとか、ずっと一緒にいたいとかはわからなくて……けどそういう戸惑いは、時間が解決してくれるとは思うんだ……」

 必死に考えてきた言葉を、しどろもどろになりながら口にだす。

 今までちゃん人を好きになったこともなければ、男の人とそうなったこともない。だからすぐに「はい、好きです」と答えるのは難しかった。

 「で、でも、家を出てアデルと過ごすのはいいなって思って……それに触れるのも嫌じゃないっていうか……だから、今までは隠れてしてたけど……」

 俺は意を決して、鞄を持っていない方のアデルの袖口を、ちょこっと握った。

 「!?」

 「う、浮気の噂を広めるのは……さ、賛成だよ……?」

 しーんっとした沈黙が、その場を支配する。俺はやったそばから後悔して、今すぐ地面に埋まりたくなった。

 か、顔が……顔があっつい……!! で、でも! きっとこれぐらいしないと噂って広まらないと思うし、なんならこれじゃ生ぬるいかもしれないけど……い、今の俺じゃこれが限界だっ!

 「……セム、本当に、もう……」

 「えっ! ア、アデル!? どうしたの!?」

 俺が掴んでない方の手で顔を覆い、アデルは天を仰ぐ。

 えっ、本当は嫌だったとか? もしかして俺、何かすごい勘違いしてる!?

 「ご、ごめん! 嫌なら」

 「嫌なわけないじゃん」

 手を離そうとしたら、ぱしっと握られる。そのままアデルは指をするするっと絡ませてきて、一気に全身が熱くなった。

 「……あんまりにもセムが可愛いことするから……びっくりしちゃって。本当にセムって、罪な男だよね……他にどんな表情を隠し持ってるのか、全部暴きたくなるんだけど」

 アデルがほんのり頬を赤くして、怒ったように言う。

 俺は『アデルも照れるんだ……』という新たな発見に、胸がキュンとした。

 って、ちょっと待って! きゅんってなに!? これ以上アデルの魅力を増やしてどうするんだ俺!!

 「セム……」

 「うわっ! ちょ、ちょっと待って! さ、さすがにそれ以上は……!!」

 アデルが顔を近づけてくる。まだ早朝で誰もいないとはいえ、ここは人目についちゃう……!

 思わずぎゅっと目をつぶると、「これからの学園生活が楽しみだね」と耳元で囁かれた。

 「えっ、そ、それってどいういう……」

 「いっぱい甘やかすから、覚悟しててねって意味」

 いやいや、それはそれで俺の心臓が困るんですけど!!

 という叫びは恥ずかしすぎて口に出せなかった。

                                      
しおりを挟む
感想 62

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

嫌われ魔術師の俺は元夫への恋心を消去する

SKYTRICK
BL
旧題:恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する ☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...