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15■ゆらめく月夜☆白樺祭 SIDE:希(了)
6.がんじがらめ
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さっき、僕らが抱き合っている所、見てたはずだ。それに、晴海くんがおはようって言ってくれたのかどうかも、よくわからない。
僕は、どうすればいいか分からなくなって、繋いでいた珠希の手をぱっと離した。
「希?」
不思議そうに珠希が僕を見下ろす。だけど、なんて答えればいい?
珠希のことを好きな晴海くんの前では、あんまり仲良くしづらい、って?
まして、晴海くんの前ではそんなこと言えないし、それにそもそも誰かに気を遣って態度を変えるのも変な気もするし。だからって晴海くんが嫌な気持ちになるのも、嫌だし。でも、こういうのってやっぱり偽善的なのかな。
うんと、えっと。
僕は珠希の目を見つめたまま、なにか言いたかったけど、すぐには言葉にならなかった。
「どうしたの?」
珠希は、怒ってるふうでもなく、ただ不思議そうな顔で僕を見ている。
えっと、えっと、
そう考えているうちにエレベーターが来て、僕らは乗り込んだ。
珠希はほんの少しだけ口元で微笑んで、僕の頬を指先でそっと撫でた。
「あの、久慈先輩」
結局、その沈黙を破ったのは、僕のそばに立った晴海くんだった。
「僕、これから希くんと明日のことで話したくて。だから、一緒に朝食食べたいんですけど、いいですか?」
僕は驚いて晴海くんを見た。
晴海くんはまっすぐに珠希を見ている。
エレベーターが1階に着いた。
「うんいいよ。じゃあ希、また夜にね」
珠希は晴海くんから視線を外すと、僕に微笑む。
「え、でもそしたら珠希ひとり」
「じゃあ、久慈先輩も一緒に、ねえはるちゃん」
シュウが言う。
「いいよ、独りでも泣いたりしないし」
そう言って珠希は冗談ぽくくすっと笑う。
「じゃ、またね矢野くん舟木くん。希のことよろしく」
「はい」
「それと、阿部くん。またね」
「はい」
珠希は晴海くんを見て、それから僕をもう一度見ると、腰をかがめて、僕の唇の端にちゅっと音を立ててキスした。
「た、た、ま」
「これで我慢しとく、じゃあね」
そう言うと、珠希はなんだか楽しそうににっこりして歩いて行った。
「うっあー、いいもん見たっ、今日はいい日になりそー」
またもや金魚になってる僕のそばで、シュウがそう言った。
「それにしても、意外だよなあ、久慈先輩ってああいう人なんだよな、ほんっと、今までぜんぜん知らなかったな」
「だよなー」
シュウと順平はおもしろそうに僕と珠希の話を僕抜きでしている。
そこでハッとして振り返ると、晴海くんが顔を引きつらせて突っ立っていた。
「あ、晴海くん」
なんて言っていいのか分からない、そう思って困っていると、晴海くんは急に微笑んで、僕の腕に自分のをからめて来た。
「さ、なに食べよっかあ」
そうのんびりした口調で言う。
怒ってる訳じゃ、ないんだよ、ね?
僕は頭を整理してなんとか、今の状況に付いて行こうと必死になっていた。
***
「きゃんー、かっわいー、希めちゃくちゃいいっ」
僕がカーテンから出て行くと、シュウががしっと抱きついて来た。ただでさえ熱いのに、よけい苦しい。
「うぐ、ぐぐ」
「うーん、すりすりしたーい」
「うう、暑い」
「ばかシュウっ」
僕が身動きとれずに困っていると、順平がシュウを引きはがしてくれた。
「ありがと、順平」
「お安いご用」
「なんだよお、いいだろ別に」
「だって暑いんだもん」
いよいよ明日が本番だから、今日はみんなで衣装を着て、実際に明日するのと同じことをしてみることにした。
シュウも順平も白いシャツに黒い細身のパンツ、それに腰から足首まである長いギャルソンエプロンにばしっと身を包んでいる。
そして猫担当の子たちは、自分で選んだデザインのそれぞれの衣装に身を包んでいる。僕と同じく着ぐるみみたいな服を着てる子もいるし、晴海くんみたいに足が全部見えてるようなショートパンツにもこもこのブーツ、それにお腹の見えそうなふわふわのタンクトップの子もいる。
頭にはちょこんと猫耳のカチューシャをつけて。
「はるちゃんかわいーよ、希くんにもあーいうの着てほしかったなー」
どこかから聞こえて来たそんな声には聞こえないふりをして。でも、確かに晴海くんはまるで女の子みたいにかわいくって似合ってる。
僕らは原くんから一通りエスプレッソマシーンの使い方とか、おいしいアイスコーヒーの入れ方とかを習って、それから実践することにした。
僕は、どうすればいいか分からなくなって、繋いでいた珠希の手をぱっと離した。
「希?」
不思議そうに珠希が僕を見下ろす。だけど、なんて答えればいい?
珠希のことを好きな晴海くんの前では、あんまり仲良くしづらい、って?
まして、晴海くんの前ではそんなこと言えないし、それにそもそも誰かに気を遣って態度を変えるのも変な気もするし。だからって晴海くんが嫌な気持ちになるのも、嫌だし。でも、こういうのってやっぱり偽善的なのかな。
うんと、えっと。
僕は珠希の目を見つめたまま、なにか言いたかったけど、すぐには言葉にならなかった。
「どうしたの?」
珠希は、怒ってるふうでもなく、ただ不思議そうな顔で僕を見ている。
えっと、えっと、
そう考えているうちにエレベーターが来て、僕らは乗り込んだ。
珠希はほんの少しだけ口元で微笑んで、僕の頬を指先でそっと撫でた。
「あの、久慈先輩」
結局、その沈黙を破ったのは、僕のそばに立った晴海くんだった。
「僕、これから希くんと明日のことで話したくて。だから、一緒に朝食食べたいんですけど、いいですか?」
僕は驚いて晴海くんを見た。
晴海くんはまっすぐに珠希を見ている。
エレベーターが1階に着いた。
「うんいいよ。じゃあ希、また夜にね」
珠希は晴海くんから視線を外すと、僕に微笑む。
「え、でもそしたら珠希ひとり」
「じゃあ、久慈先輩も一緒に、ねえはるちゃん」
シュウが言う。
「いいよ、独りでも泣いたりしないし」
そう言って珠希は冗談ぽくくすっと笑う。
「じゃ、またね矢野くん舟木くん。希のことよろしく」
「はい」
「それと、阿部くん。またね」
「はい」
珠希は晴海くんを見て、それから僕をもう一度見ると、腰をかがめて、僕の唇の端にちゅっと音を立ててキスした。
「た、た、ま」
「これで我慢しとく、じゃあね」
そう言うと、珠希はなんだか楽しそうににっこりして歩いて行った。
「うっあー、いいもん見たっ、今日はいい日になりそー」
またもや金魚になってる僕のそばで、シュウがそう言った。
「それにしても、意外だよなあ、久慈先輩ってああいう人なんだよな、ほんっと、今までぜんぜん知らなかったな」
「だよなー」
シュウと順平はおもしろそうに僕と珠希の話を僕抜きでしている。
そこでハッとして振り返ると、晴海くんが顔を引きつらせて突っ立っていた。
「あ、晴海くん」
なんて言っていいのか分からない、そう思って困っていると、晴海くんは急に微笑んで、僕の腕に自分のをからめて来た。
「さ、なに食べよっかあ」
そうのんびりした口調で言う。
怒ってる訳じゃ、ないんだよ、ね?
僕は頭を整理してなんとか、今の状況に付いて行こうと必死になっていた。
***
「きゃんー、かっわいー、希めちゃくちゃいいっ」
僕がカーテンから出て行くと、シュウががしっと抱きついて来た。ただでさえ熱いのに、よけい苦しい。
「うぐ、ぐぐ」
「うーん、すりすりしたーい」
「うう、暑い」
「ばかシュウっ」
僕が身動きとれずに困っていると、順平がシュウを引きはがしてくれた。
「ありがと、順平」
「お安いご用」
「なんだよお、いいだろ別に」
「だって暑いんだもん」
いよいよ明日が本番だから、今日はみんなで衣装を着て、実際に明日するのと同じことをしてみることにした。
シュウも順平も白いシャツに黒い細身のパンツ、それに腰から足首まである長いギャルソンエプロンにばしっと身を包んでいる。
そして猫担当の子たちは、自分で選んだデザインのそれぞれの衣装に身を包んでいる。僕と同じく着ぐるみみたいな服を着てる子もいるし、晴海くんみたいに足が全部見えてるようなショートパンツにもこもこのブーツ、それにお腹の見えそうなふわふわのタンクトップの子もいる。
頭にはちょこんと猫耳のカチューシャをつけて。
「はるちゃんかわいーよ、希くんにもあーいうの着てほしかったなー」
どこかから聞こえて来たそんな声には聞こえないふりをして。でも、確かに晴海くんはまるで女の子みたいにかわいくって似合ってる。
僕らは原くんから一通りエスプレッソマシーンの使い方とか、おいしいアイスコーヒーの入れ方とかを習って、それから実践することにした。
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