白樫学園記

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15■ゆらめく月夜☆白樺祭 SIDE:希(了)

10.白樺祭 一日目

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「子猫ちゃーん、お水ちょうだい」
「にゃ、にゃあ」
 僕の当番は、10時から11時の一時間と、2時から3時の一時間だ。
 一回目の時はまだよかった。始まったばっかりでそんなに人も多くはなかったし。
 でも、2時半の今、もう教室には入り切れないほどのお客さんがいて、さらに外にまで入店を待つお客さんがいる。その上、まだ増え続けている。
 その上、お客さん脚を触られそうになったり、からかわれたり、もうほんと言うと逃げ出したい。
 ギャルソンのコも、店内でドリンクを作るコも大忙しだ。だから順平やシュウに泣きついてばっかりいられない。
 頼まれたお水を運んでもらおうと順平の所へ行こうとしたら、ぐんっと急に抵抗があって、つまずきそうになった。
「わっ、あ、やめてくださいっ」
「にゃあでしょ? 子猫ちゃん」
 振り返ると、さっきお水をたのんだ人が、僕の(正確には衣装の)しっぽを握ってにやにやと笑っていた。
「離してください、にゃあ」
「うっあー、かわいーたまんねー」
 そう言ってやっと離してくれる。
「おいまずいよ久慈の恋人だろ? あの子」
「こんくらいなんでもないだろ、サービスの一環だって。あんなかっこしてんだもん、触られたりとか想定してるって」
「だよなーそれにしてもたまんねー」
 うう。聞こえないふり聞こえないふり。

 僕はため息を飲み込んだ。
「お客さん、撮影はやめてください」
 順平の声が聞こえて、振り返ると、携帯カメラを僕に向けている2年生がいた。
「大丈夫か?」
「うん、なんとか、」
 僕は順平に疲れた笑顔を返す。
「こねこちゃーん、お水まだー?」
「あいっつら、まじで調子乗りすぎだろ、オレ言ってやるっ」
 肩を怒らせて歩きだそうとした順平の腕を、僕は急いで捕まえた。
「大丈夫、いいから」
 せっかくみんなで作り上げたカフェだし。それに、ほかの子たちだって絡まれたりしてるけど、みんな頑張って…
「やだー、うそ、そうなの? それ食べさせて、にゃあ」
 すぐ近くから甘い声が聞こえて来て、ぎょっとして見ると、晴海くんが先輩らしき生徒の膝に乗っていた。
 驚いてぽかんとしていると、晴海くんと目が合った。にっこり微笑まれて、僕はぎこちなく笑みを返す。
「じゃ、また後でねー」
 そう言って晴海くんは僕のそばへ来た。


「楽しいねっ、希くん」
「あ、う、んん」
「はる、あそこまですることないから」
 そのそばに原くんが来て言った。
「なんで? したいからしてんの。いいでしょ別に。サービスだよ」
「それでもな」
「あー、喉かわいちゃった」
 原くんがまだなにか言いかけていたのに、晴海くんは無視してどこかへ行ってしまった。
 原くんがふうっと息を吐いたのが、聞こえた。

 入り口の方が急にざわついて、騒がしくなった。
 何事かと思って見ると。
「た、珠希!?」
「希!?」
 僕の驚きの声は、珠希のそれにかき消された。
「どうしたのっそれっ!?」
「え? それ? あ、これっ」
 僕は一瞬状況を飲み込めなかった。だって、珠希はなんかいつもと違う感じに髪の毛をワックスでくしゃくしゃにボリュームアップさせてて、その上細身のスーツを着ている。そか、珠希のクラスはホストクラブだっけ。
 何してもかっこいいなあ。
「あゆが、あゆがね、」
 珠希の顔を見たら、急に張り詰めていたものが解けてしまった。
 ただ普通に説明しようと思ったのに。
 怖い顔でも、珠希は珠希で。だから安心して力が抜けてしまった。
「わ、希ごめんっいきなり僕が来たからかな」
 目の前の珠希が、表情を崩しておろおろし始める。
 その様子で初めて気づいた。
 僕の頬に涙が伝ってるって。
「違う、これはちょっと、あの」
「あ、久慈先輩、ちょうど3時です。もう希の仕事終わりました」
 そう言って笑いながら、順平が僕の頭をぽんぽんっと叩く。
「もう、終わり?」
「そうだよ、着替えていいよ」
 そう言って原くんが微笑む。
「うん、わかった、着替える」
 僕はやっと猫の呪縛から抜け出せた。
 バックルームで僕の話を全部聞いた珠希は、ぎゅっと僕を抱きしめて、がんばったね、って言ってくれた。
 珠希と一緒に教室を出る時、さっきまで僕にさんざん絡んでいた生徒は固まったように動かなかった。珠希は、そのテーブルのそばで一瞬立ち止まったけど、なにも言わなかった。
 なにも言わなくても、珠希が笑ってるけど怒ってる、って十分伝わったんじゃないかな。
 と、思う。
 でも、明日もきっと同じなんだろうな。
 そう思うと気が滅入る。
「大丈夫だよ。すぐに同じの作らせるから」
 そう言って珠希がにっこり微笑んだ。
 にっこりしてるけど、その目はめらめら燃えていた。

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