白樫学園記

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1■学園生活スタート☆ぼくたち山田兄弟 SIDE:希(了)

11.最初の晩餐

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 11.最初の晩餐

 アユはなにも気にしてないみたい。っていうかもうごはんのことしか頭にないんだろうけど。空也先輩の後をずんずん歩いてついていっている。
 でも、僕はみんなのひそひそ話す声とか責めるような目つきが気になって、少し離れてとぼとぼと歩き出した。
「のんちゃん、どうしたの」
 のろのろ歩いてる僕に合わせて、珠希先輩が隣に並んだ。
 先輩が隣に来ると、またみんなの声が強くなったような気がして、肩をすくめる。
 でも、珠希先輩に心配をかけちゃいけない。
 僕は黙って首を振った。
 すると、背中にそっと手が添えられた。大きな手が、優しく強く、僕の背中を押す。
「大丈夫、僕が守るから」
 珠希先輩は低音のよく響く声で、僕の耳元に屈んでそう言った。
 びっくりして見上げると、珠希先輩はあの優しい顔で微笑んでいた。
 僕の気持ちをなんとか解そうとそう言ってくれたんだろう。
 ひときわ大きな悲鳴が聞こえたような気がしたけど、珠希先輩の手に支えられた僕は、少しだけ安心して歩くことが出来た。
広くて縦長の食堂をやっと歩き終えると、一番奥に個室に繋がる扉があった。
 僕はてっきりあの食堂のどこかでみんなにじろじろ見られながら食べなきゃいけないんだと思っていたから、安心した。
「さ、座って」
 珠希先輩は隣の席を指さした。アユは相変わらず部屋の中をうろうろして、見ている。
「うっわ、何これ。VIPルーム!?」
「生徒会長、寮長クラスになると人気が高くてゆっくり食事もできないからな」
 空也先輩がそう言って、僕は納得した。
 僕とアユは空也先輩が頼んでくれたお肉を食べることにした。
 運ばれて来た料理はすごくおいしそうで、綺麗な盛り付けだったけど、さっきびっくりしたせいで、なんだか胃がきゅうっと縮んだみたいになっている。
 さっきまでお腹がぺこぺこだと思ってたのに。

「食欲、ないの?」
 考え事をしていると声がして、珠希先輩が僕を心配そうに見ていた。
「い、いえ、ちょっと疲れただけです」
「そう? ならいいんだけど」
 先輩は納得してなさそうに僕を見ている。


あ、の。さっきから気になってたんですけど、これってワインですよね?」
 僕は慌てて話題を変えることにした。いつまでも珠希先輩に心配をかけてちゃいけない。
 真紅の液体が、グラスに入っている。お魚を食べている珠希先輩のグラスには透明の。
「うん、そうだよ」
「高校で……アルコール、出すんですか?」
 僕は不思議に思って聞く。
「うん、そうだよ。ここに通ってる子たちのほとんどが、いずれ家や会社を担って世に出るんだ。そういう社交の場に出入りする機会も多いしね。だから、そういう時にスマートな行動が取れるように、教養としても、学ぶんだよ」
 へえ。そうなのか。
 そう思って赤ワインに少し口を付けてみる。思ったよりも甘くて美味しい。でも、すぐに咽がカッと熱くなる。
 こんなの一杯飲んだら酔っちゃうな……と思って目を上げると、アユがグラスを口に運んでいるのが見えた。
「あ!あゆ、それ…」
 僕が止めようとした瞬間、アユはグラスの中身を一気に飲み干していた。

 数分後。ひとりケラケラ笑うアユが。それに、空也先輩に絡んでる……。やっぱり。
 僕の家はこういうことに関しては甘くて、だから家でも少しはお酒を飲んだりしてた。
 でも、アユはいっつもこの調子で、何を飲んでも、コップ一杯で酔うし、おまけに酔うとすごく陽気になって、人に抱き着いたり絡んだりしまくる。
 家族にならそういうことしても、よかったけど。
「先輩、すいません」
「なんでノン謝ってんのぉ?」
 僕が謝ると、アユが不服そうな声を出した。
「気にするな、ちょっと頭冷やしてきてやる」
 空也先輩は、僕にそう言うと、アユの体を軽々と抱き上げた。腕の中でアユはばたばたしてる。
「いじめないようにね」
 珠希先輩はにっこり笑って空也先輩に手を振った。
 僕はどうしていいのかわからなくって、立ってみたものの、空也先輩はもうひとつのドアから出て行ってしまった。
「あ、あの……」
「いじめるって、冗談だよ。大丈夫、空也は悪い奴じゃないから。それに、理事長にも念押されてるから」
「へ?」
「うちのかわいい甥を頼むって」
 そう言って珠希先輩は微笑む。
「じゃ、僕らのこと知って」
「うん。知ってるよ。僕と空也はね……それにっ」
 珠希先輩はふ、っと笑う。


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