白樫学園記

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7■きらめく初夏☆物憂い木漏れ日 SIDE:希(了)

1.憂鬱な季節?

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 珠希の風邪も治ったし、球技大会のおかげでクラスメイトともさらに仲良くなれたし。
 毎日が楽しく、穏やかに過ぎて行く。
 目の前で繰り広げられるアユと空也先輩のいちゃいちゃにもだいぶ慣れたし、なによりもいつもアユが心から幸せそうに笑っているから、僕も嬉しくなる。


 珠希が熱で浮かされていた夜のことを思い出すと、未だに瞬間発火したみたいに顔が真っ赤になる。
 でも、それ以上も同じようなこともない。ときどきふたりっきりになったとき、胸が張り裂けそうになるくらいどきどきするようなキスをすることはあるけど。

 風邪をひいた珠希が初めて僕に弱い部分を見せてくれた。
 そのことは珠希も分かっている。
 だから、また少し僕らの距離が縮まったような気がする。

「はあ、憂鬱」
「まあ、分かってたことだけどさ」
「準備してたか?」
「いや、ぜんぜん」
 教室に行くと、順平とシュウが深刻そうに顔を突き合わせていた。
「おはよ、どうしたの?」
「あ、希おはよ。この季節は気分が滅入るって話してたんだ」
 順平がそう言ったけど。
 確かにまだ梅雨が明けなくてじめじめしてるけど、それももう少しの辛抱だろうし。それに、雨が降るとここじゃ、いっせいに緑の匂いが立ち上るから、逆に気持ちよかったりもするし。
「僕は、雨嫌いじゃないよ?」
 僕はそう言うと、順平とシュウはきょとんとしたまま、数秒固まった。
「あはは、意味わかんねーけど、希かわいいから許しちゃうよー」
 そう言ってシュウに頭をぐりぐり掻き回される。
「なんで俺らが雨の話してると思ったんだよ?」
 順平も笑ってる。なんで? なにが変なの?
「だって、季節の話してたから、梅雨のことかと思って」
 その瞬間、またふたりが吹き出した。
「違うよ希、学期末テストのこと話してたんだ。2週間後だから」
 ひとしきり笑ったシュウがやっと教えてくれた。
「ああ、そっかあ、なんだそうだっだんだ。ほんと僕的外れ」
 自分でもおかしくなってくる。
「そっか、来月から夏休みだもんね。その前に試験あるよね」
 僕はずっと不思議に思っていた。将来は会社を担うような子たちばっかりだし、それなりにレベルが高いって聞いてたのに、中間試験もないし。
 個性を尊重する学校だから、試験もないのかと思って内心驚いていた。
「希、余裕ぶっこいてられんのも今だけだぞ。けっこう試験厳しいから。そこは中等部と変わらないって先輩からも聞いてる」
「そうだよ。試験範囲すっごい広いし」
「そっか、ふたりともずっとここだもんね。ってことは、年に3回しか試験ってないの?」
「そうだな。ってか、前行ってた学校は違ったのか?」
 順平が不思議そうな顔をするから、僕は一般的な中学校とか高校のことを少し教えてあげた。
「へえ~、そうなんだ、そんな何回も試験あったら、俺死ぬ」
 そう言って順平が机に突っ伏すから、僕は思わず吹き出した。
「おおげさー」
「おおげさじゃないよっ、希!」
 僕の声を遮るようにして断言するシュウ。
 一体、なにがそんなに……。
 さすがに不安になってくる。
「初めての試験ってことは、高等部に上がってから授業で習ったことが全部出るってことだぞ?」
 まあ、そうだと思う。
「で、さらに追試でも赤点だった奴は夏休みの半分近く削られて補習だから」
 そっか。
 でも、それってけっこう普通だと思うんだけどな。どこの学校でもそんなものだと思うけど。
「……おい、希。なんかもっと反応欲しいんだけど」
「あ。驚きすぎたんだな? 大丈夫だぞ。俺たちだってまだなんにも準備してないからな」
 でも、僕は考えていた。
 だって全部っていっても入学した4月から、試験のある7月までに習ったことだよね。
 それならほぼ頭に入ってる。細かい暗記は2週間あれば十分だろうし。
 予習と復習をしてきたから大丈夫。
 心配なのはアユだ。
 僕はアユをどうやって机に縛り付けて勉強させるかを一生懸命考えていた。



***
 部屋に帰ると早速、僕はアユに聞いた試験のことを説明して、勉強するように言った。
「アーユ! ほんっとに大変だよ。赤点だったら夏休み半分なくなっちゃうんだよ??」
「ひいっ! やだーそれはやだ」
 そう聞いた瞬間、アユからぷしゅーっと空気が抜けていくのが見えたような気がした。へなへなとソファに倒れ込む。
「ね? だよね? だから勉強しないと」
「ああ、うんする。絶対する。でも今日はこれから空也んとこ行かなきゃだし。ほら、ノンも薔薇園行くんだろ? また、帰ってきてからやるから!
 じゃな!」むくっと起き上がると部屋を飛び出して行った……。
 これは……ほんとに大変なことになっちゃうかも。
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