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7■きらめく初夏☆物憂い木漏れ日 SIDE:希(了)
2.水沢春人(みずさわはるひと)
しおりを挟む薔薇園まで傘をさして歩いた。雨に濡れた薔薇がなんだかよけいに綺麗で、どんよりした空なんてどうでもよくなった。
やっぱり、雨って嫌いじゃない。もちろん、真っ青に晴れた空だって好きだけど。
最近雨が多いから、僕と珠希はガラス張りになったテラスハウスの中で会うことが多い。
扉を開けて中に入ると、小さな笑い声が聞こえて来た。
空也先輩が来てるのかな?
だったらアユも一緒のはず。もう一度試験のこと念押さなくちゃ。
近くまで行くと、くすくす笑う声が空也先輩とは似ていないことに気がついた。
まだミニ薔薇で作られた垣根に隠れてテーブルと椅子が見えない。
誰だろう?
少し緊張する。もともと僕は人見知りする方だし。
それでも、ここに立っている訳にもいかないと思って、垣根から顔をのぞかせた。
「珠希」
そう言って顔を出すと、珠希が振り返るより先に、その向かいに座っている男の人と目があった。
すごく、綺麗な人だった。
だから僕は、しばらく合った目が離せないでいた。
自毛っぽい深い茶色の髪がゆるくカールしていて、目も淡い茶色。すっと通った鼻筋にきりっとした目元。掘りが深くて、なんか、外人さんみたい。
「あんまり見ないで。照れる」
そう言って彼が笑うから、僕は穴が開くほど見ていたんだって気付いた。
「あ、すみません」
僕は恥ずかしくってどおどして謝った。顔が熱い。
「希、僕の先輩。春人、この子が希」
珠希が紹介してくれる。
「へえ、さっき言ってた。かわいいね。期待以上。水沢春人(みずさわはるひと)だ。よろしく、希くん」
僕は一体自分が珠希からどんなふうに紹介されていたのか気になってしょうがなかったけど、水沢さんが手を差し出したから、慌てて握手した。
「珠希の先輩ってことは、水沢さんもここの卒業生なんですか?」
「うん、そうだよ。僕が3年生の時に、珠希は1年生だったんだ。2年ぶりにパリから戻ったんだけど、ここ、変わらないよね」
パリ。僕、海外って行ったことないんだよね。水沢さんは住んでたのか。フランス語とかあたりまえに喋れるんだろうな。
似合うなー。
「はいどうぞ」
ぼーっと考えてると、珠希が僕にポットからコーヒを注いでくれた。僕はいつもミルクも砂糖もたっぷり。
「ありがとう」
珠希は笑顔を返してくれる。
「春人おかわりは?」
珠希は春人さんのカップを受け取ると、僕に作った時と同じように何も聞かずにブラックコーヒーを注いだ。
***
「覚えてる? あの時、珠希がさあ、ほら、」
「ああ、もちろん覚えてるよ」
水沢さんは目をきらきらさせて、珠希に思い出話をしている。珠希もなつかしそうにそれを聞いては相づちをうっている。
僕は、完全においてけぼりで、しょうがないから、もくもくとカフェオレとクッキーを口に放り込んでいた。
「希、いっぱいこぼれてる」
隣でくすっと笑う声が聞こえて、珠希が僕の膝の上に落ちたクッキーの屑を払い落としてくれた。
「あ、ごめんありがと」
僕がそう言うと、珠希はにっこり笑った。
「でさ、あの時珠希がね」
水沢さんはそんな僕にかまわず、話を続ける。
さっきから、ずうっと気になっていた……っていうか、すっごくあからさまなんだけど。
なんか、僕、邪魔みたい。
珠希がどう思っているのかはわかんないけど。
水沢さんは珠希とふたりだけで話したいみたい。
「珠希、僕、今日課題がいっぱいあって。それに、試験も近いから。もう戻るね」
僕はなるべくわざとらしくないよう、そう言った。
「え? じゃあ部屋まで送る」
「いいよお、雨も降ってるし、ね?」
「そう?」
「うん、いいよ」
僕はさっさと立ち上がった。
「そうだよね、学期末試験の時期だもんね。希くんは、よくわかってるよ、えらいえらい」
そう言って水沢さんが微笑んだ。
「じゃあね、珠希」
「う、うん。じゃあ。夕食の時にね」
「うん」
僕はいつもよりも元気な感じで手を降って、テラスを出た。
雨は降り止みそうにない。
僕は、ずっと水沢さんに感じていた違和感を思い浮かべながら、庭を歩いた。
『希くんは、よくわかってるよ、えらいえらい』あれだって。ほんとに試験のことを言ったんだろうか?
なんだか急に恐くなって、僕はほとんど小走りで寮に向かって走って帰った。
僕と珠希にはまだ、思い出なんて呼べるものはない。
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