147 / 368
7■きらめく初夏☆物憂い木漏れ日 SIDE:希(了)
9.水沢さんの策略
しおりを挟む途中で珠希に、おじさんの所に行くから、薔薇園に行くのが少し遅くなるってメールした。
理事長室のドアをノックすると、おじさんは満面の笑みで迎えてくれた。
「のんのん、どうしたの? 来てくれるなんて、嬉しいなー」
「え? おじさんが呼んでた、って」
「誰がそう言ったの? まあいいや、座って、今おいしいお菓子出すからさ」
おじさん、呼んでないんだ? じゃあ、水沢さん嘘ついたの? なんで?
なぜか、嫌な感じに胸が鳴る。
「ちょうどよかったよ、来てくれて。これ預かってたんだ」
おじさんが差し出したのは、銀色のカード。
「これなに?」
「これ、パスワードとログインID書いてあるから。銀行のカードと同じくらい大切だから、ちゃんと保管しておくんだよ?」
「うん。何に使うの?」
「ネットショッピング。ここに、兄さんたちがふたりのおこづかい振り込んでくれてるから。もっと早く渡すつもりだったんだけど、すっかり遅くなっちゃって。いろいろ困ってない?」
「え? ううん。大丈夫」
おじさんが出してくれたクッキーを頬張りながらも、僕は水沢さんのことで頭がいっぱいだった。
珠希に、今すぐ会いたい。
会わなくちゃ。
「おじさん、また今度来るよっ、僕ちょっと忘れてたことあって」
「ええっ? のんのんせっかく来たのにっ」
「ほんっとにごめんね、またすぐ来るからっ」
僕はそう言いながらもう腰を上げていた。
「わかった、今度はあゆあゆも連れて来てね?」
「うん、わかった」
ドアを閉めた瞬間、僕はもう走り出していた。
嫌な考えで頭がうめ尽くされて、もういてもたってもいられなくなっていた。
水沢さんは、僕を珠希から遠ざけようとしてる……。
***
薔薇園に到着した時には、息が完全にあがっていた。
今日は雨が降っていないのに、珠希の姿が見えない。
走ったせいなのか、緊張しているからなのか、胸のどきどきがどっちのせいなのかわからない。
テラスハウスのガラス扉を、そっと開いた。
たまきッ、って、大声で呼んで入って行けばいい。
そう分かってるのに。
僕は息を殺して足音を忍ばせて進んでいた。
奥に進んで行くと、話し声が聞こえて来た。
水沢さんの声。
恐い。だけど、僕の考えすぎなのかもしれないし。珠希と会う約束してるし。
逃げ出すのは変だよ。絶対。
あと一歩で、ふたりが見える。その時だった。
「あの子うぶだよね。それにかわいいし。正直珠希がタチに転向したのも頷ける。でも実際面白くないな」
僕のこと、話してる。
僕はそこで体が動かなくなってしまった。
「どういうこと?」
「分かってるだろ? 僕の気持ちは」
「春人……なにそれ。僕たちはあの時で終わってる」
「そうかな。僕はそうは思ってないよ。僕が一番珠希のこと分かってる。あの子が珠希のこと満足させられんの? 覚えてるよ? 珠希のどこをどんなふうに触ればいいのか」
「そういうこと、聞きたくない」
珠希の声が冷たく響いたような気がした。それとも、それは単なる僕の希望なんだろうか。
頭をがーんと固いもので殴られたようなショックだった。
今すぐこっから逃げ出したい。それなのに、僕はもっと聞きたいとも思ってる。
僕は珠希にふさわしくないのかもしれない。
それはずっとずっと僕の中でくすぶっていた不安だった。
だけど、いつも珠希が僕のことを認めてくれたから。僕を好きだって言ってくれたから。そばにいていいんだって確信させてくれたから。
だから僕は不安に打ち勝つことが出来た。
でも今、それが大きく揺らいでる。
だからこそ確信が欲しい。
大丈夫だっていう確信を……それともだめだっていう確信を?
「珠希。僕の元へ戻っておいでよ。あんな子で珠希が満足する訳ないよ。僕が教えると、珠希はなんでも吸収したよね。すごく覚えが早くて、感度も最高でかわいかったな。もっともっとってよがってさ」
「春人、」
もう、限界だって思った。
足音が聞こえないように後ずさった。だけど体温が急に下がったみたいで、足がうまく曲がらなくて体が揺れた。
そしたら、垣根から体が出てしまった。
目が合った……微笑む、水沢さんと。
きっと、僕がいることに気がついていたんだ。
珠希は気がついていない。
みるみる涙が膨らんでくる。だめだ、泣いてる場合じゃない。
早くここから立ち去るんだ。
あの人に、勝てる訳なんかない。
「珠希、好きなんだ。今も。僕のこと、好きでしょ?」
最後に聞こえたのは、それだった。
珠希がなんて答えるのか、もう僕に受け止める力は残っていなかった。
ただ、扉がきしんだ音をたてないよう、必死で閉めただけだった。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
男子寮のベットの軋む音
なる
BL
ある大学に男子寮が存在した。
そこでは、思春期の男達が住んでおり先輩と後輩からなる相部屋制度。
ある一室からは夜な夜なベットの軋む音が聞こえる。
女子禁制の禁断の場所。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる