白樫学園記

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7■きらめく初夏☆物憂い木漏れ日 SIDE:希(了)

10.決意

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 いつもと同じ食事の席。
 だけど、僕は珠希の顔をまともに見れなかった。
 珠希はいつもと同じように僕やアユに笑いかけてる。それでも、僕はもう今すぐにでもここから逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
 せっかく仲良くなったのに。アユにも悪いけど。もう、珠希と一緒にはいれない。
 何度も何度も泣きそうになるのを押し殺して、咽が詰まって食事がうまく出来なかった。

***
「なぁ、ノン、何かあった? 」
「…べつに、何もないよ。ほら、テスト前だし…色々不安でしょ。あゆもちゃんと勉強してね」
 なにかひとつでも言ったら、涙がこぼれ落ちそうだった。
 そしたらきっとアユは珠希のことを怒って嫌いになるかもしれない。
 でも、悪いのは珠希じゃないから。だから、アユに珠希を嫌いになってほしくない。
「オレ、今日こそ勉強するから、自分の部屋で寝る」
 アユはそう言って自分の部屋に入って行った。アユの声が変だったから、僕に怒ってるんだと思った。
 ごめんね、アユ。
 でも、今はまだ話せそうにないよ。

 僕はベッドに寝転んで、学園に来てからのことを思い出していた。
 頭に浮かぶのは、珠希のことばっかり。
 やっぱり、珠希のことが好き。
 どう考えたって、水沢さんに勝てる訳なんかない。
 珠希は、ほんとは大人っぽい人が好きなんだ。そしたら、いつまでも子供な僕のことを、ずっと好きでいてくれる訳がない。
 だから、僕から珠希が離れて行くのはしょうがないんだって。
 そう思ってなんとか自分は悪くないって思おうとした。
 でも、そうなのかな。
 僕は、ずっと珠希が好きって言ってくれるような努力、してたのかな。ただでさえ、珠希には僕はなにもしてあげられないし、なんにも叶わないのに。
 いつも頼ってばっかりで。

 考えてばっかりで苦しい。
 やっぱり、珠希のとこへ行こう。
「アユ、僕珠希のとこ行ってくるね?」
 返事がなかったから、アユは寝ちゃったのかと思った。
 僕は、珠希に今から行くっていうメールをして、部屋を出た。

***
 ドアが開いた瞬間、珠希におもいっきり抱き着いた。
「希? どうしたの? なんかあった?」
 優しい声に、涙が出そうになる。僕は顔を上げられず、ただしがみついていた。
「食事の時も、元気なかったよね? ほら、こっちおいで」
 珠希は、僕をそのまま抱えて、ソファに座らせた。


「希?」
 そんな優しい目で見ないで。僕よりも水沢さんがいいって、そう思ってるなら言ってほしい。
「どうしたの? 話してくれないと、分からない」
 珠希の暖かい手に頬を包まれる。
「珠希、好き」
 そう言ったとたん、気持ちがぶわっと溢れて、同時に涙がぽろぽろ落ちた。
「希? なんで泣いてるの?」
「珠希のこと、好きだから」
 珠希が僕を覗き込む。それでも、僕は目を合わせられなかった。こんなこと言っても、困らせるだけなのに。分かってるのに。
 それでも、僕は精一杯自分の思いを伝えようって、そう決意していた。
「僕のこと好きだから? だから泣いてるの?」
 珠希の声が悲しく響いて、僕を哀れんでいるんだと思った。
「珠希、好き」
 僕は、馬鹿みたいにまた同じことをくり返すしかできなくって。
「うん、僕も好きだよ、のぞ、」
 僕は珠希の言葉を遮って、キスした。自分からする、初めてのキスだ。
 自分が出来る限り、一生懸命キスした、珠希は驚いて固まっているみたいだった。
 その唇に、舌を滑り込ませた。すぐに、珠希の舌が答えてくれる。
 頭の中で、笑う水沢さんの声が響いていた。

『あんな子で珠希が満足できる訳ないよ』

 体重をぐっとかけると、珠希は柔らかいソファでバランスを崩して仰向けになった。
「わ、希?」
 僕は珠希に口づけながら、Tシャツの裾から手を差し込んだ。
 珠希の体がびくっと震えた。
 どうすればいいのかわからないし、ほんとは恐い。
 でも、あの時珠希にされて気持ちよかったことをすればいいんだと思った。
「希、待って、やめて、」
 珠希が僕から顔を背けてそう言った。
「やめないっ」
 僕の涙が珠希の頬にぼたぼた落ちる。
 それでも、僕は珠希の首筋にキスをした。珠希が息を飲むのが聞こえた。これで、やり方は合ってる。
 そう思って、震え出しそうな自分の体を押さえ付けた。
「希っやめて、ほんとお願いだからっ」
 珠希が強い口調でそう言って、僕の両手首を掴んだ。
 力で、珠希には勝てない。
 珠希は体を起こすと、僕を座らせた。
「希、なんでこんなことするの?」
 珠希、怒ってる。初めて見た。珠希のこんな顔。でも、僕は謝らない。


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