白樫学園記

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11■きらめき☆楽園バースデー SIDE:希(了)

18.思わぬプレゼント

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 ようやく冷静さを取り戻した僕は、またケーキを食べながら珠希と他愛もない話をしていた。
 ふとまたシュウが目に入った。
 春日さんと楽しそうに話してる。
 そういえば、みんな付き合ってるんだよね。
 シュウと春日さんだけ、ひとりなんだ。
「珠希、春日さんって付き合ってる人いるのかな?」
 いるとしたら、女の人? それとも男の人なのかな?

 答えが帰って来ないのを不思議に思って隣を見ると、珠希はシャンパングラスを膝にのせて握ったまま、こっくりこっくりと船を漕いでいた。
「珠希?」
 眠ってる。
 僕はこぼしちゃいけないと思って、そうっと珠希の手からグラスを外すと近くのテーブルに置いた。
「んあ、希、ごめ、ちょっと寝てた?」
「うん、いいよ眠って。部屋に行く?」
「ううん、行かない。希のお祝だから、まだ行かない」
 そう言いながら珠希は僕の腕を取って自分の方へ引き寄せる。
 ソファにまた座った僕の体に、珠希は両腕を絡めたけど、またそのまま眠ってしまう。
「あ、珠希?」
 ずっしりと珠希の体重がかかって、僕は身動きが取れない。
「あれ。なんか希くんが久慈先輩に襲われてるーぅ」
 たまたま近くに来たリンくんが面白そうに笑った。
 僕もくすくす笑ったけど、珠希は完全に眠っていて、全く起きる気配がない。それに勢いで体が変によじれてて、この体勢、キツい…。うぐぐ。
「あはは、大丈夫? 久慈先輩今日寝てないって言ってたもんねー、竜、ちょっと助けたげて」
「ん」
 竜くんが、珠希の脇の下に手を入れてぐっと抱き起こしてくれた。僕はやっとまともな体制で座り直せた。
「大丈夫?」
「うん、ありがと」
 僕がふたりに笑顔でお礼を言うと、竜くんは珠希を動かして、僕の膝の上に頭を乗せる……あ、あれ?
「竜ナーイス。だから好き」
「ん」
 リンくんにそう言われると、ちょっと、いや、すごく、なのかな? 嬉しそうに竜くんは頷いて、ふたりは離れて行ってしまう。
 珠希、僕の膝枕で寝てるんだけど……それに、ふつう膝枕って顔はあっち向いてるものじゃないの?
 珠希の綺麗な寝顔が仰向けなんだけど……。
 髪の毛に手を差し込んで、撫でる。
 なんか、かわいい。
 僕はふたりの思わぬプレゼントに、口元が弛んでいた。
 僕はそっと珠希の顔からめがねを外す。
 いつだって僕の方が珠希よりも先に眠ってしまうし、起きるのは珠希が先のことが多くて。
 こんなふうにまじまじと寝顔を見たことなんてなかった。
 嬉しいようなくすぐったいような気持ちになって、微笑みながら、珠希の髪を弄っていた。

***
「それでは、残りの歩の誕生日の時間、オレが一人占めさせてもらいます。ごゆっくり」
 空也先輩の声がした扉の方を見ると、アユを抱きかかえた先輩が見えた。
「みんな今日はありがとなー」
 アユはのんきな声でそう言って、片手でしっかりと大きなケーキの乗ったお皿を抱えたまま、反対の手を振った。
 ばたんと扉が閉まると、一瞬あっけにとられた様子だったみんなが、笑いだした。
 リンくんと順平は声をあげて笑っている。
 僕は、空也先輩が言った、独り占め、の意味を今さら理解して、顔が熱くなるのを感じた。
 そう思っていると、目の橋を横切って行く人陰が見えて、春日さんが部屋を出て行くのが見えた。
「じゃ、僕らも行く?」
「ん」
 リンくんと竜くんが立ち上がる。
 僕は
「あ、俺も疲れたし、もう寝るわ」
 そう言いながらシュウは僕の前を通り過ぎざま、ぽんぽんっと頭を叩いた。
「じゃな、おやすみ。おめでと、希」
「ありがとう、シュウ」
 部屋には、順平と実と珠希と僕だけになった。
 ふたりは椅子を引き寄せて、僕と珠希の向かいに座る。
「それにしても、よく眠ってるね、久慈先輩」
 実は少し身を乗り出して珠希を見るとくすくす笑った。
「うん、僕のためにいろいろしてくれたから…」
「よかったな、希」
「うん。それに、みんなにもすっごく感謝してる。ほんとにありがとうね」
 僕はそう言うと、ふたりはにっこり笑って頷いた。

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