白樫学園記

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12■きらめき☆楽園バースデー SIDE:歩(了)

12.竜、豹変

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「ぎゃー、うまいー。肉、うますぎ! 口の中でとろけるってのは、こういうのを言うのか!」
 プールサイドでオレたちはみんなでバーベキューをした。
 もちろん、みんなアルコール片手に。
「歩、野菜」
「えー」
「紫堂先輩って、そんなに面倒見のいい人だとは知りませんでしたよー」
 焼酎を片手にリンが楽しそうにオレたちを観察していた。
「僕も知らなかった。空也って自分しか愛せない人間だったのに」
「うるさい。オレは歩がかわいくって仕方ないんだ。ほら、食え」
「かわいいとか言って食えはないじゃんー」
「口移しがいいのか? 」
「いえ、食べます! 」
 オレは仕方なく、皿に盛ってあった葉っぱを食べた。
 うえー、苦いー。
「みんなお酒普通に飲むんだ」
「飲むよー。あゆは? 」
「オレ弱いから寝ちゃうの。今は肉食べたい」
「リンはこう見えてもすごく強いんだよ、ザルだよね」
「源三郎だから」
 その後、一瞬で竜がプールに落ちたのは言うまでもない。
「小虎も残ればよかったのにぃ」
 遊び過ぎて眠いからと言って、小虎は先に自分の家の別荘に戻った。
「酒飲んで乱れた兄貴の姿なんて見せられないからねー」
 シュウが笑ってずぶ濡れで何もなかったかのようにリンの隣に座る竜を見た。
 竜も酔うのかなぁ。強そうだけど。

「…あいつ、気に食わなかった」
 オレの疑問は、数十分後に答えがでた。
「やきもちぃ? 」
「懲らしめるつもりだったのはわかってたけど」
 竜がめっちゃ喋ってる!
 オレがおもしろくなって竜を眺めていると、空也がひょいっとオレを持ち上げて膝の上に座らせた。
 最初はなんか子供扱いされてるみたいでやだったけど、最近はこうやって空也の膝の上でだっこされると落ち着く。
「野菜ちゃんと食べたから」
「うん。いい子だ」
 頭を撫でられるのも、なんだか好き。
 みんながお酒飲んでるし、オレのジンジャーエールにもちょこっとお酒を足してもらった。
 多分、そのせいで空也の腕の中がいつもよりももっと心地いい。
「…もう我慢できない! 」
 遠くからリンと竜が言い争ってるみたいな声が聞こえて、びっくりして目をやると、リンが何かみんなに言って、二人でどこかへ行った。
「…けんか…? 」
「違うよ、大丈夫」
 二人が心配だったけど、空也の落ち着いた声と頭を撫でる心地よさに、少しうとうとしはじめた。


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