誰も火力をやりたがらないVRMMO

面白かったら「お気に入り」してください

文字の大きさ
6 / 10

第6話 パワースラッシュ

しおりを挟む

「お、おう」

 俺は木でできたモンスターを前に、申し訳程度の剣を構える。不覚にも初めての本格戦闘に武器を持つ手が重さと緊張にプルプルと震えた。

「イイ? 合図するまで攻撃しちゃダメよ」

「分かってる」


 木がメキメキと背を伸ばし、俺に向かって細い枝を射出するように弾いた。それを剣でなんとか振り払う……

 つもりだった。


「ッ……!」

 枝が俺の胸を貫いたのだ。


 ゴフッと血が吹きこぼれ、膝から崩れ落ちた。起き上がろうにも爪で地面に傷を付けるだけ。

「あれ、あんた……」

「俺はもう、ダメみたい、だ」

 遅れて体がジンジン痛む。うずくまりたくなる痛さなのに体は動かない。


「あとは……任せたぞ」

「嘘? なんで?」

 俺の意識が溶けゆく中、ヴァイパーの一言が突き刺さる。

『あれを防げないって弱すぎ……』



 視点が切り替わり、見下ろす形となる。木の枝で貫かれた俺の脆い体はシャツを血に染めるだけの鮮血を蓄えていた。







 俺はエデンデマイズの噴水広場にリスポーンする事にした。死体を眺めるのはもうこりごり。

「はぁ」噴水の端に腰を下ろしながら、不意にため息を漏らす。

 かっこよく攻撃を弾いてパワースラッシュする予定だったのに。現実……いや、ゲームって上手くいかないもんだな。

 ふと死んだ時に例の女の子が出てこなかったことに気づく。

「チュートリアルをクリアしたから出てこなかったのか」

 声は好みだったからなあ、また会えるといいな。

 ちなみに、空に映し出されていた文字は未だに増えている。赤の割合は変わりそうにない。



 眺めている頃にヴァイパーが街に戻ってきた。

「あんた弱いわね」

 俺の隣に座るやいなや、すまし顔の陰口が傷を抉って塩を塗りたくった。

「気持ちがリスポーンしそう」

「……もう1回いくわよ」

「スルーか」

「今度は攻撃しようとか考えないでくれる?」

「はいすみませんでした」

 今度は死なないように、武具屋で最安値の鎧と盾を購入した。普通の街とはいえ、鎧一式で1万ガール、盾で3千ガールもした。

 かなり高いと言える、モンスターからお金が落ちないし稼ぐにはクエストと素材売買しか無さそうだ。

「またツケか……」

「そうよ」

 ヴァイパーは即答した。


 ゲームならではのいつでも存在するバスに乗り込み、特定のポイントでガラスを破って飛び降りる。

「……トラウマだ」

「盾構えてて」

 さっきの道のない森を進み、狼を彼女の刀が切り裂く。数体倒した後、俺の墓が立っているボスエリアに着いた。

「墓が立つのか」

「この墓を壊すと……経験値になるのよね」

「おいやめろ」

 蹴り壊したそうに俺の墓に足を乗せたヴァイパーを後ろから羽交い締めにして阻止していると、泉からのそのそ木の巨木が現れた。

 俺は盾を構えて以下にダメージを受けないかだけを考える事にする。



『モンスター、私の事だけを考えなさい』
 


 ヴァイパーは鞘から煌めく刀を引き抜き、人差し指で下唇を撫でる。その指が敵に向くと桜のエファクトが舞った。

「何やってんだあいつ」

「あんたの為にターゲット絞らせてんの」

 あんた呼ばわりの時は機嫌が悪いんだろうか。


 準備が完了したのか、ヴァイパーは刀で一方的に攻撃し始めていた。見るからに華はない、慣れた手つきで木のサンドバッグを相手に傷を入れていく。

 巨木は攻撃の波に押し返され、近づく事は出来なさそうだ。出来ても刀のリーチがそれを許さない、一方的な戦いである。


「もっとかっこよくやれ!」

「うっさいわね、盾構えて怯えてる奴に言われたくないわ」


 怯えてなんか!


 だが、貫かれる瞬間を思い出すと足が震えるのも確かだった。


「なにを……」

「それに連撃の方が細かく削れて瀕死にしやすいの」


 リンチ同然の攻撃が少し続き、巨木が可哀想なくらい皮を剥ぎ落とされた辺りで攻撃が収まった『頃合いね』。


 ヴァイパーは左手を相手に向け、手を開く。



『パワーロスト、ディフェンスロスト、マジックロスト、スピードロスト』



 様々な色の光が手の中で合わさり、ズタボロの巨木に吸収されるように吸い込まれる。

「なんの呪文だ」

「弱体化の魔法よ、ここから先はあんたの番」

「分かった」

 盾を捨て、剣に手を掛ける。引き抜いた辺りで、ヴァイパーはだるそうに俺の方向に足を向けて寝転がった。

 ……パンツ見えそうなのに見えねえ。

 今は気にしてもダメだ。



 走りながら、唯一の必殺技を唱える。
 

『パワースラッシュ』


 剣を振りかぶりながら、地面を踏みしめて飛び上がる。距離を見て一気に振り下ろした。

 普通に切りつけただけで特に大きなダメージはないらしく、特に傷もない。

「おかしいな」

「パワースラッシュって突き技よ」

「は?」

 スラッシュなのに突くの?

 試しに突く感じで剣を構える。


『パワースラッシュ』



 剣の先が敵に向くと。

 刃に青いオーラが灯された。



「ほんとだ」
 
 武器を下ろして力を抜いても、オーラが途切れることはない。このまま切り裂けばパワースラッシュになりそうだ。

 伝説の突き技? 溜め攻撃の間違いだろ。

「でしょ?」

 歩くことすらままならない蠢く木に剣を突き向ける。

『パワースラッシュ』

 閃光音の刹那、青いオーラに赤い稲妻が宿った。



 全速力で巨木に近づき、間合いを見て踵に力を入れながらステップを繰り出す。敵に背中を見せながら急接近していく状況を横目に距離を測り、右足で木の眼前に着地。


 勢いを殺さずに、切り払う要領で回転斬りを繰り出した。


 横に伸びた白の斬撃エファクト、青と赤の電撃が追うように走り抜ける。その直後、巨木のモンスターは下半身を残して上半身が崩れるように後ろへ倒れた。

「切り株みたいだな」

 派手な使い方に見合わない耐久度なのか、一気に刃が欠けた剣を鞘に収めるとヴァイパーが立ち上がった。

「なかなかやるわね」

 人は自慢しない方が栄えるという。

「それほどでもない」

「謙虚ね……経験値タイムよ」
 
 言われた通り、体に光が宿っていく。


【リュウキのレベルが3になりました! アタッカーポーション解放!】

【リュウキのレベルが4になりました! ソウルスレイヴを覚えた!】

【リュウキのレベルが5になりました! アタッカー特性解放!】


「あら、それ強いわよ」


 そうなのか……ってどれなんだ?








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

親がうるさいのでVRMMOでソロ成長します

miigumi
ファンタジー
VRが当たり前になった時代。大学生の瑞希は、親の干渉に息苦しさを感じながらも、特にやりたいことも見つからずにいた。 そんなある日、友人に誘われた話題のVRMMO《ルーンスフィア・オンライン》で目にしたのは――「あなたが求める自由を」という言葉。 軽い気持ちでログインしたはずが、気づけば彼女は“ソロ”で世界を駆けることになる。 誰にも縛られない場所で、瑞希は自分の力で強くなることを選んだ。これは、自由を求める彼女のソロ成長物語。 毎日22時投稿します。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...