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第10話 風呂

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 学園の部屋の辺りまで戻ってくるといつもの男が佇んでいた。

 俺達に気づく様子はない。

『寝てるっぽいな』

 肉をかじりながら少し待ってみたが、起きなさそうだ。

「どうしますか」

「放置でいいんじゃね」

 スカーは残酷だな……。

「起こすか」

 男の鎧に触れてカチャカチャ揺らすと。


『何用だ』


 ようやく気づいたのか、いつものトーンで返事が来た。

「肉と立ち向かう為に帰ってきた」

「何があった?」

「これ食ったらわかる」

 俺はお土産用に買っておいたアルカデリアンを渡した。

「……ありがたく頂こう」

 その間にカロンがドアの鍵を開けてスカーと一緒に入って行く。

「来ないのか?」

「遠慮しておく、鍵はしっかりかけておけ」

 男はそう言い残してその場を去った。

「分かった」


 俺はいわれたとおりドアを閉めて鍵を掛けた。

 入ってすぐ隣の棚にお金が入った袋と背中に付けていた剣を外す。

 それからは、ゆっくり過ごした。

 黙々と肉を食って、リザードが美味しくない事に気づいた。

 まるで肉の味がする砂を食っているかのよう。


 あまりの不味さに水を探していると『シャワー浴びたくね』不意にスカーがそう言った。


 確かに気持ちは分かる。

 俺はここに来てから一度も汗を流す機会がなかったからな。

 つうか水どこだよ。

「どうやってやるんだ?」

「シャワールームみたいなのはあったぞ」

「じゃあ行ってきたら?」

「シャワーヘッドがなかったんだよ」

 シャワーヘッドがない?


 どういう事かと思っているとカロンが首を傾げた。

『シャワーヘッドってなんですか?』


「えっ?」

 この世界にシャワーヘッドは存在しないのか……?

「ど、どうやって水を浴びるんだよ」

『魔法で水を出すんじゃないです? 温度も調整できますし』

 魔法? マジで?

「ついでに一緒に入りましょうか」

「その方がいいか」


 そう言って事前に確認していたタンスの中から着替えを取り出すと二人はさっさと別の部屋に消えていってしまった。

 あれ? 俺は?

 魔法使えないんですが?

 しばらくすると壁越しに二人の声が聞こえてきた。

「おお! こうするのか!」

「上手です! 本当に初めての調整なんですか?」

 楽しそうにしやがって!



 しばらくすると二人はホカホカと湯気を登らせながら出てきた。

「ふー」

「気持ちよさそうだな」

「まあな、行ってきた方がいいぞ」

 俺も着替えを取り出して、スカーに声をかける。

「魔力ないから来てくれ……」

「仕方ねえな」

「行ってらっしゃいです!」

 脱衣場で服を脱いでから風呂場に入る。

 スカーは脱衣所から入ってこようとしない。

「じゃあこっち向いて」

「なんで?」

 別に背中から浴びてもいいだろ。

「まあ向けよ」

「分かった……あ、もしかして俺の分身が見たいのか?」

「んなわけねえだろ! 見飽きてるわ!」

 スカーはやや下向きに手をかざすと。


 俺の股間目掛けて水を打ち出した!


「ッ……!」

 反応できなかった俺の股間にキンキンに冷えた水が直撃する。

「ぐあああ!」

 痛いとか冷たいとかそういう話ではない。

 大ダメージを受けたというショックで体内が波打つ。

 立つ為の力が溶け失せてるのか、膝を着くしかなかった。

「なにしやがるっ!」

 男ならやばい所ってわかるだろ!

『ふふっ……』

 俺の気持ちをよそに、スカーは俺の悶絶した姿を見て笑みすら浮かべていた。

「はあ?」
 
 俺ってこんな奴だったのか?

「……悪い、もうしねえよ。後ろ向いていいから」

「まったく」

 後ろを向くとぬるい水がかけられ始めた。

「オレの適温なんだけど、どう?」

「もっと熱くていい、ついでに水圧も欲しいな」

「マジか」

 段々と温度が上がっていき、ちょうどいい段階で止まる。

 水の勢いも俺好みに変わっていく。

 さすが俺と言ったところだ。

 億劫なスカーの為に俺がぐるりと体を回して全体の汚れを吹き飛ばす。

「シャンプーとかは?」

「この世界には存在しないらしい」

「マジか……水洗いなんてしたことねえ」

「それより気持ちいいのあるぞ」

 そう言って近くの椅子に座るように言ってきた。

 仕方なく椅子を引っ張って腰掛ける。


「どうするつもりだ?」

「まあそのまま居ろって」

 水を打ち出しで来るんじゃないか?

 そんな警戒をしていると風呂場に素足で入ってきた。 

 そのまま俺の後ろに回り、髪の毛に手が突っ込まれる。

「ん?」


 途端に髪の中で湯水が湧き始めた!


「なんだこれ……!」

 溢れた水が頭皮を伝って額から流れるのが分かる。

 水の勢いが程よい刺激となって頭をマッサージしているみたいだ。

「気持ちいいだろ? 両手から水出してんの」

「シャンプーなんかよりいいな……」

 柔らかくて小さな手がクシャクシャと髪を揉み洗ってくれる。

 洗い方は俺と一緒で非のつけ所がない。


 しばらく洗っているとスカーは指を抜いて髪の毛を纏め始めた。

 そのままギュウウっと握りしめ、水気を軽く切る。

「タオルは?」


『要らねえよ』

 そう言うと手の平から暖かい風を吹かした。



「そこも魔法なのかよ……」







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