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雛田

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暇だね

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 昼過ぎて、姫野さんと合流する。なんか、姫野さんとシフト被ること多いな。姫野さんも俺と同じで暇なのかな。
 暇っていうのも良くないか。時間に余裕があるのかもしれない。きっとそうだ。そんなことを考えていると、声をかけられた。
「今日も暇だね」
今、その言葉について考えていたところだったから、ちょっと動揺してしまった。
「そうっすね」
「あのさ、何か、集客する方法はないかって管理人さんに頼まれてるんだけどさ。何かない?」
出た、姫の無茶振り。しかも、何の前触れもなく、急に話を振ってきた。
「何かしらのイベントとかどうっすか?」
と、ありきたりなものを提案してみる。
 そもそも、提案になっているか、どうかも怪しいラインだ。
「人集まるかな。それ」
「例えば、少し変わったイベントとか」
「え、隠し芸てきな?」
別に、俺はそんなこと、一言も言ってないのに、俺が言ったみたいな空気を出すのは、何でだろうか。
「まあ、そんな感じっすかね」
「隠し芸何かある?」
「無いっすよ。別に」
「えー、本当に?じゃあ、のど自慢とかにする?」
「何でっすか?」
なぜ、隠し芸から、のど自慢に変える必要があったのだろうか。そう思って問いかける。
「主催者が出ない訳にはいかないから。できそうなものを提案してる」
ということは、俺を主催者代表として出そうとしているのか。
 絶対、承諾しないけどね。何を言われても、今回は、無理だ。
「無理ですよ。俺、歌、歌えないんで」
「えー、そうなの?残念だなあ。ま、顔が良いから、客寄せパンダにはなれるか」
何だろう。このすごく馬鹿にされてる感じ。
 ただ、人前で、歌は、もう歌わない。そう決めた。バンドを辞める時、俺は心に誓った。それもあるけど、普通に、歌えるようなメンタルまで回復していないのが現状だ。
「人をパンダ呼びっすか」
「まあまあ、気にしないで。じゃあ、上に企画通してみようかな」
そう言いながら、パソコンで企画書用のデータがまとめられているファイルを開く姫野さん。企画者の欄には、しっかり姫野渚と打ち込んでいる。
 良いけどね。別に。この話振ってきたのも、聞いてきたのも姫だし。そもそも、のど自慢にしたのは姫だし。俺は、少しアシストしただけ。
 この企画、するとしたら、費用とか準備とか大変そうだから、通んないだろうと思っていた。甘く見ていたのだ。しかし、なぜか、その企画は通ったのだ。そして、ゲストまで呼ぶのだとか。
 地域活性化に本気で力を入れるつもりらしい。もしかしたら、姫の提案だから通ったのかもしれないけど。
 そのゲストは、イベントの前日まで秘密にすると聞かされた。他言を恐れて、こちら側、いわゆる主催者達にも、それは、前日まで明かせないとの通達を受けた。
 まあ、大したことないだろう。と、俺は本気で思っていた。ゲストも、そこまで集客の見込みが無いから、サプライズにしたのかもしれない。良い案だとさえ思った。
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