イトーヨーカドーありがとう

影燈

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## 第三章: 記憶の収集

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# 消えゆくランドマーク

## 第三章: 記憶の収集

アキラは翌朝、目的に満ちた表情で目覚めた。

昨日の決意を胸に、イトーヨーカドーでの思い出を集める計画を立て始めた。

まずは、長年親しんだ店内を歩き回ることから始めようと決めた。

イトーヨーカドーに到着すると、アキラは1階の入り口で深呼吸をした。

「よし、行こう」

自分に言い聞かせるように呟き、中に入った。

平日の午前中、店内はゆったりとした空気に包まれていた。

アキラは、ゆっくりと歩きながら、各売り場を丹念に見て回った。

食品売り場では、母が好んで買っていた特製のおにぎりを見つけた。

「ママ、これ好きだったよね」

懐かしさと寂しさが入り混じる複雑な感情が胸を締め付けた。

文房具コーナーでは、学生時代に愛用していた万年筆が、今でも同じ場所に陳列されていた。

「あの頃は、ここでノートを買うのが楽しみだったな」

思わず手に取り、その感触を確かめる。

3階の婦人服売り場に着くと、母との思い出が一気に押し寄せてきた。

「ママ、ここで私の卒業式の服を選んでくれたんだよね」

目頭が熱くなるのを感じながら、アキラは静かに微笑んだ。

そんなアキラの様子に気づいたのか、年配の女性店員が声をかけてきた。

「お客様、何かお探しですか?」

アキラは少し戸惑いながらも、正直に答えた。

「あの、実は…ここの思い出を集めているんです」

店員の顔に、理解の表情が浮かんだ。

「そうですか。閉店が決まってから、そういうお客様も増えてきましたね」

アキラは、思わぬところで共感者を見つけた喜びを感じた。

「よろしければ、私の思い出話も聞いていただけませんか?」

店員の申し出に、アキラは心から感謝しながら頷いた。

そうして二人は、売り場の隅にあるベンチに腰掛けた。

佐藤さんと名乗った店員は、40年近くここで働いてきたという。

彼女の語る昔話に、アキラは引き込まれていった。

店の開店当時の話、お客様との心温まるエピソード、時代とともに変わっていく商品の移り変わり。

佐藤さんの話は、まるでタイムカプセルのようだった。

「この店には、たくさんの人の人生が詰まっているんですね」

アキラは、改めてこの場所の持つ意味の大きさを実感した。

「そうですね。だからこそ、皆さんの記憶の中で生き続けてほしいんです」

佐藤さんの言葉に、アキラは強く頷いた。

話を終えた後、アキラは一つの決心をした。

「佐藤さん、もしよければ、またお話を聞かせてもらえませんか?」

「もちろんですよ。他の方々の思い出も、ぜひ集めてみてください」

アキラは、新たな使命を見つけた気がした。

イトーヨーカドーの思い出を、できるだけ多くの人から集めよう。

そして、この場所が人々に与えた影響を、形に残そう。

アキラは、希望に満ちた気持ちで店を後にした。

明日からは、本格的に「記憶の収集」を始めようと、心に誓った。
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