イトーヨーカドーありがとう

## 第四章: 記憶の共有

# 消えゆくランドマーク

## 第四章: 記憶の共有

翌日、アキラは早朝からイトーヨーカドーに向かった。
昨日の決意を胸に、今日は店の開店時間に合わせてやってきたのだ。

朝の空気が澄んでいて、街はまだ静かだった。
イトーヨーカドーの前には、既に数人の年配の方々が並んでいた。

アキラは勇気を出して、列の最後尾に並んでいた老紳士に声をかけた。
「おはようございます。毎日、開店前からいらっしゃるんですか？」

老紳士は穏やかな笑顔で答えた。
「ああ、もう何十年も続けているよ。朝の散歩がてらね」

アキラは自己紹介をし、思い出を集めていることを話した。
すると老紳士の目が輝いた。

「おや、それは面白い。私にもたくさんの思い出があるよ」
そう言って、老紳士は語り始めた。

イトーヨーカドーが開店した当時の話。
まだ周りに高い建物がなく、遠くまで見渡せた景色のこと。
家族で買い物に来るのが週末の楽しみだったこと。

アキラは熱心に耳を傾けながら、メモを取った。
老紳士の語る昔話に、イトーヨーカドーを通じて見える地域の歴史が浮かび上がってきた。

話し終えると、老紳士は「良い取り組みだね」と言って、アキラの背中を軽く叩いた。
その温かい仕草に、アキラは勇気づけられた。

店が開くと、アキラは中に入り、佐藤さんを探した。
昨日の約束通り、佐藤さんは快く協力してくれることになった。

「実は、私たち従業員の間でも、閉店に向けて何か形に残したいという話が出ているんです」
佐藤さんの言葉に、アキラは目を輝かせた。

「それなら、一緒に何かできないでしょうか」
アキラの提案に、佐藤さんも賛同した。

二人で話し合った結果、店内に「思い出の投稿箱」を設置することになった。
お客様が自由に思い出を書いて投稿できるようにするのだ。

昼過ぎ、アキラは文具売り場で色とりどりの紙を購入し、手作りの投稿箱を作った。
佐藤さんの計らいで、1階のエントランス近くに設置することができた。

「イトーヨーカドーの思い出、あなたの声を聞かせてください」
そう書かれた看板を投稿箱の横に立てた。

最初の投稿者になろうと、アキラが慣れない手つきで紙を箱に入れると、
後ろから「私も書いていいかしら」という声がした。

振り返ると、買い物袋を手にした主婦らしき女性が立っていた。
「もちろんです！ぜひお願いします」

アキラは嬉しそうに答えた。
女性は早速、思い出を書き始めた。

その日の夕方までに、既に10件ほどの投稿が集まっていた。
佐藤さんと一緒に内容を確認していると、様々な世代の思い出が綴られていることに気づいた。

「こうして見ると、本当にこの店が長い間、皆さんの生活に寄り添ってきたんだなって実感します」
アキラの言葉に、佐藤さんも深くうなずいた。

「そうですね。だからこそ、最後まで大切にしていきたいです」

二人は、明日からの展開に胸を躍らせながら、今日の活動を終えた。
イトーヨーカドーの灯りが、夕暮れの街に温かく照らされていた。

アキラは帰り際、ふと空を見上げた。
「ママ、少しずつだけど、前に進んでるよ」

そっと呟いた言葉が、優しい風に乗って消えていった。