イトーヨーカドーありがとう

影燈

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## 第五章: 記憶の結晶

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# 消えゆくランドマーク

## 第五章: 記憶の結晶

閉店まであと2週間。
イトーヨーカドーの「思い出の投稿箱」は、日に日に重みを増していった。

アキラは毎日、仕事帰りに立ち寄っては新しい投稿を確認していた。
そこには、世代を超えた様々な思い出が詰まっていた。

「初めてのお使いで買ったアイスクリームの味が忘れられません」
「娘の七五三の着物を選んだ時の嬉しさを思い出します」
「学生時代、友達と待ち合わせてよく遊びに来ました」

一つひとつの言葉が、イトーヨーカドーという場所が持つ意味を物語っていた。

ある日、アキラは投稿の中に見覚えのある筆跡を見つけた。
それは、幼なじみの健太のものだった。

「おい、アキラ。お前の取り組み、すごいじゃないか」
翌日、健太から電話がかかってきた。

「健太か。投稿、ありがとう」
「いや、俺こそ。お前のおかげで、忘れかけていた思い出が蘇ったよ」

健太は学生時代の思い出を語り始めた。
二人で初めてアルバイトの面接を受けに来たこと。
給料で買った服でデートに出かけたこと。

話しているうちに、アキラの中にもいくつもの記憶が呼び覚まされた。
「そういえば、俺たち、ここで出会った女の子に同時に告白して振られたんだよな」

二人は笑いながら、懐かしい日々を思い返した。
「なあ、何かできることはないか?」という健太の言葉に、アキラは思わず目を見開いた。

その夜、アキラは眠れなかった。
頭の中で、様々なアイデアが駆け巡っていた。

翌朝、アキラは早々に佐藤さんに連絡を取った。
「思い出を形にする企画を考えました」

佐藤さんも乗り気で、すぐに店長に相談してくれることになった。
数日後、アキラの企画は正式に承認された。

「イトーヨーカドー・メモリアルウォール」
それが、アキラが提案した企画の名前だった。

集まった思い出の言葉を、色とりどりの紙に印刷し、
店内の一角に大きな壁画のように貼り付けていくのだ。

準備は急ピッチで進められた。
健太を始め、アキラの呼びかけに応じた volunteers たちが集まってきた。

閉店1週間前、ついに「メモリアルウォール」が完成した。
そこには、何百もの思い出の言葉が美しく配置されていた。

完成した壁の前で、アキラは深い感動に包まれた。
一つひとつの言葉が、イトーヨーカドーの歴史そのものだった。

お客さんたちは足を止め、自分や知人の言葉を探して目を凝らした。
中には涙ぐむ人もいた。

「アキラくん、本当にありがとう」
佐藤さんが、目に涙を浮かべながら言った。
「こんな素晴らしい形で、お店の記憶を残せるなんて」

アキラは照れくさそうに頭をかいた。
「いえ、みんなの協力があったからこそです」

その日の夕方、アキラは一人でメモリアルウォールの前に立った。
そこに、母の筆跡を見つけた。

「この店で、初めて赤ちゃんのアキラを抱いて歩いた日のこと。
 いつまでも忘れません」

アキラの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
それは悲しみの涙ではなく、感謝と温かさに満ちた涙だった。

イトーヨーカドーは確かに閉店する。
しかし、この場所が人々に与えた思い出は、
これからもずっと生き続けていくのだと、アキラは強く感じた。

夕暮れの光が、メモリアルウォールを優しく照らしていた。
それは、まるで未来への希望を示すかのようだった。
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