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西さん、頑張りましょ!
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西さんは今日もせっせとマウスの世話をする。
休日も関係なく世話をする。
自分の都合等お構いなしに、突然やってくるのが合コン話。まあ、自分主催じゃなければ当然の話だが、3日後はちと急すぎる。だが、せっかくの機会を逃すのももったいない。
結局僕は三秒程の沈黙の後に了解した。よろしくと伝えて電話を切る。
相手の女性陣は三十代三人とのこと。こちらのメンツはすぐに浮かんだが、問題は出席できるかどうか。
とりあえず、できそうな順に連絡してみようと、僕は携帯を手に取る。
「あ、角さんこんばんは。」
手始めに、元会社の先輩の角田さんに連絡をする。ここは固いはず。
「しょうがないから、行ってやるよ」
もったいぶってとは思うが、ありがたい返答に感謝。
さて次はと。僕は常連の佐藤さんに連絡する。
「佐藤さん、こんばんは。合コンあるけど、どう? 」
佐藤さんは残念ながら出張のため欠とのこと。
気を取り直し、次は鷲尾さんに。
「朝早いから、無理」
そっけない。まあ、あなたは不自由してないだろうからいいですよと、若干ひがみ混じりの悪態をつき、電話を切る。
それから三人程断られ、さすがに僕も焦る。
そりゃあ、みんな四十間近の社会人。独身で自由になる金はあっても、それなりの役についてるし、急には無理だよな。でも受けてしまった以上、今さら後には引けない。しょうがない。あんまり気は進まないが。
僕は煙草に火をつけ、一息ついてから電話をする。
「あ、西さんこんばんは。合コンどうですか? 」
僕のなかでは、西さんも固いメンツではある。でもそれはある条件をみたした場合だけなので、あまり気は進まなかった。
「行きたいけど、金がない」
予想通りの返答だった。
「僕の知ってるお店だし、そんなにかからないから行きましょうよ。せっかくの出会いのチャンスですよ」
「いや、でも給料前で金ないんだよね」
いつもならここで切るが、今回はメンツが集まりそうにないので、最後の駄目押しをする。
「お金なら気にしないでぜひ。僕が立て替えますから」
西さんはちょっとの沈黙の後に答える。
「それならいいよ。いつも悪いね。返すのはこちら都合だけどいいかな? 」
「いつでもいいですよ」
言ってしまった。
そう。西さんの条件とは金である。
電話を切り、もう一本煙草に火をつけて、僕は呟いていた。
「そこそこもらってるでしょうに」
西さんはこの土地の大学の研究員である。
他の学部と違い、西さんの研究室は全国でも名が知れていた。
僕は前に、西さんに聞いたことがあった。
「そこそこもらってるでしょうに、何でそんなにお金ないんですか? 」
西さんは、お前にだから話すという風に語り始めた。
給料体系は国家公務員とほぼ一緒。地方住まいの独身なら充分過ぎるくらいもらってる。今の職場の役職は助教で、次は准教授を狙ってるんだよね。でも、俺のついてる教授は二年後には退官する。次は別の派閥の人が教授になるのが有力。そうすると俺の准教授の目はなくなる。今の研究室は医師免許持ってる方が強くて、俺はそれがない。別になくても研究はできるけど、次の教授は医師免許持ちで、持ってる研究員を優遇するし、そもそも、今の俺の教授とはあまり仲が良くないからね。派閥も違うし、そうなると俺は准教授の空きのある大学を捜すか、有名所に論文を提出して、箔をつけて、名の知れた研究所に転職するか。何にしろ、暫く無職になるかもしれないから、金を貯めなければならない。
それを聞いて僕は西さんに言った。
「西さんさあ、じゃあ、おべべ狂いやめなよ」
西さんは痛いところを突かれて黙りこんだ。
休日も関係なく世話をする。
自分の都合等お構いなしに、突然やってくるのが合コン話。まあ、自分主催じゃなければ当然の話だが、3日後はちと急すぎる。だが、せっかくの機会を逃すのももったいない。
結局僕は三秒程の沈黙の後に了解した。よろしくと伝えて電話を切る。
相手の女性陣は三十代三人とのこと。こちらのメンツはすぐに浮かんだが、問題は出席できるかどうか。
とりあえず、できそうな順に連絡してみようと、僕は携帯を手に取る。
「あ、角さんこんばんは。」
手始めに、元会社の先輩の角田さんに連絡をする。ここは固いはず。
「しょうがないから、行ってやるよ」
もったいぶってとは思うが、ありがたい返答に感謝。
さて次はと。僕は常連の佐藤さんに連絡する。
「佐藤さん、こんばんは。合コンあるけど、どう? 」
佐藤さんは残念ながら出張のため欠とのこと。
気を取り直し、次は鷲尾さんに。
「朝早いから、無理」
そっけない。まあ、あなたは不自由してないだろうからいいですよと、若干ひがみ混じりの悪態をつき、電話を切る。
それから三人程断られ、さすがに僕も焦る。
そりゃあ、みんな四十間近の社会人。独身で自由になる金はあっても、それなりの役についてるし、急には無理だよな。でも受けてしまった以上、今さら後には引けない。しょうがない。あんまり気は進まないが。
僕は煙草に火をつけ、一息ついてから電話をする。
「あ、西さんこんばんは。合コンどうですか? 」
僕のなかでは、西さんも固いメンツではある。でもそれはある条件をみたした場合だけなので、あまり気は進まなかった。
「行きたいけど、金がない」
予想通りの返答だった。
「僕の知ってるお店だし、そんなにかからないから行きましょうよ。せっかくの出会いのチャンスですよ」
「いや、でも給料前で金ないんだよね」
いつもならここで切るが、今回はメンツが集まりそうにないので、最後の駄目押しをする。
「お金なら気にしないでぜひ。僕が立て替えますから」
西さんはちょっとの沈黙の後に答える。
「それならいいよ。いつも悪いね。返すのはこちら都合だけどいいかな? 」
「いつでもいいですよ」
言ってしまった。
そう。西さんの条件とは金である。
電話を切り、もう一本煙草に火をつけて、僕は呟いていた。
「そこそこもらってるでしょうに」
西さんはこの土地の大学の研究員である。
他の学部と違い、西さんの研究室は全国でも名が知れていた。
僕は前に、西さんに聞いたことがあった。
「そこそこもらってるでしょうに、何でそんなにお金ないんですか? 」
西さんは、お前にだから話すという風に語り始めた。
給料体系は国家公務員とほぼ一緒。地方住まいの独身なら充分過ぎるくらいもらってる。今の職場の役職は助教で、次は准教授を狙ってるんだよね。でも、俺のついてる教授は二年後には退官する。次は別の派閥の人が教授になるのが有力。そうすると俺の准教授の目はなくなる。今の研究室は医師免許持ってる方が強くて、俺はそれがない。別になくても研究はできるけど、次の教授は医師免許持ちで、持ってる研究員を優遇するし、そもそも、今の俺の教授とはあまり仲が良くないからね。派閥も違うし、そうなると俺は准教授の空きのある大学を捜すか、有名所に論文を提出して、箔をつけて、名の知れた研究所に転職するか。何にしろ、暫く無職になるかもしれないから、金を貯めなければならない。
それを聞いて僕は西さんに言った。
「西さんさあ、じゃあ、おべべ狂いやめなよ」
西さんは痛いところを突かれて黙りこんだ。
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