西さんは今日もせっせとマウスの世話をする

九丸(ひさまる)

文字の大きさ
6 / 6

その後

しおりを挟む
それからちょうど三日後、西さんが店にやって来た。何やら話したそうでそわそわしている。
「西さん、どうしたんですか?」

西さんは僕の目をじっと見て、ようやく話し始めた。
「アンマス、斉藤さんを食事に誘ってOk貰った」
今さら驚くこともない。先日に答えは出ていたし、後は西さん次第だったのだから。

僕は素直に祝福する。
「良かったですね、西さん。ちゃんとものにしてくださいよ。斉藤さん綺麗だし、歳的にもちょうどいいでしょ」
素直にのつもりだったが、表面には出ないひがみが少し入ったのは許して欲しい。

あらためて、僕は西さんの後押しをする。
「今こそ師匠の教えを発揮するときです。まあ、前回の彼女は忘れましょう。イレギュラーです。今回はいけますから」

別にいい人ぶるつもりはないが、結局応援してしまう。西さんのことは好きだから。それに、人は不幸せよりも、幸せな方がいいに決まってるしね。

西さんは告げることが終わると、一杯で店を後にした。借りた金の話もしない。

僕は思う。そういうところだぞ西さんと。


二週間くらい、何となく時は流れていき、暑さも本番となった頃に、西さんがやってきた。

あれ?何か暗いような。
西さんは、黙ったまま、注文もせずに下を向いたままだ。

たまらず僕は声をかける。
「どうしました、西さん?  明らかに分かりやすく落ち込んでますけど」
西さんは、それでも黙ったまま下を向いている。

さすがに察する。
僕も西さんが話すまで黙っていることにした。

暫くすると、西さんは話始めた。
あの後、三回食事に行った。そして、三回目の食事で告白したと。

黙り気味になる西さんを、僕は無言で促す。

西さんは語る。
その三回目でふられたと。理由を聞いたら、全然私の話に共感してくれないし、思ったことを、すぐに何でも口にするところも嫌と。あなたが誉めたつもりで言ってることでも、私が気にしていることで、不快に思うことも多々ある。きっとつきあうのは無理。今日はもう会わないと言いに来たと。

おい、おい、斉藤さん。それは余りにも酷いだろ。僕に言ってることと違うじゃないか。やっぱり共感できる、器用な3Bがいいんだね。残念。あなたは留年でした。

でも、ふと思う。怒りも最初は感じたが、よくよく考えてみれば、斉藤さんは幸せを掴むために変わろうとして頑張って、だけどまだ変われなかった。いや、変わろうとした矢先の西さんでは荷が重かったのかもしれない。

斉藤さんの真意は分からない。こちらからわざわざ連絡をすることもない。まあ、留年は一先ず取り消しに。

僕は西さんを見る。
空気を読めない不器用な西さん。今はきっと、まだ時期じゃないだけです。西さんを受け入れてくれる女性はきっといます。幸せになれる時期はきっと訪れます。僕も独り身。お互い、また合コン頑張りましょう。

僕は今心の中で思ったことを口に出す代わりに、西さんの大好きなスコッチを差し出した。
きっと言葉より伝わると思ったから。

そして西さんは今日もせっせとマウスの世話をする。休日も関係なく世話をする。

終わり
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...