国一番の大悪女は、今から屋敷の外に出て沢山の人達に愛されにいきます

海咲雪

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1.プロローグ1

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私、マリーナ・サータディアはユーキス国の第一王女でありながら、身体が弱く引き篭もりがちだった。

国王である両親には放ったらかしにされながらも、屋敷の者にはその人格によって好かれていた。

しかしよわい10代も半ばの頃には大分良くなり、そろそろ学園にも通えると思っていた矢先……



ユーキス国で、流行病が猛威を振い始めた。



死者も出始めたユーキス国では、為す術もなかった。

私は毎日毎日祈り続けた。


「どうか国民を救って下さい」、と。


そんな時、私の前に突然若い青年が現れた。

そう部屋に「突然現れた」のだ、そのままの意味で。

見た目は普通の若い青年にも関わらず、その青年の態度は不遜ふそんだった。

しかし、その態度が当たり前なことであるように感じるほど神秘的な何かを感じた。

その青年は、「フリク」と名乗った。



「マリーナ・サータディア、お前は屋敷の者以外と話したことはあるか?」



その青年は意味の分からない質問を続けた。

しかし、その威圧感はすざましく、私は気づいたら答えてしまっていた。

「体が弱いこともあって、ほとんど屋敷の者以外と話したことはありませんわ」

私が何とか答えると、その青年は急に優しい雰囲気に変わり「ふふっ」と笑った。

「へー、もっと怖がりかと思ってた。俺と初めて話しかけられて答えられるだけで凄いよ。だから、屋敷の者に好かれているんだね」

青年はそのままこう続けた。


「ねぇ、マリーナ。今ユーキス国で猛威を振るっている流行り病を治めて欲しい?」


突飛な質問でも、その青年にはその力があると感じた。


「勿論ですわ!どうかお願いします!」


すると、その青年は心底面白そうに笑うのだ。


「じゃあ、マリーナ。いっぱい嫌われて」


「え……?」


「君が嫌われた人数分だけ命を救ってあげる。というか、嫌われた人数にだけこの病の免疫をあげるよ。あー、でも、この流行り病からユーキス国全てを救うためには国民全てに嫌われるくらいじゃないと無理かな?」

その青年は私がどんな反応をするのかを心底楽しんでいるようだった。

だから、はっきりと答えた。



「分かりました。その言葉が聞けただけで十分ですわ」



私の言葉に青年は一瞬驚いた顔をした後に、ニコッと笑った。

そして、すぐに消えてしまった。

青年が消える寸前に「楽しみにしているよ」と聞こえた気がした。


それからすぐに私は屋敷の者にきつく当たり始めた。

まずは身近な者から嫌われようと思ったから。

しかし、これでは病のスピードに負けてしまうことも分かっていた。

そんな時、幼い頃から私につかえてくれているメイドのリーリルが私にこう問いかけた。


「お嬢様、何を抱えておいでですか? 貴方は人に無下にきつく当たる人ではない。絶対にです。どうか私を頼って下さい」


素直に涙が溢れた。

だから、私は答えてしまった。

教えてしまった。

起きた出来事を。

すると、リーリルはこう述べた。


「お嬢様、国民全てに嫌われることを目指すということは、敵がそれだけ増えるということです。その覚悟がお有りですか?」


「あるわ。その覚悟だけはある。私の身を滅ぼしてでも、この国の王女として私はユーキス国を守る義務があるわ」

「お嬢様、私に一つ案があります。しかし、これを教えるのは、お嬢様が自分の身も大切にすると保証した時だけです」

リーリルの優しさに、問いに、私はそっと頷いた。

リーリルは続ける。


「まず屋敷の者にはこの情報を共有します。この屋敷でお嬢様を大切に思っていない者はいません。そして、ユーキス国内では『噂』を流すのです。『マリーナ・サータディアは大悪女である』と。そして、嘘の悪行も」

「お嬢様の人格で国民に嫌われることは無理です。それに全ての国民に会いに行き、嫌われるなどお嬢様も分かっているでしょうが無謀です。ですから、噂で嫌ってもらいましょう」

「そして、もし噂を信じてお嬢様を攻撃にくる者がいれば、情報を共有している屋敷の者で守るのです」


「私のこんな突飛な話を屋敷の者は全員信じてくれるわけが……」


「信じます。それほどまでにお嬢様はこの屋敷で務めるものを大切にして下さった」


その言葉に涙が溢れたから、だから……次にフリクに何を言われるか考えなかったの。

リーリルの言う通りにしたら、ユーキス国の病はおさまっていった。

私を嫌う者が増えれば増えるほど。

噂だけで嫌われるには限度があったが、それでも噂が国全体に広がる頃には患者の人数が減り始め、患者の人数が減っていけば、その分広がりにくくなり病も治っていった。




そして、第一王女マリーナ・サータディアは国一番の悪女になった。




この機会を好機と捉えた両親は失敗した政策を全て私のせいにした。

悪政の根源だと私は国民に思われている。






そして、この物語はここから始まる。

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