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5.クラヴィス・イージェルとの出会いは
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学園に足を踏み入れると、私を遠目から見ながらコソコソと話している者ばかりだった。
耳をすませば……「誰? あんな生徒いた?」「綺麗なブロンドヘアだわ」と話している声が聞こえた。
まだ私がユーキス国の第一王女だと気づいている者はいなかった。
しかし、教室に入って自己紹介をすれば、皆の対応は一気に変わった。
私が「マリーナ・サータディア」であると知った瞬間、私に向けられる視線はあまりに厳しかった。
「は? あの大悪女?」
「大悪女っていうか悪魔でしょう? 悪政の根源じゃない」
「今更、学園に何しに来たの」
耳をすまさなくても聞こえる声で悪口を言い始めた。
しかし、私は安堵した。
直接的に害を与えようと攻撃してくる者がいなかったからだ。
私が第一王女という立場であることも大きかったのであろう。
皆、私の権力を恐れて近づかなかった。
それでも、無視や聞こえる声量での悪口は続いた。
「マリーナ様、大丈夫ですか」
クロルはずっとそばにいてくれたが、顔は険しいままだった。
「ねぇ、あの方ってクロル・サート様じゃない?」
「え、去年の騎士団の模擬戦で優勝候補だった方?」
「なんで悪女なんかと一緒にいるの?」
「噂だとマリーナ様が気に入って、自分の護衛騎士から離さないって聞いたけれど」
「最低じゃない」
「可哀想だわ」
クロルが噂をしている令嬢たちを睨みつけた。
私はすぐに小声でクロルを制止した。
「やめなさい、クロル」
「しかし、あまりに事実と違います」
「噂とは尾ひれが付くものよ。慌てる必要なんてないわ」
そして、私は自分の頬を軽くペチンと叩いた。
「そうは言っても、クロルまで巻き込むのは私の道理に反するわ」
私は令嬢たちに近づいた。
「ねぇ」
私が声をかけると令嬢たちはビクッと身体を震わせる。
きっと令嬢たちは私を怖がっている。
だって私は「大悪女」だから。
その反応で気づいたの。
国一番の嫌われ者である私は、「もう嫌われない」
もう恐れるものなんてない。
「ねぇ、貴方たち。もし私がクロルを無理やり護衛騎士にしたとするならば、クロルは私に逆らえなかったということかしら?」
令嬢たちは恐れながらも、言葉を紡いでいく。
「だって貴方はこの国の王女で……!」
「ええ、そうよ。私はこの国の第一王女。つまり、この国の騎士であるクロルが私を守ることは何も不思議ではないわ」
私の言葉に令嬢たちは「やっぱり!」と顔を強張らせ、私に軽蔑の目を向けた。
私は令嬢たちから目を逸らさない。
「だから、私はクロルが胸を張れる主人になるの」
令嬢たちは意味が分からないようだった。
「いつかクロルが私の騎士で良かったと言えるようにこれからも頑張るわ。だから……もし良かったら、貴方たちも少しでいいの。私のことを見ていて欲しい」
「噂通りの人物かどうか」
ちゃんと王女らしく最後まで微笑むことが出来ただろうか。
声は震えなかっただろうか。
私は令嬢たちを振り返らずにその場を去った。
人気のない廊下までくると、クロルが私の前に立った。
「マリーナ様、どうしてあんな無茶をなさるのですか」
「無茶などしていないわ」
「ではもしご令嬢たちが逆上したら、どうするつもりだったのですか?」
「しないわ」
私はクロルにはっきりと述べた。
「私、これでも威圧感はあってよ? それに実際に彼女たちは逆上しなかった」
その時、急に「ははっ」と誰かが吹き出したような笑い声が聞こえた。
クロルがすぐに私を守るように立つ場所を変える。
すると、廊下の角からスラッとした青年が姿を表した。
「初めまして、マリーナ・サータディア王女。クラヴィス・イージェルと申します」
私はクロルに大丈夫だと合図をして、青年に微笑んだ。
学園に入る前に確認した名簿を思い出す。
確かクラヴィス・イージェルという名は隣国マリス国の公爵子息だったはず。
「クラヴィス様、どうされましたか?」
クラヴィス様と目を合わせると、瞳の奥を覗かれているような不思議な感覚に陥った。
「先ほどの令嬢たちとのやり取りを見て気になって追いかけて来たのだけれど、貴方は随分と噂と違うようだ」
「ねぇ、貴方はどうして国一番の大悪女と呼ばれているの?」
また物語が大きく動き始める。
耳をすませば……「誰? あんな生徒いた?」「綺麗なブロンドヘアだわ」と話している声が聞こえた。
まだ私がユーキス国の第一王女だと気づいている者はいなかった。
しかし、教室に入って自己紹介をすれば、皆の対応は一気に変わった。
私が「マリーナ・サータディア」であると知った瞬間、私に向けられる視線はあまりに厳しかった。
「は? あの大悪女?」
「大悪女っていうか悪魔でしょう? 悪政の根源じゃない」
「今更、学園に何しに来たの」
耳をすまさなくても聞こえる声で悪口を言い始めた。
しかし、私は安堵した。
直接的に害を与えようと攻撃してくる者がいなかったからだ。
私が第一王女という立場であることも大きかったのであろう。
皆、私の権力を恐れて近づかなかった。
それでも、無視や聞こえる声量での悪口は続いた。
「マリーナ様、大丈夫ですか」
クロルはずっとそばにいてくれたが、顔は険しいままだった。
「ねぇ、あの方ってクロル・サート様じゃない?」
「え、去年の騎士団の模擬戦で優勝候補だった方?」
「なんで悪女なんかと一緒にいるの?」
「噂だとマリーナ様が気に入って、自分の護衛騎士から離さないって聞いたけれど」
「最低じゃない」
「可哀想だわ」
クロルが噂をしている令嬢たちを睨みつけた。
私はすぐに小声でクロルを制止した。
「やめなさい、クロル」
「しかし、あまりに事実と違います」
「噂とは尾ひれが付くものよ。慌てる必要なんてないわ」
そして、私は自分の頬を軽くペチンと叩いた。
「そうは言っても、クロルまで巻き込むのは私の道理に反するわ」
私は令嬢たちに近づいた。
「ねぇ」
私が声をかけると令嬢たちはビクッと身体を震わせる。
きっと令嬢たちは私を怖がっている。
だって私は「大悪女」だから。
その反応で気づいたの。
国一番の嫌われ者である私は、「もう嫌われない」
もう恐れるものなんてない。
「ねぇ、貴方たち。もし私がクロルを無理やり護衛騎士にしたとするならば、クロルは私に逆らえなかったということかしら?」
令嬢たちは恐れながらも、言葉を紡いでいく。
「だって貴方はこの国の王女で……!」
「ええ、そうよ。私はこの国の第一王女。つまり、この国の騎士であるクロルが私を守ることは何も不思議ではないわ」
私の言葉に令嬢たちは「やっぱり!」と顔を強張らせ、私に軽蔑の目を向けた。
私は令嬢たちから目を逸らさない。
「だから、私はクロルが胸を張れる主人になるの」
令嬢たちは意味が分からないようだった。
「いつかクロルが私の騎士で良かったと言えるようにこれからも頑張るわ。だから……もし良かったら、貴方たちも少しでいいの。私のことを見ていて欲しい」
「噂通りの人物かどうか」
ちゃんと王女らしく最後まで微笑むことが出来ただろうか。
声は震えなかっただろうか。
私は令嬢たちを振り返らずにその場を去った。
人気のない廊下までくると、クロルが私の前に立った。
「マリーナ様、どうしてあんな無茶をなさるのですか」
「無茶などしていないわ」
「ではもしご令嬢たちが逆上したら、どうするつもりだったのですか?」
「しないわ」
私はクロルにはっきりと述べた。
「私、これでも威圧感はあってよ? それに実際に彼女たちは逆上しなかった」
その時、急に「ははっ」と誰かが吹き出したような笑い声が聞こえた。
クロルがすぐに私を守るように立つ場所を変える。
すると、廊下の角からスラッとした青年が姿を表した。
「初めまして、マリーナ・サータディア王女。クラヴィス・イージェルと申します」
私はクロルに大丈夫だと合図をして、青年に微笑んだ。
学園に入る前に確認した名簿を思い出す。
確かクラヴィス・イージェルという名は隣国マリス国の公爵子息だったはず。
「クラヴィス様、どうされましたか?」
クラヴィス様と目を合わせると、瞳の奥を覗かれているような不思議な感覚に陥った。
「先ほどの令嬢たちとのやり取りを見て気になって追いかけて来たのだけれど、貴方は随分と噂と違うようだ」
「ねぇ、貴方はどうして国一番の大悪女と呼ばれているの?」
また物語が大きく動き始める。
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