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27.クロルの本心は
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クラヴィスと街へ出かけた翌日の早朝こと。
もう日は上りかけて、少しだけ辺りが明るくなってきている。
私は何故か心が落ち着かなくて、寮の庭を歩いていた。
庭は男子寮と女子寮の間にあり、共有スペースになっている。
その時、急に後ろから声をかけられた。
「マリーナ様、眠れなかったのですか?」
「クロル……! えっと、少し落ち着かなくて……」
クロルが何かを考え込んだ後に、私に「温かい飲み物でもお入れしましょうか?」と優しく問いかけた。
「いいの? クロルもまだ休んでいた方が……」
「丁度、私も早くに目が覚めたのです。それに、私の気晴らしにもなりますので」
その言葉がクロルの優しい気遣いだと分かっていたが、私はその気遣いに甘えることにした。
「では、お願いしようかしら」
クロルはすぐに寮の庭にあるガゼボに温かい紅茶を入れてきてくれる。
「ありがとう、クロル」
私は紅茶を一口頂いて、ゆっくりとカップを戻す。
「ねぇ、クロル。私、昨日街へ出かけたことが本当に楽しかったの……自分が『大悪女』だということを忘れるくらい」
「マリーナ様……」
「分かっているわ。噂は少しずつだけれど、変わってきている。でもね、たまに思うの」
「一生、このままだったらどうしようって。『大悪女』という噂が学園の中で薄れてきている今ですら思うの。私は一生『大悪女』のままなんじゃないかって」
その時、私の手が紅茶のカップに当たった。
ガシャン、と大きな音が鳴り、紅茶のカップが割れる。
同時に私の手に痛みが走った。
割れた紅茶のカップの破片が飛び散り、咄嗟に手を伸ばした私の手の甲を軽く切ったようだった。
「マリーナ様……! 大丈夫ですか!」
「ええ、私は大丈夫……私こそごめんなさい。手元をしっかり見ていなかったわ」
クロルがすぐに私の手を取り、傷を確認している。
そして、焦ったように眉を顰めた。
「すみません……! 私も急だったため、何も持っていなくて。マリーナ様、何かお持ちでしょうか?」
クロルの問いに私は持ち物を確認したが、傷を抑えられそうなものはなくて。
その時、クロルが私の持っていたハンカチに気づいた。
「マリーナ様、それは……」
クロルが私の持っていたハンカチに手を伸ばす。
「駄目っ! それはクロルがくれたハンカチでしょ……! 血がつくなんて駄目!」
それは、馬術大会の時にクロルがくれたハンカチだった。
すると、クロルが私を叱るように厳しい声を上げた。
「御身より大事なものがお有りですか……!!!」
クロルにそう怒られても、どうしても嫌で私は言い返しそうになってしまう。
「だって……!」
すると、クロルが私の手を噛み締めるようにぎゅっと握った。
「マリーナ様、私はマリーナ様の命令に逆らうことは出来ません。しかし、ハンカチなどどれだけでもこれからも渡しましょう。どうか賢明な判断を」
クロルの言葉に私は、そっとハンカチを差し出した。
クロルがハンカチを受け取り、私の傷の手当てを始める。
少しだけ沈黙が続いた後、しばらくしてクロルが口を開いた。
「マリーナ様、貴方様が護衛騎士の渡したハンカチすら大切にして下さる方だから、私は……」
「クロル……?」
クロルが悔しそうに唇を噛んだかと思うと、何かを堪えるように顔を上げた。
「どうか誰よりも幸せになって下さい。この国一番の悪女などマリーナ様には似合わない」
「マリーナ様が幸せになって下さらないと、私は……いえ、マリーナ様の幸せだけが私の望みなのです」
クロルが傷を手当てを終えると、ガゼボを出ていこうとする。
「クロル!」
「すぐにリーリルを呼んで参ります。カップの破片の片付けもありますから」
いつも通りの仕事の早いクロルのはずなのに、どこかいつもと違う雰囲気がした。
それでも、何故か呼び止めることは出来なくて。
私は飛び散ったカップの破片をただ眺めていた。
そしてその日、私にある一通の手紙が届くことになる。
もう日は上りかけて、少しだけ辺りが明るくなってきている。
私は何故か心が落ち着かなくて、寮の庭を歩いていた。
庭は男子寮と女子寮の間にあり、共有スペースになっている。
その時、急に後ろから声をかけられた。
「マリーナ様、眠れなかったのですか?」
「クロル……! えっと、少し落ち着かなくて……」
クロルが何かを考え込んだ後に、私に「温かい飲み物でもお入れしましょうか?」と優しく問いかけた。
「いいの? クロルもまだ休んでいた方が……」
「丁度、私も早くに目が覚めたのです。それに、私の気晴らしにもなりますので」
その言葉がクロルの優しい気遣いだと分かっていたが、私はその気遣いに甘えることにした。
「では、お願いしようかしら」
クロルはすぐに寮の庭にあるガゼボに温かい紅茶を入れてきてくれる。
「ありがとう、クロル」
私は紅茶を一口頂いて、ゆっくりとカップを戻す。
「ねぇ、クロル。私、昨日街へ出かけたことが本当に楽しかったの……自分が『大悪女』だということを忘れるくらい」
「マリーナ様……」
「分かっているわ。噂は少しずつだけれど、変わってきている。でもね、たまに思うの」
「一生、このままだったらどうしようって。『大悪女』という噂が学園の中で薄れてきている今ですら思うの。私は一生『大悪女』のままなんじゃないかって」
その時、私の手が紅茶のカップに当たった。
ガシャン、と大きな音が鳴り、紅茶のカップが割れる。
同時に私の手に痛みが走った。
割れた紅茶のカップの破片が飛び散り、咄嗟に手を伸ばした私の手の甲を軽く切ったようだった。
「マリーナ様……! 大丈夫ですか!」
「ええ、私は大丈夫……私こそごめんなさい。手元をしっかり見ていなかったわ」
クロルがすぐに私の手を取り、傷を確認している。
そして、焦ったように眉を顰めた。
「すみません……! 私も急だったため、何も持っていなくて。マリーナ様、何かお持ちでしょうか?」
クロルの問いに私は持ち物を確認したが、傷を抑えられそうなものはなくて。
その時、クロルが私の持っていたハンカチに気づいた。
「マリーナ様、それは……」
クロルが私の持っていたハンカチに手を伸ばす。
「駄目っ! それはクロルがくれたハンカチでしょ……! 血がつくなんて駄目!」
それは、馬術大会の時にクロルがくれたハンカチだった。
すると、クロルが私を叱るように厳しい声を上げた。
「御身より大事なものがお有りですか……!!!」
クロルにそう怒られても、どうしても嫌で私は言い返しそうになってしまう。
「だって……!」
すると、クロルが私の手を噛み締めるようにぎゅっと握った。
「マリーナ様、私はマリーナ様の命令に逆らうことは出来ません。しかし、ハンカチなどどれだけでもこれからも渡しましょう。どうか賢明な判断を」
クロルの言葉に私は、そっとハンカチを差し出した。
クロルがハンカチを受け取り、私の傷の手当てを始める。
少しだけ沈黙が続いた後、しばらくしてクロルが口を開いた。
「マリーナ様、貴方様が護衛騎士の渡したハンカチすら大切にして下さる方だから、私は……」
「クロル……?」
クロルが悔しそうに唇を噛んだかと思うと、何かを堪えるように顔を上げた。
「どうか誰よりも幸せになって下さい。この国一番の悪女などマリーナ様には似合わない」
「マリーナ様が幸せになって下さらないと、私は……いえ、マリーナ様の幸せだけが私の望みなのです」
クロルが傷を手当てを終えると、ガゼボを出ていこうとする。
「クロル!」
「すぐにリーリルを呼んで参ります。カップの破片の片付けもありますから」
いつも通りの仕事の早いクロルのはずなのに、どこかいつもと違う雰囲気がした。
それでも、何故か呼び止めることは出来なくて。
私は飛び散ったカップの破片をただ眺めていた。
そしてその日、私にある一通の手紙が届くことになる。
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