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迷子の電波
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アルバイトを終えて大学の最寄駅から電車に飛び乗ったら、不自然にふくらんだ上着の左ポケットから有線のイヤホンを取り出して耳に差し込む。
カチリ、とはっきりとした音を鳴らしてスイッチをオン。
『――ガガッ……、ラジオネームひよこライスさんのリクエスト『The Hellcat Spangled Shalalala』、お聴きください』
決して質がいいとは言えないラジオのガサガサとした音が耳の奥まで満ちていく。
クリアじゃないこの音がかえって温かみがあって、私は好きだったりする。
十月の金曜二十三時。
根岸津奈子、大学三年のありふれた日常。
ドアのそばに立って流れていく夜の景色をながめる。
高架になったこの路線は、商業ビルの向こうの商店街から住宅街、さらに向こうのビル群のシルエットまで、光の粒をまとった夜景を見渡すことができる。
この景色を見ながらラジオを聴いていると、都会にいるんだって実感する。なぜだかわからないけれど、聴いていない時よりもはっきりと感じる。
『この後は交通情報。僕とはまた後ほど。Stay tune』
私がとくに好きなのはこの時間に毎日放送されている『スターダスト・ティータイム』。DJのコハクさんの声は落ち着いていて優しいし、選曲がおしゃれで私好みだから。
「やっぱりいいなぁ、ラジオ」
ポツリとつぶやいてため息をこぼし、流れるようにスマホに視線を落とす。
そこに映し出されたのはため息の原因。
【スターダスト・ティータイム、アシスタントスタッフ募集】のお知らせ……と【募集は締め切りました】の赤い文字。
先週末で募集が締め切られたラジオ局のアルバイト。応募しようか迷って、今やってるバイトもあるし、と結局応募ボタンを押す勇気が出せなかった。
だけどやっぱりラジオが好きで、こんなに素敵な番組に関われるのならダメ元で応募すればよかったとここ数日後悔しっぱなしだ。
『ガガ……』
走っている電車では電波が拾いにくくて音が悪い。
『……ィトねこねこレディオ~今夜のゲストは――』
「あ、また」
私のラジオは、こうして時々他の番組の電波やタクシーの無線なんかを拾ってしまう。どうやら混信という現象らしい。
『DJザラメのお悩み相談コーナーにゃ』
ここのところ、電車が自宅の最寄駅に近づくとよくこの『ミッドナイトねこねこレディオ』とかいう番組の電波を受信してしまう。それも決まって悩み相談らしきコーナー。
〝らしき〟なのは、混信なだけあって断片的にしか音が聴こえず軽いストレスを抱えているから。チャンネルを変えたくてチューニングを合わせようとしても、どういうわけかずっと『ねこねこレディオ』のままだ。
『ふむふむ。それでどうしたのかニャ』
このDJザラメとかいう人物はどうやらちょっとおかしな人らしく、語尾が「ニャ」とか「ニャン」とか猫になりきっているようだ。
バイト帰りはコハクさんの優しい声に癒されたいというのに、こんなおかしなラジオを聴かなければいけないなんて。
そうこうしているうちに、電車は駅に到着。
改札を抜けても耳の中にはまだ『ねこねこレディオ』。混信ってなんて厄介なんだろう。
カチリ、とはっきりとした音を鳴らしてスイッチをオン。
『――ガガッ……、ラジオネームひよこライスさんのリクエスト『The Hellcat Spangled Shalalala』、お聴きください』
決して質がいいとは言えないラジオのガサガサとした音が耳の奥まで満ちていく。
クリアじゃないこの音がかえって温かみがあって、私は好きだったりする。
十月の金曜二十三時。
根岸津奈子、大学三年のありふれた日常。
ドアのそばに立って流れていく夜の景色をながめる。
高架になったこの路線は、商業ビルの向こうの商店街から住宅街、さらに向こうのビル群のシルエットまで、光の粒をまとった夜景を見渡すことができる。
この景色を見ながらラジオを聴いていると、都会にいるんだって実感する。なぜだかわからないけれど、聴いていない時よりもはっきりと感じる。
『この後は交通情報。僕とはまた後ほど。Stay tune』
私がとくに好きなのはこの時間に毎日放送されている『スターダスト・ティータイム』。DJのコハクさんの声は落ち着いていて優しいし、選曲がおしゃれで私好みだから。
「やっぱりいいなぁ、ラジオ」
ポツリとつぶやいてため息をこぼし、流れるようにスマホに視線を落とす。
そこに映し出されたのはため息の原因。
【スターダスト・ティータイム、アシスタントスタッフ募集】のお知らせ……と【募集は締め切りました】の赤い文字。
先週末で募集が締め切られたラジオ局のアルバイト。応募しようか迷って、今やってるバイトもあるし、と結局応募ボタンを押す勇気が出せなかった。
だけどやっぱりラジオが好きで、こんなに素敵な番組に関われるのならダメ元で応募すればよかったとここ数日後悔しっぱなしだ。
『ガガ……』
走っている電車では電波が拾いにくくて音が悪い。
『……ィトねこねこレディオ~今夜のゲストは――』
「あ、また」
私のラジオは、こうして時々他の番組の電波やタクシーの無線なんかを拾ってしまう。どうやら混信という現象らしい。
『DJザラメのお悩み相談コーナーにゃ』
ここのところ、電車が自宅の最寄駅に近づくとよくこの『ミッドナイトねこねこレディオ』とかいう番組の電波を受信してしまう。それも決まって悩み相談らしきコーナー。
〝らしき〟なのは、混信なだけあって断片的にしか音が聴こえず軽いストレスを抱えているから。チャンネルを変えたくてチューニングを合わせようとしても、どういうわけかずっと『ねこねこレディオ』のままだ。
『ふむふむ。それでどうしたのかニャ』
このDJザラメとかいう人物はどうやらちょっとおかしな人らしく、語尾が「ニャ」とか「ニャン」とか猫になりきっているようだ。
バイト帰りはコハクさんの優しい声に癒されたいというのに、こんなおかしなラジオを聴かなければいけないなんて。
そうこうしているうちに、電車は駅に到着。
改札を抜けても耳の中にはまだ『ねこねこレディオ』。混信ってなんて厄介なんだろう。
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