魔術師アルガは、親友の夢の果てに何を見るか

椎名

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第三章:動き出す運命の歯車

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「何してるの君たち?」
突然の声に、ラミアたちはビクリと肩を震わせた。振り返ると、そこにはリアスが腕を組み、怪訝な表情で立っていた。僕の鋭い視線に、ラミアは思わず薬学の書物を背中に隠し、ルディとグスタフも慌てて姿勢を正す。
「あ、いや、えっと……その……」
ラミアがしどろもどろになっていると、リアスはフン、と鼻を鳴らした。
「あんたたち、まさか『シュテルンの悪魔たち』を覗き見してたわけじゃないでしょうね?」
図星を指され、三人は顔を見合わせる。ルディが意を決して前に出た。
「いえ!そんなつもりは……ただ、シュテルン魔法学校の先輩方が集まっているのを見て、少し気になっただけで……」
ルディの言葉に、リアスは眉をひそめた。
「先輩方? へぇ、随分と懐かしい呼び方をするわね。それにしても、あんたたち、在校生でしょう? こんなところで油を売ってる場合じゃないんじゃない?」
グスタフが恐る恐る口を開いた。
「でも、先輩方のお話、すごく重要そうだったので……私たちも何かお手伝いできることがあるかもしれないと……」
その言葉に、リアスはフッと笑みを漏らした。
「なるほどね。あんたたちも、『シュテルンの悪魔たち』の騒動に巻き込まれたいってわけ?」
ラミアの目が輝いた。
「もし、お役に立てるのなら!」
リアスは三人の顔をじっと見つめた後、小さくため息をついた。
「……まあ、いいわ。ちょうど人手が足りないところだし。ただし、邪魔だけはしないでちょうだい。それに、レイの件に首を突っ込むのは絶対に許さないわよ」
リアスの言葉に、三人は歓声を上げそうになったが、僕の最後の言葉でピタリと動きを止めた。レイ・ブラッドの事件は、シュテルン魔法学校の生徒なら誰もが知る、悲惨な過去だったからだ。
「さあ、あんたたちも来るならついてきなさい。どうせ、すぐに音を上げるでしょうけどね」
リアスはそう言い残すと、背を向けてアルガたちのいる場所へと向かっていった。ラミアたちは顔を見合わせ、興奮と少しの不安を胸に、急いでその後を追った。
作戦会議が行われている部屋は、先ほどの研究会のホールとは打って変わって、静かで落ち着いた雰囲気だった。円卓を囲むように、アルガ、アリス、レオン、ユリウスの四人が座り、中央には夢幻草のスケッチと、複雑な魔法陣が描かれた羊皮紙が広げられていた。
リアスが戻ってきたのを見て、アルガが穏やかに問いかけた。
「どうした、リアス。何かあったのか?」
リアスはため息まじりに答えた。
「いえ、道草食ってた連中を連れてきただけよ。物見遊山なら帰れって言ってやったわ」
アルガはラミアたち三人の顔を見て、にこやかに微笑んだ。
「そうか。わざわざありがとう、リアス。君たちも、興味があるなら話を聞いていくといい」
アルガの温かい言葉に、ラミアたちは恐縮しながらも、テーブルの端に設けられた椅子に座った。
アリスが話を切り出した。
「これまでの研究で、夢幻草は特定の魔力波長に反応し、潜在的な記憶を活性化させることが分かりました。しかし、この効果を安定して引き出すには、高純度の魔力を継続的に供給する必要があります。そこで、この魔法陣を改良し、夢幻草の効能を最大限に引き出す装置を開発したいと考えています」
ユリウスが冷静に付け加える。
「問題は、その高純度の魔力をどのように確保するかだ。通常の魔法使いの魔力では、安定した供給は難しい。それに、夢幻草は非常にデリケートな植物だ。過剰な魔力は、かえってその効能を損なう可能性がある」
レオンが腕を組みながら言った。
「つまり、俺たちの出番ってことか。昔みたいに、無茶な魔力操作をするってわけか?」
アルガが首を横に振った。
「いや、違う。今回はもっと繊細な作業が求められる。そこで、夢幻草が持つ記憶活性化の力を、安全に引き出すための魔法薬を開発したい。その魔法薬と、改良した魔法陣を組み合わせることで、失われた古代魔法の知識を取り戻すことができるかもしれない」
リアスが驚いたように言った。
「魔法薬と魔法陣の組み合わせ……? そんなこと、本当に可能なの?」
アルガは力強く頷いた。
「ああ。もし成功すれば、レイのことも……」
アルガの口から「レイ」という名前が出た途端、部屋の空気が一瞬で凍り付いた。特にリアスは、その顔から笑顔が消え、厳しい表情になった。
「……レイの名前を、ここで出さないで。あれは、もう終わったことよ」
リアスの声には、深い悲しみと怒りが混じっていた。
「分かっている。だが、夢幻草の力が、もし失われた記憶を取り戻すことができるのなら、レイが闇の遺物に飲まれた真実も解き明かせるかもしれない。俺は、その可能性を捨てたくないんだ」
アルガの言葉に、レオンとユリウスも静かに頷いた。彼らもまた、レイの事件に深く心を痛めていたからだ。
部屋の隅で話を聞いていたラミアたちは、ただ事ではない雰囲気に息をのんでいた。特にレイ・ブラッドという名前が、彼らにとってどれほど重い意味を持つか、その場の緊張感から察することができた。
「俺は、レイを救いたい。それが、俺たちの贖罪だ」
アルガの力強い言葉が、静寂に包まれた部屋に響き渡った。彼の翡翠の瞳には、かつての自由奔放な輝きだけでなく、仲間への深い思いと、過去への責任感が宿っていた。アルガの言葉を聞き、リアスもまた、かすかに瞳を揺らした。
その夜の会議は、彼らの決意を新たにするものとなった。翌日から、アルガたちは夢幻草の研究と、レイ・ブラッドの事件の真相を探るための本格的な活動を開始した。
「あの……」
会議が一段落したところで、ラミアが意を決して声を上げた。アルガたちが彼女に視線を向ける。
「私たち、ラミア・ファーレンハイト、ルディ・フリューゲル、グスタフ・バルト、三人で、皆さんの手伝いをさせていただけないでしょうか!」
ラミアの言葉に、ルディとグスタフも真剣な表情で頷いた。その場の空気が一瞬にして変わる。
リアスが最初に口を開いた。
「手伝い? 本気で言ってるの? あんたたち、『シュテルンの悪魔たち』って呼ばれた連中が、どれだけ厄介か知ってるの?」
レオンがニヤリと笑った。
「おやおや、まさかこんなところで手伝い志願者が現れるとはね。俺は歓迎するぜ、可愛い後輩ちゃんたち」
ユリウスは冷静な声で言った。
「安易な考えで口にするべきではない。我々のやろうとしていることは、非常に危険を伴う。それに、あなたたちはまだ学生だ」
アルガは三人の顔を一人ずつ見つめた。ラミアの揺るぎない決意、ルディの真っ直ぐな瞳、そしてグスタフの静かなる覚悟。彼の脳裏に、かつての自分たちの姿が重なった。
「……面白い。だが、俺たちの力になりたいというなら、それ相応の覚悟と実力を見せてもらわなければならないな」
アルガがそう言うと、三人の顔に希望の光が宿る。
「では、今からここで、お前たちの力を試させてもらう」
アルガはそう告げると、杖を取り出し、部屋の中央に一歩踏み出した。彼の瞳が、かつての幼さを消し去った真剣な光を宿す。
「古代水魔法――『霧散幻影(むさんげんえい)』」
アルガが呪文を唱えると、室内に突如として濃密な霧が立ち込め始めた。それは瞬く間に広がり、部屋全体を白い幕で覆い尽くす。視界が真っ白になる中、ラミアたちは戸惑いと緊張で身を硬くした。
「この霧は、古代魔法を応用したものだ。ただの霧じゃない。俺はこれを使って、幻影を作り出すことができる。その幻影は、攻撃にも転じられる。お前たちには、この霧の中から、俺を見つけ出し、無力化してもらう」
アルガの声が、霧の中から響いてくる。声の方向を探ろうとするが、霧が音を曖昧にし、正確な位置を掴ませない。
「制限時間は十分。もし、時間内に俺を見つけられなければ、お前たちの手伝いは認めない。始めろ」
アルガの言葉を合図に、霧の中に複数の人影が揺らめき始めた。それはまるで、部屋の中を移動するアルガ自身のようにも、全く別の存在のようにも見える。幻影は不規則に動き回り、時には鋭い水の刃となって彼らに襲いかかった。
ラミアは素早く魔法薬を取り出すと、霧の動きを鈍らせる薬を調合し、散布した。しかし、霧はすぐにその効果を上書きするように再び濃密になった。
「くっ……これじゃ、まともに見えない!」
ルディが風魔法で霧を吹き飛ばそうとするが、霧はまるで生きているかのように、風の流れに合わせて形を変え、攻撃をかわす。
「風の魔力と霧の魔力が相殺されている……!」
グスタフは土魔法で足場を固め、身を守りながら、五感を使ってアルガの気配を探る。だが、幻影の動きとアルガの魔力が混じり合い、本物の気配を掴むことができない。
レオンとユリウス、そしてアリスとリアスは、彼らの様子を静かに見守っていた。リアスの顔には、不安と期待が入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。
アルガの試験が終わると、霧は静かに消え去った。息を切らしている三人の学生の前に、アルガが姿を現す。
「ふむ……。確かに、それぞれの才覚は感じられた。だが、足りないものがあるな」
アルガの言葉に、ラミアたちの顔に落胆の色が浮かぶ。
「ですが、私たちは本気です! どうか、もう一度チャンスを……!」
アルガは静かに首を振った。
「もう一度試練を与えるわけじゃない。お前たちには、それぞれが持つ特性をより伸ばすための指導役についてもらう」
アルガはそう言うと、リアスに目を向けた。
「リアス。ラミアは、魔法薬学に長けている。お前の下で、もっとその才能を伸ばしてやれないか?」
リアスは一瞬ためらったが、やがて小さく頷いた。
「……僕に逆らわなければ、考えてもいいわよ」
次にアルガはレオンに視線を移す。
「レオン。ルディの風魔法は、お前との相性が良さそうだ。実戦的な応用を教えてやってくれないか?」
レオンは快諾した。
「へぇ、俺の指導を受けるわけか。面白くなりそうだね、ルディちゃん」
そして、アルガの視線はユリウスに向かった。
「ユリウス。グスタフの土魔法は、堅実で基礎がしっかりしている。お前のもとで、魔法の応用と、実践的な知識を教えてやってくれないか?」
ユリウスは静かに頷いた。
「私の知識が役に立つならば、喜んで。ただし、規律は守ってもらう」
こうして、アルガたちと若き三人の在校生たちの、新たな協力関係が幕を開けた。彼らの運命は、迷宮の奥深くで、一体どのような試練を待ち受けているのだろうか。闇の魔法使いの復活、夢幻草の謎、そしてレイ・ブラッドの真実――。数多の謎が絡み合う中、彼らの冒険は、今、始まったばかりだった。
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