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第二章:古都の風と邂逅
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翌朝。アルガは再びハンドルを握りしめ、夏の空の下を走り始めた。昨夜の微かな胸騒ぎは、未だ消え去ることなく彼の胸の奥に燻っていた。アルガは、この胸のざわめきの正体を突き止めようと、心のどこかで望んでいたのかもしれない。気がつけば、彼の足は自然と、古都シュテルンへと向かっていた。
シュテルンは、かつて魔法使いたちの学び舎が集まり栄えた都であり、現在も多くの魔法使いが住む文化都市である。街を彩る中世の建物の隙間からは、時折魔法の閃光が漏れ出し、古代から続く知恵の香りが漂っていた。街の至る所には魔法の泉や魔道具の店が点在し、魔法薬の調合材料を求める冒険者たちが行き交っていた。そんな活気に溢れる街の一角に、アルガは静かに車を停めた。
彼が訪れたのは、「魔法薬研究会」。これは、全国の魔法薬学研究者たちが集う組織であり、最新の研究成果や情報が交換される場所だった。アルガ自身も、ここへは時折顔を出し、自分の研究成果を発表したり、他の研究者から刺激を受けたりしていた。彼は研究会の受付で手続きを済ませると、薄暗いホールへと足を踏み入れた。ホールの中には、既に数十人の参加者が集まっていた。彼らは各々が持ち寄った研究成果を発表し合ったり、議論を交わしたりしていた。
「さて、何から見て回ろうか……」
アルガは、魔法薬の調合に関する最新のトレンドが記された巨大なホワイトボードに目をやった。そこには、「新素材の可能性」、「副作用の制御」、「魔法薬と魔法の相乗効果」など、様々なトピックが列挙されていた。その中で彼の目に留まったのは、「古来種の薬草の再発見」というトピックだった。その詳細を求めて、彼は興味深そうに人ごみを掻き分けていく。
会場の奥には、今回の研究会で最も注目を集めているという発表があった。壇上に立っていたのは、まだ若い女性研究者だった。彼女の名前はアリス・クロウリー。彼女が発表している内容は、「古代の伝承に登場する『夢幻草』の現代的な再定義とその効能の検証」に関するものだった。夢幻草とは、かつて魔法使いたちの間で伝説として語り継がれてきた植物だ。その葉には、飲んだ者の過去の記憶を呼び覚ます力があるとされ、一部ではその力を利用することで、失われた古代魔法の知識を取り戻せるのではないかという期待があった。しかし、現代において夢幻草**の実在は疑問視され、その存在は完全に幻の植物として扱われていた。
アリスは、その夢幻草を実際に見つけ出し、その効能を科学的に証明したのだ。彼女のプレゼンテーションは、古代魔法文明の遺跡から発見された夢幻草のサンプルや、それを利用した魔法薬の調合実験の結果など、詳細なデータとグラフで構成されていた。
「夢幻草の葉には、特異な波長の魔力を放出する成分が含まれています。この魔力が脳の特定部位に作用することで、潜在的な記憶を活性化させると考えられます。また、この成分は通常の薬草よりもはるかに強い魔力伝達効率を持ち、魔法薬の効果を増幅させる可能性も示唆されています」
アリスの説明に合わせて、大型ディスプレイに映し出されたグラフがスライドしていった。その数値は確かに夢幻草の驚異的な効能を物語っていた。
「夢幻草か……これほどまでに強力な成分が現代の植物に含まれているとは……」
アルガは、その発表に強い関心を示しながら、頭の中で様々な可能性を考えていた。しかし、その時、突然会場の反対側から大きな声が響き渡った。
「夢幻草なんてありえない! あんなものはただの迷信だ!」
声の主は、アルガと同じ世代の魔法使いで、彼の学生時代の級友、リアス・ブラックウッドだった。彼女は昔からイタズラ好きで、アルガと共に何度も教師たちを困らせてきた人物だった。彼女は、手に持った分厚い本を力強く叩きつけながら、アリスに向かって激しく反論し始めた。
「古代の文献には、確かに夢幻草の記述はある。しかし、それが本当に現存する植物なのかは疑問だ。おそらく、それはただの寓話か、あるいは何か別のものを誤認した結果だろう」
「しかし、夢幻草のサンプルは確かに存在します。それに、古代の薬草辞典にもその存在が記載されています」
アリスは冷静に反論するが、リアスはなおも食い下がる。
「だったら、そのサンプルの出所を証明してみろ! それこそ、何者かによって捏造されたものじゃないのか?」
二人の言い争いに、会場内は徐々に緊迫した雰囲気に包まれていく。その様子を見ていたアルガは、小さくため息をつくと、ゆっくりと壇上へと近づいていった。彼は、リアスの肩を軽く叩き、穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。
「久しぶりだな、リアス。相変わらず元気そうだ」
「アルガ……? お前も来てたのか」
リアスは驚いた表情で振り返った。彼女が最後にアルガに会ったのは数年前のことだ。当時はまだ魔法学校の学生だった二人も、今ではそれぞれ異なる道を歩んでいる。アルガは自由な旅人となり、一方のリアスは魔法薬研究者として名を馳せていた。
「アリスさん、あなたの発表は非常に興味深かった。しかし、夢幻草の実在性についてはまだ議論の余地があると思う。もう少し具体的な証拠があれば納得できるのだが……」
アルガはそう言って、アリスに微笑みかける。アリスもまた、彼の言葉に耳を傾ける。
「アルガさんの仰る通りです。私自身もまだ完全な確信は持てていません。これからさらなる研究を重ね、その効能を立証していきたいと思っています」
「ならば、私も協力しよう。夢幻草が本当に存在するならば、その力は魔法薬の世界を大きく変えうる可能性がある。共に真実を探し求めてみようじゃないか」
「ありがとうございます! アルガさんの協力があれば心強いです!」
アリスの瞳に希望の光が灯った。その様子を見て、リアスもまた内心で少しだけ安堵した。
その時、会場の隅で二人の男がひそひそと話し込んでいた。彼らはレオン・シルヴァーバーグとユリウス・クロフォード。どちらもアルガとリアスの旧友であり、かつて四人で数々の騒動を巻き起こしてきた仲間だった。
レオンはおちゃらけた性格で、ことあるごとにジョークを飛ばすのが得意技だった。彼の言葉にはいつも軽妙なユーモアが込められていたが、その一方で女たらしの一面も持っていた。
ユリウスは冷静沈着な性格で、常に冷静な判断を下すことができるタイプだった。彼は魔法医学において非常に優秀な才能を持ち、研究者としても高い評価を受けていた。しかし、その冷徹さが時に人間味に欠ける印象を与えていた。
「アルガの奴、相変わらずだな。何でも面白がって首を突っ込む」
レオンが楽しげに言うと、ユリウスが苦笑しながら答える。
「それでも彼の腕は確かだ。彼が加われば、夢幻草の謎も解けるかもしれない」
その言葉にレオンは笑みを深めながら答える。
「まあ、アルガの好奇心は今に始まったことじゃないけどね。でも、彼が関わるとなれば面白くなりそうだ」
「ああ。だが、もし夢幻草が本当に存在すれば、その影響力は計り知れない。慎重に対処しなければならない」
「ふふん、慎重にね。どうせアルガのことだから、また何か面倒なことに首を突っ込むに違いないけどな」
レオンは軽く肩をすくめながら答えると、ちらりと壇上の方に視線を投げた。そこには、アルガとアリスが夢幻草に関する具体的な実験計画について熱心に話し込んでいる姿があった。
その様子を見て、ユリウスはふと懐かしい思い出に浸る。学生時代、アルガたち四人はよく一緒に授業をサボっては冒険を繰り広げていた。特にアルガは誰よりも自由奔放で、いつも何か新しいことを試そうとしていた。その好奇心旺盛な性格は今も変わっていないようだ。
ユリウスはそんなアルガを少し羨ましく思いながらも、彼の存在がいつも周りに活力を与えることを知っていた。
「アルガ……お前の行動力にはいつも驚かされるよ」
ユリウスはそう呟きながら、壇上に立つ彼の姿を見つめる。その横顔には、かつての幼さがすっかり消え失せ、代わりに一人前の魔法使いとしての風格が漂っていた。
「さて、俺たちも何か手伝えることがあるかもしれないな。せっかく久しぶりに顔を合わせたんだし」
レオンの言葉にユリウスは頷くと、二人は互いに目を合わせて笑みを浮かべた。そして静かに足を進め、壇上にいる三人の元へと向かった。
「アルガ、俺たちも手伝うぜ」
レオンが声をかけると、アルガは驚いた表情を浮かべるが、すぐに笑顔に戻る。そして彼の翡翠色の瞳がきらりと輝き、「お前たちも手伝ってくれるのか? それなら心強いな」と嬉しそうに答えた。
その瞬間、古都シュテルンの学者たちが驚きの声を上げた。「あの伝説のメンバーが再結集するのか……?」「いや、『シュテルンの悪魔たち』だぞ……!」「あの騒動を思い出せばゾッとするわ」
学者たちはその騒動のことを口々に語りだした。それは彼らが魔法学校に通っていた頃のこと。自由を愛するアルガが校則を破りまくり、それを面白がるリアスとレオンが便乗し、冷静なユリウスでさえその輪に加わってしまった。ある日、彼らは授業を抜け出して禁断の魔法の実験を行おうとしたのだ。その内容は、古代水魔法によって人工的に霧を発生させ、それを操作して校内の各教室を霧に包んでしまうというものだった。彼らは霧を使って幻影を作り出し、教師たちを驚かそうと考えたのだ。
「せーの……発動!」
アルガが杖を振り下ろすと同時に、教室の中に突如として濃霧が立ち込めた。リアスは笑い転げながら霧の中で走り回り、レオンは鏡を使って反射させた光で奇妙な形の幻影を作り出そうとした。
しかし、その霧の威力は想像以上に強く、教室全体が白一色に染まった。生徒たちは突然の出来事に悲鳴を上げ、教室内は混乱状態に陥った。
その時、リアスが霧の中で転びそうになり、「きゃあ!」と叫び声を上げた。レオンはその声に反応して彼女を助けようとしたが、足を滑らせてリアスの上に倒れ込んでしまった。
「ごめん!リアス!」
「ちょっとレオン!どこ触ってるのよ!」
二人の騒動でさらに教室は騒然となった。その瞬間、ユリウスが冷静さを取り戻し、「アルガ!早く霧を消せ!」と叫んだ。
慌ててアルガは水魔法を解除したが、既に遅かった。教師たちが教室に駆け込んできて、彼らの悪行はすべて明らかになった。
その日以来、彼ら四人は教師たちからは『シュテルンの悪魔たち』、生徒たちからは『シュテルンの英雄たち』と、その評価は分かれるようになった。しかし今や四人は魔法界で名を轟かせる伝説的な人物になっていた。彼らが集まれば魔法界もひっくり返るのではないかと恐れる者もいれば、何か新しいことが起きるのではないかと期待する者もいた。しかし、アルガの無二の親友で天才魔法使いのレイ・ブラッドが学生時代に闇の遺物を手にしたことにより、在校時に悲惨な大事件が起きた。レイは闇の遺物に飲み込まれ、自我を失いかけた。その事件はシュテルンの歴史に大きな傷痕を残し、その後レイは峻厳なるベルガール監獄に収監され、現在懲役200年を受けている。しかし、レイの存在は未だ魔法界に大きな影響を与え続けている。レイの事件の後、シュテルン魔法学校は闇の遺物に関する規制を大幅に強化したが、魔法界には未だ闇の遺物の存在があり、その危険性は根強く残っている。レイの事件は、魔法界に闇の遺物の脅威を改めて認識させたのだ。
その夜、アルガはかつての仲間たちと共に、夢幻草の謎を解くための作戦会議を行った。彼らの会議は深夜まで及んだ。昔を懐かしむように語り合いながら、時にはジョークを交えつつ、未来への希望を胸に抱きながら……その様子を遠くから影で覗くシュテルンの在学生達もいた。彼らの名は、ラミア・ファーレンハイト、ルディ・フリューゲル、そしてグスタフ・バルトであった。彼らはシュテルンの在学生ではあったが、卒業生ではない。シュテルンは生徒一人に対して担当の教授がつくため、在学生と卒業生の交流がかなりある学校で、在学生でありながら卒業生のグループに紛れ込む者も稀にいる。
「おい、あれ見ろよ、あのメンバーだぜ!」とラミアが興奮気味にルディとグスタフに告げた。
「おお、『シュテルンの悪魔たち』!!」とルディもそのメンバーを見ると目を輝かせた。
「ああああ……!」とグスタフは恐る恐るといった表情で言った。
「あのメンバーってまさか……」とラミアが言いかけると、ルディが割り込んだ。
「あのメンバーは、シュテルン魔法学校の伝説的メンバーだ!」
「おい嘘だろ……」とグスタフは信じられないといった表情で呟いた。
「本当だって!『シュテルンの悪魔たち』が揃うなんて……!」とラミアは興奮して言った。
「それって、あのレイ・ブラッドを捕まえたメンバーってことだよね……」とグスタフは不安そうに呟いた。
「そうだ!『シュテルンの悪魔たち』が揃えば最強だ!」とルディは自信満々に言った。
「でも彼らは卒業生だよ。なんで在学生の俺たちがこんなところで?」とグスタフは疑問を抱きながら言った。
「さぁな、でもきっと何か重要な理由があるはずだ」とルディは冷静に答えた。
「そうだ!俺たちも何か手伝えることがあるかもしれないぞ!」とラミアが提案した。
「そうだな。もしかしたら『シュテルンの悪魔たち』と一緒に冒険するチャンスかも!」とルディはニヤリと笑った。
「でも……俺たちが邪魔にならないかな」とグスタフは不安そうに言った。
「そんなこと気にするな!『シュテルンの悪魔たち』はきっと俺たちを受け入れてくれるさ」とルディは元気づけるように言った。
ラミア・ファーレンハイトはシュテルン魔法学校の在学生でありながら、卒業生のグループに紛れ込む度胸のある少女だ。彼女は魔法薬学に精通し、常に新しい調合法を研究していた。ラミアの明るく元気な性格は周囲を明るくし、どんな困難にも立ち向かう勇気を持っていた。
ルディ・フリューゲルはラミアの親友であり、同じくシュテルン魔法学校の在学生だ。彼女は風魔法の使い手であり、その優れたコントロール技術で数々の賞を受賞していた。ルディは冷静沈着な性格で、どんな状況でも冷静な判断力を保ち続けられ、その頭脳明晰さがラミアの冒険を支えていた。
グスタフ・バルトは同じくシュテルン魔法学校の在学生でラミアとルディの友人である。彼は土魔法の使い手で、その豊富な知識と経験で仲間たちをサポートしていた。グスタフは優しく誠実な性格で、どんな困難にも立ち向かう勇気を持っており、仲間たちに常に寄り添い、支え続けた。
ラミア・ファーレンハイトはその小さな手に握る魔法薬学の書物に夢中になりながらも、ふと周囲の喧騒に気がついた。学生たちの興奮した声が混じる中で、彼女は何か特別なことが起こっていると直感的に感じ取った。ルディとグスタフもまた同じように何かを感じ取り、互いに目配せを交わした。三人はそれぞれの魔法の力を秘めた杖を手に取り、興奮を抑えつつも周囲に気を配り始めた。
「何してるの君たち?」
ラミアたちが突然声をかけられた。声の主はリアスだった
シュテルンは、かつて魔法使いたちの学び舎が集まり栄えた都であり、現在も多くの魔法使いが住む文化都市である。街を彩る中世の建物の隙間からは、時折魔法の閃光が漏れ出し、古代から続く知恵の香りが漂っていた。街の至る所には魔法の泉や魔道具の店が点在し、魔法薬の調合材料を求める冒険者たちが行き交っていた。そんな活気に溢れる街の一角に、アルガは静かに車を停めた。
彼が訪れたのは、「魔法薬研究会」。これは、全国の魔法薬学研究者たちが集う組織であり、最新の研究成果や情報が交換される場所だった。アルガ自身も、ここへは時折顔を出し、自分の研究成果を発表したり、他の研究者から刺激を受けたりしていた。彼は研究会の受付で手続きを済ませると、薄暗いホールへと足を踏み入れた。ホールの中には、既に数十人の参加者が集まっていた。彼らは各々が持ち寄った研究成果を発表し合ったり、議論を交わしたりしていた。
「さて、何から見て回ろうか……」
アルガは、魔法薬の調合に関する最新のトレンドが記された巨大なホワイトボードに目をやった。そこには、「新素材の可能性」、「副作用の制御」、「魔法薬と魔法の相乗効果」など、様々なトピックが列挙されていた。その中で彼の目に留まったのは、「古来種の薬草の再発見」というトピックだった。その詳細を求めて、彼は興味深そうに人ごみを掻き分けていく。
会場の奥には、今回の研究会で最も注目を集めているという発表があった。壇上に立っていたのは、まだ若い女性研究者だった。彼女の名前はアリス・クロウリー。彼女が発表している内容は、「古代の伝承に登場する『夢幻草』の現代的な再定義とその効能の検証」に関するものだった。夢幻草とは、かつて魔法使いたちの間で伝説として語り継がれてきた植物だ。その葉には、飲んだ者の過去の記憶を呼び覚ます力があるとされ、一部ではその力を利用することで、失われた古代魔法の知識を取り戻せるのではないかという期待があった。しかし、現代において夢幻草**の実在は疑問視され、その存在は完全に幻の植物として扱われていた。
アリスは、その夢幻草を実際に見つけ出し、その効能を科学的に証明したのだ。彼女のプレゼンテーションは、古代魔法文明の遺跡から発見された夢幻草のサンプルや、それを利用した魔法薬の調合実験の結果など、詳細なデータとグラフで構成されていた。
「夢幻草の葉には、特異な波長の魔力を放出する成分が含まれています。この魔力が脳の特定部位に作用することで、潜在的な記憶を活性化させると考えられます。また、この成分は通常の薬草よりもはるかに強い魔力伝達効率を持ち、魔法薬の効果を増幅させる可能性も示唆されています」
アリスの説明に合わせて、大型ディスプレイに映し出されたグラフがスライドしていった。その数値は確かに夢幻草の驚異的な効能を物語っていた。
「夢幻草か……これほどまでに強力な成分が現代の植物に含まれているとは……」
アルガは、その発表に強い関心を示しながら、頭の中で様々な可能性を考えていた。しかし、その時、突然会場の反対側から大きな声が響き渡った。
「夢幻草なんてありえない! あんなものはただの迷信だ!」
声の主は、アルガと同じ世代の魔法使いで、彼の学生時代の級友、リアス・ブラックウッドだった。彼女は昔からイタズラ好きで、アルガと共に何度も教師たちを困らせてきた人物だった。彼女は、手に持った分厚い本を力強く叩きつけながら、アリスに向かって激しく反論し始めた。
「古代の文献には、確かに夢幻草の記述はある。しかし、それが本当に現存する植物なのかは疑問だ。おそらく、それはただの寓話か、あるいは何か別のものを誤認した結果だろう」
「しかし、夢幻草のサンプルは確かに存在します。それに、古代の薬草辞典にもその存在が記載されています」
アリスは冷静に反論するが、リアスはなおも食い下がる。
「だったら、そのサンプルの出所を証明してみろ! それこそ、何者かによって捏造されたものじゃないのか?」
二人の言い争いに、会場内は徐々に緊迫した雰囲気に包まれていく。その様子を見ていたアルガは、小さくため息をつくと、ゆっくりと壇上へと近づいていった。彼は、リアスの肩を軽く叩き、穏やかな笑みを浮かべながら口を開いた。
「久しぶりだな、リアス。相変わらず元気そうだ」
「アルガ……? お前も来てたのか」
リアスは驚いた表情で振り返った。彼女が最後にアルガに会ったのは数年前のことだ。当時はまだ魔法学校の学生だった二人も、今ではそれぞれ異なる道を歩んでいる。アルガは自由な旅人となり、一方のリアスは魔法薬研究者として名を馳せていた。
「アリスさん、あなたの発表は非常に興味深かった。しかし、夢幻草の実在性についてはまだ議論の余地があると思う。もう少し具体的な証拠があれば納得できるのだが……」
アルガはそう言って、アリスに微笑みかける。アリスもまた、彼の言葉に耳を傾ける。
「アルガさんの仰る通りです。私自身もまだ完全な確信は持てていません。これからさらなる研究を重ね、その効能を立証していきたいと思っています」
「ならば、私も協力しよう。夢幻草が本当に存在するならば、その力は魔法薬の世界を大きく変えうる可能性がある。共に真実を探し求めてみようじゃないか」
「ありがとうございます! アルガさんの協力があれば心強いです!」
アリスの瞳に希望の光が灯った。その様子を見て、リアスもまた内心で少しだけ安堵した。
その時、会場の隅で二人の男がひそひそと話し込んでいた。彼らはレオン・シルヴァーバーグとユリウス・クロフォード。どちらもアルガとリアスの旧友であり、かつて四人で数々の騒動を巻き起こしてきた仲間だった。
レオンはおちゃらけた性格で、ことあるごとにジョークを飛ばすのが得意技だった。彼の言葉にはいつも軽妙なユーモアが込められていたが、その一方で女たらしの一面も持っていた。
ユリウスは冷静沈着な性格で、常に冷静な判断を下すことができるタイプだった。彼は魔法医学において非常に優秀な才能を持ち、研究者としても高い評価を受けていた。しかし、その冷徹さが時に人間味に欠ける印象を与えていた。
「アルガの奴、相変わらずだな。何でも面白がって首を突っ込む」
レオンが楽しげに言うと、ユリウスが苦笑しながら答える。
「それでも彼の腕は確かだ。彼が加われば、夢幻草の謎も解けるかもしれない」
その言葉にレオンは笑みを深めながら答える。
「まあ、アルガの好奇心は今に始まったことじゃないけどね。でも、彼が関わるとなれば面白くなりそうだ」
「ああ。だが、もし夢幻草が本当に存在すれば、その影響力は計り知れない。慎重に対処しなければならない」
「ふふん、慎重にね。どうせアルガのことだから、また何か面倒なことに首を突っ込むに違いないけどな」
レオンは軽く肩をすくめながら答えると、ちらりと壇上の方に視線を投げた。そこには、アルガとアリスが夢幻草に関する具体的な実験計画について熱心に話し込んでいる姿があった。
その様子を見て、ユリウスはふと懐かしい思い出に浸る。学生時代、アルガたち四人はよく一緒に授業をサボっては冒険を繰り広げていた。特にアルガは誰よりも自由奔放で、いつも何か新しいことを試そうとしていた。その好奇心旺盛な性格は今も変わっていないようだ。
ユリウスはそんなアルガを少し羨ましく思いながらも、彼の存在がいつも周りに活力を与えることを知っていた。
「アルガ……お前の行動力にはいつも驚かされるよ」
ユリウスはそう呟きながら、壇上に立つ彼の姿を見つめる。その横顔には、かつての幼さがすっかり消え失せ、代わりに一人前の魔法使いとしての風格が漂っていた。
「さて、俺たちも何か手伝えることがあるかもしれないな。せっかく久しぶりに顔を合わせたんだし」
レオンの言葉にユリウスは頷くと、二人は互いに目を合わせて笑みを浮かべた。そして静かに足を進め、壇上にいる三人の元へと向かった。
「アルガ、俺たちも手伝うぜ」
レオンが声をかけると、アルガは驚いた表情を浮かべるが、すぐに笑顔に戻る。そして彼の翡翠色の瞳がきらりと輝き、「お前たちも手伝ってくれるのか? それなら心強いな」と嬉しそうに答えた。
その瞬間、古都シュテルンの学者たちが驚きの声を上げた。「あの伝説のメンバーが再結集するのか……?」「いや、『シュテルンの悪魔たち』だぞ……!」「あの騒動を思い出せばゾッとするわ」
学者たちはその騒動のことを口々に語りだした。それは彼らが魔法学校に通っていた頃のこと。自由を愛するアルガが校則を破りまくり、それを面白がるリアスとレオンが便乗し、冷静なユリウスでさえその輪に加わってしまった。ある日、彼らは授業を抜け出して禁断の魔法の実験を行おうとしたのだ。その内容は、古代水魔法によって人工的に霧を発生させ、それを操作して校内の各教室を霧に包んでしまうというものだった。彼らは霧を使って幻影を作り出し、教師たちを驚かそうと考えたのだ。
「せーの……発動!」
アルガが杖を振り下ろすと同時に、教室の中に突如として濃霧が立ち込めた。リアスは笑い転げながら霧の中で走り回り、レオンは鏡を使って反射させた光で奇妙な形の幻影を作り出そうとした。
しかし、その霧の威力は想像以上に強く、教室全体が白一色に染まった。生徒たちは突然の出来事に悲鳴を上げ、教室内は混乱状態に陥った。
その時、リアスが霧の中で転びそうになり、「きゃあ!」と叫び声を上げた。レオンはその声に反応して彼女を助けようとしたが、足を滑らせてリアスの上に倒れ込んでしまった。
「ごめん!リアス!」
「ちょっとレオン!どこ触ってるのよ!」
二人の騒動でさらに教室は騒然となった。その瞬間、ユリウスが冷静さを取り戻し、「アルガ!早く霧を消せ!」と叫んだ。
慌ててアルガは水魔法を解除したが、既に遅かった。教師たちが教室に駆け込んできて、彼らの悪行はすべて明らかになった。
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その夜、アルガはかつての仲間たちと共に、夢幻草の謎を解くための作戦会議を行った。彼らの会議は深夜まで及んだ。昔を懐かしむように語り合いながら、時にはジョークを交えつつ、未来への希望を胸に抱きながら……その様子を遠くから影で覗くシュテルンの在学生達もいた。彼らの名は、ラミア・ファーレンハイト、ルディ・フリューゲル、そしてグスタフ・バルトであった。彼らはシュテルンの在学生ではあったが、卒業生ではない。シュテルンは生徒一人に対して担当の教授がつくため、在学生と卒業生の交流がかなりある学校で、在学生でありながら卒業生のグループに紛れ込む者も稀にいる。
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「ああああ……!」とグスタフは恐る恐るといった表情で言った。
「あのメンバーってまさか……」とラミアが言いかけると、ルディが割り込んだ。
「あのメンバーは、シュテルン魔法学校の伝説的メンバーだ!」
「おい嘘だろ……」とグスタフは信じられないといった表情で呟いた。
「本当だって!『シュテルンの悪魔たち』が揃うなんて……!」とラミアは興奮して言った。
「それって、あのレイ・ブラッドを捕まえたメンバーってことだよね……」とグスタフは不安そうに呟いた。
「そうだ!『シュテルンの悪魔たち』が揃えば最強だ!」とルディは自信満々に言った。
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「そうだな。もしかしたら『シュテルンの悪魔たち』と一緒に冒険するチャンスかも!」とルディはニヤリと笑った。
「でも……俺たちが邪魔にならないかな」とグスタフは不安そうに言った。
「そんなこと気にするな!『シュテルンの悪魔たち』はきっと俺たちを受け入れてくれるさ」とルディは元気づけるように言った。
ラミア・ファーレンハイトはシュテルン魔法学校の在学生でありながら、卒業生のグループに紛れ込む度胸のある少女だ。彼女は魔法薬学に精通し、常に新しい調合法を研究していた。ラミアの明るく元気な性格は周囲を明るくし、どんな困難にも立ち向かう勇気を持っていた。
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グスタフ・バルトは同じくシュテルン魔法学校の在学生でラミアとルディの友人である。彼は土魔法の使い手で、その豊富な知識と経験で仲間たちをサポートしていた。グスタフは優しく誠実な性格で、どんな困難にも立ち向かう勇気を持っており、仲間たちに常に寄り添い、支え続けた。
ラミア・ファーレンハイトはその小さな手に握る魔法薬学の書物に夢中になりながらも、ふと周囲の喧騒に気がついた。学生たちの興奮した声が混じる中で、彼女は何か特別なことが起こっていると直感的に感じ取った。ルディとグスタフもまた同じように何かを感じ取り、互いに目配せを交わした。三人はそれぞれの魔法の力を秘めた杖を手に取り、興奮を抑えつつも周囲に気を配り始めた。
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翠玉 結
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※他サイトより転載した作品です。
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