魔術師アルガは、親友の夢の果てに何を見るか

椎名

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第五章:迷宮の呼び声、深まる闇

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修行の日々は、瞬く間に過ぎていった。ラミアはリアスの厳しい指導のもと、魔法薬の調合速度と精度を飛躍的に向上させていた。夜通し薬草の性質を研究し、寸分の狂いもなく魔力を制御する練習を続けた結果、彼女の指先は繊細な魔力の流れを捉え、複雑な調合も正確にこなせるようになっていた。
「よし、今日のところはここまで。まあ、悪くはないんじゃない?」
珍しくリアスがそう言うと、ラミアは安堵のため息をついた。リアスは滅多に褒めない指導役だったが、その言葉には確かな成長を認める響きがあった。
一方、ルディはレオンとの実戦訓練で、自身の風魔法を新たなレベルへと引き上げていた。レオンの変幻自在な風魔法に対し、ルディは観察力と直感を研ぎ澄ませ、相手の動きを先読みする術を学んだ。訓練場では、二人の巻き起こす旋風が常に吹き荒れ、時にはルディの魔力が暴走し、地形を変えてしまうこともあった。しかし、レオンはそれを叱るどころか、楽しそうに笑い飛ばし、さらなる高みへとルディを誘った。
「いいぞ、ルディちゃん!その調子だ!もっと感情を乗せて、風を暴れさせてみろ!」
レオンの奔放な指導は、ルディの内に秘められた潜在能力を引き出し、彼女の風魔法は予測不能な速さと鋭さを獲得し始めていた。
そして、グスタフはユリウスの書庫で、土魔法の理論と実践を徹底的に学んでいた。彼は分厚い書物を読み漁り、魔法陣の構築原理や、地脈の活用法など、高度な知識を吸収した。ユリウスは彼の疑問に根気強く向き合い、論理的な思考力と精密な魔力制御の重要性を説いた。ある日、グスタフが完成させた防御魔法陣は、ユリウスをも感嘆させるほどの堅牢さだった。
「完璧だ。これならば、どんな攻撃も防ぎきれるだろう」
ユリウスの言葉に、グスタフは静かに喜びを噛み締めた。彼は、ただ力任せに土を操るだけでなく、知識と技術をもって魔法を構築することの重要性を理解し始めていた。
アルガとアリス:夢幻草の核心へ
それぞれの修行が順調に進む中、アルガとアリスの夢幻草研究も新たな局面を迎えていた。アリスが開発した『共鳴石』を用いることで、夢幻草の魔力変動をより詳細に分析できるようになったのだ。彼らは、夢幻草が特定の記憶に強く反応することを発見した。それは、ただ過去の出来事を呼び起こすだけでなく、感情や状況までをも鮮明に再現する力だった。
「アルガさん、このデータを見てください。夢幻草は、特定の強烈な感情を伴う記憶に、より強く反応する傾向があります。特に、強い後悔や悲しみ、あるいは怒りといった感情がトリガーになっているようです」
アリスの分析結果に、アルガの表情が硬くなった。レイ・ブラッドが闇の遺物に触れた時の記憶。それがもし、強烈な後悔や絶望を伴うものだったとしたら……。
迷宮からの呼び声
その時、アルガのタブレットが突然、不穏な警報を発した。画面には、シュテルンの地下深部を示す地図が映し出され、そこに赤い光点が点滅している。
「これは……『忘れ去られた迷宮』の魔力反応か?」
アルガは地図を拡大した。光点は迷宮の最深部、かつてレイ・ブラッドが闇の遺物を発見したとされる場所に重なっていた。しかも、その魔力反応は通常の魔力異常とは異なり、まるで何かが覚醒したかのような、不気味な波動を放っていた。
「まさか、闇の魔法使いが……レイの痕跡を追って、迷宮に到達したのか?」
アリスの顔に不安の色が浮かぶ。
「この魔力反応は、以前報告されたものとは比べ物にならないほど強力です。危険です、アルガさん!」
アルガの脳裏に、かつての親友、レイの苦しむ姿がよぎった。そして、数日前に見たニュースの「闇の魔法使いが復活――古の封印解かれるか、世界に迫る危機」という見出しが、現実味を帯びて迫ってくる。
「……仕方ない。行こう」
アルガはタブレットを握りしめ、静かに立ち上がった。彼の翡翠の瞳には、かつての自由な旅人の輝きではなく、決意と使命感が宿っていた。
それぞれの修行に励んでいたラミア、ルディ、グスタフも、その異常な魔力反応を感知していた。彼らは指導役たちの元へと駆けつけ、事態の深刻さを悟る。
「リアスさん!この魔力反応は一体……?」とラミアが叫んだ。
「もしかして、闇の魔法使いが……」とルディが不安そうに呟いた。
彼らの不安な声に、アルガは冷静に指示を出した。
「皆、準備をしろ。『忘れ去られた迷宮』へ向かう。今、そこで何かが起こっている。そして、それがレイの事件と無関係だとは思えない」
その言葉に、三人の協力者たちの表情が引き締まる。彼らの修行は、期せずして実戦へと移行することになった。闇の魔法使いの影が迫る中、彼らは迷宮の奥深くで、一体何を目にすることになるのだろうか。
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