上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第26話:社外デートと、すれ違う想い

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土曜日。
天気は快晴。
休みの日にしては、朝から心臓がうるさい。

(……課長と、いや、“誠さん”と、休日に会うなんて)

《誠:11時、品川駅前で》
《真由:了解です。変装したほうがいいですか?》
《誠:俺はバレない。君はバレるかもしれないな》
《真由:なんでですか!?》

(もう、朝から調子狂わされる……)



駅前。
グレーのジャケットにサングラス。
人混みの中でもすぐに見つけてしまう。

「……誠さん!」
「やあ」
「えっ、私服、ちゃんとしてる!」
「失礼だな」
「てっきりスーツで来るかと……」
「デートにスーツで来るやつがいるか?」
「っ……デートって言いました!?」
「事実だろ?」

(あーもう、この人ほんとに平常運転で爆弾落とす……!)



映画館。
ポップコーンを片手に並んで座る。

「こうして並ぶの、なんか不思議ですね」
「いつも会議室だからな」
「会議室と映画館、共通点あります?」
「静かなのは同じだ」
「例えが仕事人間!」

(でも……こうして笑い合えるの、悪くない)



上映中。
スクリーンの光が横顔を照らす。
無表情に見えるけど、ほんの少し、眉が緩んでいた。

(……やっぱり優しい顔してる)

エンドロール。
照明がつく。

「どうだった?」
「泣きそうになりました」
「君が泣く映画、珍しいな」
「だって、“信頼してるのに、すれ違う”話で……」
「……他人事じゃないな」
「え?」
「俺たちも、似たようなものだ」

(……すれ違う?)



その後。
昼食のカフェ。
窓際で並んで座る。

「最近、社内で少し噂が減ってきましたね」
「いいことだ」
「でも、少し寂しい気もします」
「どうして」
「“私たち”が当たり前になってきたのかなって」

彼の手が、コーヒーカップの上で止まる。

「……“私たち”か」
「あ……変な意味じゃ――」
「いや、いい言葉だ」
「ほ、ほんとですか?」
「ただ――」
「ただ?」
「“社外で二人”っていうのは、まだ誰にも知られたくない」

「……」
「誤解されるからな」
「……誤解、ですか」

その言葉に、胸の奥が少し痛んだ。

(誤解……私にとっては、もう誤解なんかじゃないのに)



帰り道。
少し沈黙が続く。

「……ごめん」
「え?」
「今日、楽しませたかったのに。
 君の顔、途中から曇ってた」
「そ、そんなことないです」
「嘘だな」
「……誠さんこそ、さっき“誤解される”って言ったじゃないですか」
「言った」
「“私たち”が誤解だって思ってるんですか?」
「そうは言ってない」
「じゃあ、どういう意味ですか」

彼は少し考えてから言った。

「まだ、“守りきる”自信がない。
 だから公にできない」

「……」
「俺の立場もある。
 けど、それよりも君を傷つけたくない」

真由はゆっくり息を吸う。

「……ずるいです」
「また言われた」
「だって、そんなふうに優しく言われたら、
 怒るに怒れないじゃないですか」

沈黙。
でも、距離は少しだけ戻った。



夜。
別れ際。
駅前のライトが二人の影を重ねる。

「……今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
「次は、“誤解されてもいい日”にしましょうね」
「それはいつだ?」
「まだわかりません。でも、
 誠さんが“守れる”って言えた時です」

彼は一瞬黙ってから、
わずかに微笑んだ。

「……じゃあ、俺はそれを目標にする」
「それ、業務目標みたいに言わないでください」
「職業病だ」
「ふふっ……そうですね」

風が頬を撫でた。
ほんの少しだけ、彼の指が触れる。

「……誠さん」
「ん?」
「次は、手つなぐくらいなら“自然体”でいいです」
「了解した」

(ほんとに言った……!)



夜。
スマホが震える。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“恋の距離”は、守るものじゃない。
 一緒に歩幅を合わせていくものだ。」

《@mayu_worklife》
「じゃあ、私もその歩幅、合わせてみます。」

コメント欄には、
“距離を縮める理想の二人”
“信頼から始まる恋、尊い”

(すれ違っても、ちゃんと見つけ合える。
 それが、私たちの“歩幅”なんだ)
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