上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第25話:“恋の責任”と会議室

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翌朝。
会社の空気が、いつもよりざわついていた。

「……見た?」
「見た。“キスシーン”のやつ」
「アレって本物? 演出? どっちなの?」
「いや、あの距離感は演出じゃムリだろ~」

(あぁぁぁ……会社中にバレてる……!)

スマホの通知には“理想の上司、まさかの実写恋愛展開!?”の見出し。
SNSではトレンド入り。

#理想の上司キス事件
#本気すぎるアドリブ
#会社に恋の風

(もう終わりだ……社会的に……)

「藤原」
「っ……か、課長!?」
「会議室、来い」
「ひぃ……!」

(え、これ怒られるパターン!? 責任取れって言われる!?)



会議室。
ドアが閉まる音がやけに大きい。

柊が資料を机に置き、静かに口を開いた。

「……まずは、驚かせてすまなかった」
「すまなかったってレベルじゃないですよ! あのキスで何人倒れたと思ってるんですか!」
「三人くらいか?」
「正確!?」
「美咲が言ってた」
「その人たち、たぶん社内心臓止まってます!」

柊が笑った。

「だが、あの瞬間――自然だった」
「自然!? いやいや、自然体って言えば何でも許されるわけじゃ!」
「“本気”を伝えるには、言葉より行動だ」
「だから行動力がバズるんですよ!」

柊は真由の動揺を見て、
少しだけ表情をやわらげた。

「……怒ってるか?」
「怒ってます!」
「そうか」
「でも……」
「でも?」
「ちょっとだけ……嬉しかったです」

沈黙。
二人の間に、微妙な空気。

「……その顔はずるいな」
「え、どんな顔ですか!?」
「“嬉しいのに怒ってる顔”だ」
「もうやめてください!」



コンコン。
ノックの音。
ドアが開くと、広報部の美咲が入ってきた。

「お二人とも、上層部ミーティング出席です」
「えっ!?」
「“恋の責任”について聞かれるって噂」
「恋の責任!? そんな言葉、会議で聞きたくない!」

柊が短く頷く。
「わかった。行こう」
「行こう、じゃないです! 何をどう話すつもりですか!?」
「本当のことを話す」
「やめてください、誠実にも限度があります!」



重役フロア。
長机にずらりと並ぶ上層部。
その中央に二人が座る。

「柊くん、君の取材映像、すごい反響だね」
「ありがとうございます」
「ただ、“キス”という行為が“業務中の越境”にあたる可能性がある」
「……覚悟の上です」

(ひぃ……!)

部長「覚悟って……どういう意味だ?」

柊は迷いなく言った。

「彼女を想う気持ちを、誤魔化したくなかった」

(課長ぉぉぉぉぉ!?)

室内がざわつく。

「……仕事と恋愛は分けるべきでは?」
「はい。ただ、誠実さはどちらにも必要です」
「うまいこと言うな」

(課長、すごい……でも、危険すぎる!)



会議が終わり、廊下を歩く二人。

「……無事、怒られずに済んでよかったですね」
「うん」
「課長の“覚悟”発言、ニュースになりそうでしたよ」
「なってもいい」
「またそういうこと言う!」
「覚悟を持って“好き”って言った」
「……っ」

真由の頬が赤く染まる。

「“恋の責任”って、こういうことだったんですね」
「責任は、取る覚悟がある者だけが負えばいい」
「……」
「だから、俺は君に対して、責任を持ちたい」

「っ、そんな言い方……ずるいです」
「また言われたな」



夜。
帰り際。
ビルのガラスに二人の影が映る。

「……あの時、ほんとに反則でした」
「どの時?」
「“会議で堂々と想いを言うとこ”です」
「そうか」
「……でも、私も覚悟、持ちます」
「覚悟?」
「もう、逃げません。
 “恋してる部下”って言われても、私が選んだ道ですから」

柊の目が優しく細められる。

「それでこそ、藤原真由だ」

「……褒めても何も出ませんよ」
「いや、キスくらいは」
「またですかぁぁぁ!?」

笑い声が夜のビル街に響いた。



スマホ通知。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“恋の責任”は、隠すことじゃない。
 一緒に背負うことだ。」

《@mayu_worklife》
「だったら、私も責任取ります。“好き”の共犯として。」

コメント欄に並ぶのは、
“この二人、尊い” “恋も仕事もプロ”

(……本気の恋、ちゃんと見られてるんだ)
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