上司がSNSでバズってる件

KABU.

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第34話:二人の決意と動き始めた“統括室”

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朝のオフィス。
昨日の“再配置会議”の余韻がまだざわつきを残していた。

(……異動の可能性五分五分。
 “公務上は組めない”って規約。
 でも誠さんは、“絆は切れない”って言ってくれた。
 その言葉が胸に残ってて……逆に落ち着かない。)

自席で資料を整理していると――

「藤原」

ピシッ。

(……今日も朝から心臓が忙しい)

振り返ると、柊誠が書類を手に立っていた。
いつも通り冷静なのに、視線だけはどこか優しい。

「例の案件、午前中に打ち合わせ可能か」

「はい、大丈夫です!」

「よし。……あとで来てくれ」

(業務中は完全に“課長モード”なのに……
 声がほんの少し柔らかいの、私だけが気づいてる)

成田がすかさず近寄ってきた。

「お~い真由。“離れても距離は変わらない組”の朝だな」

「なんですかその命名!」

「昨日の会議、見てたぞ。“個人の信頼は禁止じゃない”って課長が言った時、
 お前、目うるんでたろ?」

「見てたんですか!?」

「てか、会社の女子全員泣いてたぞ。“あの男、強すぎる”って」

(……わかる。私も仕事しながら泣きそうだった)

成田はコーヒーをすする。

「で、真由はどうすんだ?
 異動したら、もう“誠さん”とは直属じゃなくなるんだよな」

「……仕事は別でも、関係は別れませんよ」

「お、強くなったじゃん!」

(そう、強くならなきゃ。
 あの人が本気で守ろうとしてくれてるんだから。)



午前10時。
会議室A。

プロジェクトの定例会議なのに、どこか空気が落ち着かない。

部長「では、新設“ブランド統括室”の基本案を共有する。
   営業と広報の合同プロジェクトを再編し、一つの枠で管理する」

ざわつくメンバーたち。

美咲がスッと手を挙げる。

「統括室の件、柊さんがリード案でほぼ確定なんですか?」

部長「本社の評価は高い。
   ただし広報側のまとめ役も必要になる。……藤原さん」

「えっ、私……ですか?」

部長「君の影響力は無視できない。
   前線に立たせたいという声が強い」

(そ、そんな……!
 評価が嬉しいのに、怖い……!
 誠さんと分かれる、その現実が近づいてくるみたいで)

部長が続ける。

「ただし――」

また来た、“ただし”。

「柊と藤原は、同じラインでは動かさない。
 二人とも影響力が大きすぎる。
 一緒にすると“ブランドが二人の物語になってしまう”」

(っ……!
 言い方が……刺さる……!)

柊が静かに口を開いた。

「部長。
 “物語”に見えてしまうのは、我々の責任です」

「……自覚はあるんだな」

「はい。しかし、だからこそ“分ける”選択は理解できます」

部長がうなずく。
真由の胸が締めつけられる。

(誠さん……その冷静さが、逆に寂しいよ……)

でも次の瞬間――

柊「ただし、“組めない”ことと、“支えない”ことは違う」

部長「……ほう?」

「部署が変わろうと、業務外のアドバイス、提案、連携は可能です。
 線を引くのは“仕事上の指揮命令系統”であって、
 “パートナーシップ”ではない」

部屋がザワッとした。

部長「……言うなぁ、お前は」

美咲「名言出たわね……!」

成田(小声)「今日のトレンド“パートナーシップ課長”だな」

真由(ちょっと待って、それはダサい……!)



会議後。
廊下で二人きり。

「……誠さん」

「ん?」

「いつもああやって……私を安心させようとしてくれるの、反則です」

「会議だからな。事実を言っただけだ」

「事実……?」

柊は少し視線を落とし、
それからまっすぐ真由を見る。

「俺は、君と一緒に積み上げたものを、“部署異動程度”で手放さない」

「……誠さん……」

「安心しろ。
 “上司と部下”は終わっても、
 “君と俺”は終わらない」

(これ反則……!
 もう本当に……ずるい!)

「っ……そんな顔で言われたら、平気でいられるわけないじゃないですか……!」

「顔は普通だが」

「普通でそれは反則です!」

「また言われたな」

(……何回目だろう。でも、何回言っても言い足りない)



昼休み。
カフェテリアの隅。

真由はトレーを置くと、深呼吸した。

(……部署が変わっても、終わらない。
 誠さんがそう言ってくれたから……大丈夫。)

そこへ美咲がやってきた。

「真由ちゃん、顔赤いわよ?」

「えっ!?」

「……さては柊さんと廊下で何かあったわね?」

「な、なにもないです!」

「嘘ね。
 二人とも“仕事で距離を置く覚悟”ができた顔してる。
 じゃあ次は“恋をどう継続するか”ね」

「そ、そこまで考えてません!」

「ほんと?
 “部署が変わる前提”なら、あとは“デートの優先度”とか
 “週末の過ごし方”とか、“報告義務のあるなし”とか」

「なんでそんな細かく……!」

「だって恋愛もプロジェクトよ。
 スケジュール管理と意思疎通が命」

(……たしかに正しい。
 でも言われると恥ずかしい……!)



午後。
広報のフロアでデスクワーク中。

“ピロン”

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「限界を決めるのは仕事ではない。
 心が離れない限り、関係は続く。」

(……誠さん。仕事中にこれ投稿するのやめて……!
 心が揺れる……!)

すぐ通知。

《@mayu_worklife》
「離れても、ちゃんと“あなた”を見ています。」

真由(送っちゃった……!
 これ、後で絶対茶化されるやつ……!)

しかし――

柊(デスクでスマホを伏せながら)
わずかに、ほんのわずかに口元が笑っていた。

(……もう、この人ほんと……
 仕事中なのに、なんでそんな顔するんですか……!)



夕方。

「……藤原」

「はい?」

「少し時間あるか。
 部署再編の件、次の動きについて話しておきたい」

(“仕事の話”だよね……?)

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、屋上に行くぞ」

「なんで屋上!?」

「人目がない。話しやすい」

(ああ……もう……!
 これ絶対仕事の話だけじゃない……!)



屋上。
夕焼けがビルの間に沈んでいく。

柊はポケットに手を入れたまま、真由の方を見る。

「異動の件。
 決定まで一週間だ」

「……はい」

「もし俺が“統括室”に行くなら――
 君は広報の中心として、もっと大きな仕事を任される」

「わかってます」

「そして俺は、今よりずっと忙しくなる」

(……やっぱり)

「だが――」

彼の声が静かに、確かに響く。

「“忙しい”は理由にならない。
 時間がなくても、会いに行く」

「っ……!」

「距離ができても、繋がりを弱くするつもりはない」

「……ずるいです、本当に」

「また言われたな。
 だが――」

柊が一歩近づく。

風がふっと吹いて、真由の髪を揺らす。

「君も同じ気持ちだろ?」

「……っ」

(もう、勝てない……
 この人には、絶対勝てない……!)

真由はそっと彼の袖をつまんだ。

「……寂しいです。
 でも、それ以上に――」

ゆっくりと息を吸う。

「誠さんの“選択”を、誇りに思います」

柊の瞳が揺れた。
そして、とても静かに微笑む。

「ありがとう」

(……こんな顔するの、ずるい。本当にずるい。)



夜。
Xに投稿が上がる。

《@WORK_LIFE_BALANCE》
「“離れる準備”より、“つながり続ける覚悟”を持て。」

《@mayu_worklife》
「あなたの覚悟に、ちゃんと並んで歩きます。」

コメント欄には――

“この二人、強すぎる”
“距離に負けない関係、尊い”
“部署再編編、胸が痛いけど応援する”

真由は画面を閉じて、小さく笑った。

(離れても、終わらない。
 誠さんがそう言ってくれたから――
 私も弱音じゃなくて、“覚悟”で返す。)

(この恋は、“距離”なんかに負けない。)
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