富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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笑ってはいけない Ⅱ

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 目を覚ますと自分のお部屋にいた。
 ベッドから降りて、あの夢が本当に《ハスハ》から教わったものだと確信していた。
 朝食を作り、流たちに夢の話をした。

 「お母さん! ほんと!」
 「うん。後で実際に見せてあげるね」
 「「「やったぁー!」」」

 三人とも私と一緒に鍛錬するのが大好きだ。
 もう幼稚園に通える年齢なのだが、タカさんに相談したら「一緒にいてやれよ」と言われた。
 嬉しかった。
 別に世間一般に合わせる必要はないのだと言われた。

 「流たちはお前のことが大好きなんだ。だから一緒にいればいいさ」
 「うん、そうするね」
 
 タカさんもお母さんが大好きだった。
 だから流たちに、精一杯一緒にいさせてあげたいのだろう。

 朝食を食べ終えてみんなで鍛錬場へ出た。
 ちゃんと新しい技を試すことを《ウラノス》に連絡してある。
 そうしないと警報が鳴って大事になるからだ。

 「いい、やるよー!」
 「「「うん!」」」
 
 三人はちょっと離れて観ている。
 私が右手の人差し指を頭に乗せて、片足でケンケンしていく。
 そして最後に両手を広げる。
 前方の外壁を壊さないように、少し上に向けて撃った。
 途轍もないエネルギーが迸り、数キロ先まで拡がって行った。
 やっぱりあの夢は本物だったのだ!
 子どもたちも大喜びだ。

 「お母さん、すごいよ!」
 「今のなに!」
 「遠くまで拡がったよね!」

 子どもたちが興奮していた。
 私に駆け寄って抱き締めて来る。

 「ね、凄いでしょ?」
 「「「うん!」」」

 流たちもやりたがり、私が教えた。
 右手を頭の上に乗せて、片足でチョンチョン跳ねて行く。
 本当に可愛らしい。
 一生懸命にやっていくので、流たちはすぐに覚えた。

 「あのね、これは秘密の技になるから、私がいない場所でやってはいけないのよ?」
 「「「分かった!」」」

 流たちを《山茶花》に任せて好きに鍛錬させ、私はタカさんに連絡した。

 「あのですね! 新技が出来ました!」
 「おお、そうなのか!」
 「今度のは広い範囲を覆える技ですよ!」
 「そうなのか! よし、じゃあ午後に行くな!」
 「はい!」

 タカさんが嬉しそうに言ってくれた。
 私は新技に「オロチ・ストーム」と名付けた。
 広域に「オロチ・ブレイカー」の嵐を生じるような技だったからだ。
 その日の午後にタカさんたちが来た。


 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 「タカさん、いいですか見てて下さい」
 「おう!」

 柳がまた新たな技「オロチ・ストーム」を編み出したと聞いて、俺はすぐに確認に行った。
 柳の言うには、今度は範囲攻撃の技であり、前方90度に対して5キロ先にまで及ぶものらしい。
 しかも威力は「オロチ・ブレイカー」に匹敵するということだった。
 柳は毎日熱心に鍛錬を続けており、子どもたちとのコミュニケーションもその鍛錬の中にあると言ってもいい。
 だから俺の愛する女の一人でありながら、俺の尊敬する人間だった。
 石神家本家のように大勢で鍛錬をすれば、それが当たり前になり、また自分が甘くなっても周囲の人間が支えてくれる。
 しかし、柳は常にたった一人でそれをやって来たのだ。
 何も見えない道のりを、何とかしようと努力を続けて来た。
 だから俺は柳を本当に尊敬する。
 言い方もあるが、柳ほど信頼出来る人間はいないとも思っている。
 真に道を拓いて行く人間。
 そういう風に柳を尊敬していた。

 子どもの流たちも母親と鍛錬することが楽しいらしく、4人で仲良くやっている。
 柳も子どもたちには好きなようにやらせ、別に遊び出しても構わないでいる。
 でも柳が休憩に入ると3人の子どもたちが寄って来て柳に甘える。
 ちゃんと母親が真面目にやっていることを邪魔しないという認識があるのだ。
 お陰で柳も無茶な鍛錬をしなくなり。良いバランスが取れるようになった。
 「オロチ・ストーム」は《ハスハ》が夢で教えてくれたものらしい。
 「オロチ・ブレイカー」も《ハスハ》が手伝ってくれたのだが、まああの時は弱った。
 突然柳の身体を押さえ、高威力の技が元蓮花研究所の外壁を崩したのだ。
 《ロータス》が激怒し、しばらく柳は災難に遭った。
 そんなことを思いながら。俺は亜紀ちゃん、双子を連れて柳の《キャッスル・ドラゴン》に来ていた。
 その夜はお祝いに「ほんとの虎の穴」でパーティを開く予定だった。

 「じゃあ、行きますよー!」

 柳が元気よく叫んで動き出した。

 「「「「ギャハハハハハハハハハ!」」」」

 みんなで大笑いした。
 俺たちは珍しく、柳がギャグをやったのだと思っていた。
 右手の人差し指を伸ばし、それを頭の上に置く。
 そのまま右足でケンケン、左足でケンケン。
 そしておもむろに身体を前傾させながら両手を開く。

 「「「「ギャハハハハハハハハハ!!」」」」
 
 「オロチ・ストーム!」

 「「「「!」」」」

 柳の前方に扇形に拡がる美しい光が輝いた。
 あれは冗談ではなかったのか。
 俺は柳の後ろに現われた《ハスハ》の姿を見た。
 他の連中には見えていない。
 《ハスハ》は腕を交差させ、「×」を示していた。
 そしてその表情は「激オコ」だ。
 しまったと思ったが、もう遅かった。
 そして俺たちは誰も「オロチ・ストーム」を習得出来なくなった。

 「あ、あれ?」
 「ねえ、なんにも出ないよ?」
 「おかしいな、柳ちゃんのやってるのは分かったのに?」
 「「「なんだろね?」」」
 「……」

 天才と超天才の三人が会得出来なかった。
 俺には分かっていた。
 《ハスハ》の機嫌を損ねたのだ。
 あれほどに大笑いしたせいで……
 柳が悲しい顔をしていた。

 「わ、私……一生懸命にやったのに……」
 
 柳にとって、真面目を通してこれまで頑張った成果の嬉しい技だったはずだ。
 それを笑われたショックが、柳に涙を流させた。 
 また柳には、みんなが技を習得出来なかった理由が感じられているようだ。
 うつむいて大粒の涙を滴らせている。
 どんなにか柳は悲しんでいることか。
 俺のため、「虎」の軍の仲間のために、本当に懸命に毎日鍛錬し研究してきた人間だ。
 それを俺たちは、なんということをしでかしてしまったのか。
 亜紀ちゃんたちもそれに気付いて、自分たちの間違いに後悔していた。
 俺は駆け寄って柳を抱き締めた。

 「柳、すまなかった! 本当にすまない!」
 「タカさん……」
 「お前は最高だ! 俺の心底から愛する女だぁ!」
 「タカさん!」
 「「「柳ちゃん!」」」

 三人も柳を抱き締めた。
 いや、もう遅いって……
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