富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカの悪人 EXTRA STAGE Ⅴ

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 ダグラスの違反行為は全校生徒に知られた。
 学校側が絶対に許されない行為として正式に発表したのだった。
 ダグラスは処分が決まるまで停学となっている。
 多くの人間がダフラスの行為に憤慨し、そのために試合を継続出来なくなった俺に同情を寄せて来た。
 1000人以上いる生徒の中で、ベスト32まで勝ち上がったのだ。
 しかも早期入学者の1年生の俺だったためだ。
 もちろん俺はダグラスを庇い、自分の未熟なのだと毎回説明した。
 ダグラスも同じ1年生の中で勝ち上がって来たのだとも話した。
 しかし彼はその前の試合でも不正をしていたのだろうと、みんなが噂していた。
 あの時ダグラスを取り巻いていた連中すらもダグラスに怒り、俺に同情して来た。
 ダグラスは完全に孤立し、全校生徒に憎まれていた。
 学校側もその噂を否定しなかった。
 ダグラスの不正行為に対し、相当怒っていたのだ。
 俺は何度も学校にダグラスの処分の軽減を申請した。
 ここでは銃殺刑すらあったのだ。

 そしてダグラス・マルコルムの退学処分が発表された。

 俺は激しく後悔した。
 俺がちゃんとダグラスと話をし、もっと互いに理解していれば、ダグラスはあんなことはしなかっただろう。
 多分だが、トーナメントの中で俺の実力を見ていたのではないか。
 亜紀さんたちに特訓してもらい、またフブキにも鍛えてもらったことで、俺は大分強くなった。
 そのことでダグラスは不安に思ったのだろう。
 俺を下に置いておくために、ついあんなことをしてしまった。
 俺以前での対戦では、正々堂々と勝ち上がって来たのだ。
 ここの審判が不正を見逃すはずもない。
 この少年士官養成学校でベスト32に入るのは、確かな実力がある証拠だ。
 魔が差してしまったのだ。
 それをさせたのは、俺が彼に真剣に向き合って来なかったせいだ。
 俺が臆病で、彼と向き合わなかったせいなのだ。
 最も悪いのは俺だ!

 俺はフブキにそういうことを話すと、フブキも責任を感じてしまったようだ。
 そんなことはないのだが、フブキはあの日食堂で自分がやったことを悔やんでいた。

 「僕がもっとダグラスとちゃんと接していれば!」
 「フブキは何も悪くない! 俺を助けてくれただけじゃないか!」
 「いや違う。僕は一方的にダグラスを斃しただけだ。彼のことを一つも気に掛けてあげられなかった!」
 
 フブキはそういう人間だった。
 誰にでも優しい奴だ。
 俺はフブキと共に嘆願書の署名を集め、ダグラスの処分の軽減を学校に願った。
 俺が頼むとすぐにフブキが協力してくれ、彼の人望で他の生徒も一緒にやってくれた。
 随分と署名を集めたが、学校側は決定を覆してはくれなかった。
 だがその後、何とかダグラスの退学は取り消しとなった。
 フブキは何も言わなかったが、多分あいつが何かをしたのだ。
 俺が交渉した時には頑なに受け入れてくれなかったのに、急にそうなったのだ。
 嘆願書は学校側は全く取り合ってくれなかったから、何らかのルートでそうなったことが俺には分かった。
 ダグラスは3週間の停学処分となり、年度内にEクラスへの進級を果たせなかった場合は退学処分とすると宣言された。
 その後で、ダグラスが父親と一緒に学校へ来た。
 俺とフブキが呼ばれ、学校の応接室で会った。
 流石にダグラスも反省したようで、俺たちに真剣に謝り、処分の撤回のために動いてくれたことを感謝した。
 ダグラスの父親も俺たちに感謝していた。
 フブキに向かって頭を下げて言った。

 「この度はダグラスのために動いて下さったそうで、感謝に堪えません」
 「いいえ、ダグラスは仲間ですから」
 「本当にありがとうございます!」

 ダグラスのお父さんはフブキに感謝していた。
 ダグラスは居心地が悪そうにしていたが、お父さんと一緒に頭を下げ、また礼を言っていた。

 「イッシキ様にまでお力を添えて頂いて」
 「いいえ、僕なんかは何も、ほとんどアンソニー・オズボーン特待生がやったんですよ。僕たちは彼を手伝っただけです」

 そうじゃなかったのだが、ダグラスのお父さんは俺に向いて頭を下げた。
 それにダグラスのお父さんはフブキの力が大きかったことを知っているようだった。
 フブキに敬称を使っていたことでも、それは分かる。

 「そうですか、ありがとうございます。オズボーンさん、あなたのお陰で息子は退学を免れました」
 「いいえ、そんなに大したことはしていません」
 「あの、学校から聞きましたが、以前あなたの食事を奪った上に殴って怪我を負わせたのだと」
 「ああ、それも大したことではありませんから」
 「いいえ、その時にもあなたが息子を庇ってくれたのだと聞きました。本当にありがとうございます。それに格闘技大会でも卑怯な真似をしてあなたを負傷させたそうで、本当に申し訳ない」
 「何でもありませんよ。フブキが言ったとおり、自分らは仲間ですから」
 「ありがとうございます。本当にあなた方の優しさのお陰で」
 「そんな! ただ、ダグラスの話を聞いていたので」

 俺がそう言うと、ダグラスのお父さんが不思議そうな顔をしていた。
 そうなのだ、俺はあの話を聞いたから、ダグラスを憎むことは出来なかったのだ。

 「え、話ですか?」

 俺はあの日、ダグラスが父親がストライカー大隊にいるのだという話を聞いたのだと話した。

 「はい、自分の父親もストライカー大隊にいて、あの《オペレーション・チャイナドール》に参加していたんです。その時に戦死してしまったのですが」
 「そうだったんですか! それはなんという!」
 「だからダグラスのことは特別に思えたんです。一緒にこの学校でやっていきたいと」
 「ああ! 本当にありがとう! あの、お父さんの部隊名と階級などをお聞きしても? 生憎とオズボーンさんというお名前を存じ上げないので」
 「はい、シルベスター・コールマンです。自分は今、とある女性に引き取られてオズボーン姓になっています」
 「コールマン軍曹!」

 ダグラスのお父さんが驚いて叫んでいた。
 途端に大粒の涙を流し、しばらく言葉は出なかった。
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