富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカの悪人 EXTRA STAGE Ⅵ

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 「君はあのコールマン軍曹の御子息だったのですか! ああ、なんという!」

 ダグラスのお父さんはいきなり大泣きした。
 大人の男の人が、こんなにも涙を流し、泣くのを初めて見た。
 ダグラスも驚いて見ている。
 涙を拭おうともせずに、ダグラスのお父さんが話した。

 「私が今こうして生きていられるのは、コールマン軍曹のお陰なのです! あの時コールマン軍曹が身を挺して自分たちを撤退させて下さったのです! ああ、君はコールマン軍曹の!」

 ダグラスが驚いて俺を見ていた。
 俺もそんな繋がりがあったとは想像もしていなかった。
 それからダグラスのお父さんが、父ちゃんの最期を詳しく語ってくれた。

 「激戦でした。誰もが必死に戦っていましたが、敵の数が物凄く。私たちの分隊も必死でしたが、あちこちで戦線が崩れ、もう支えきれなくなっていました。撤退命令が出たのですが、敵が噴出して来るので、それもままならず。その時、コールマン軍曹が御自分が抑えている間に負傷者を連れて撤退しろと! 私たちは断りましたが、コールマン軍曹が前に飛び出して行って! 我々はコールマン軍曹が稼いで下さった時間のお陰で、全員が撤退出来ました」
 「父ちゃんが……」
 「本当に勇敢で優しい方でした。いつも自分たちのことを気に掛けて、自らのことは常に後回しで。だからあの最後の時にも……」

 そう言ってまた涙を流した。

 「息子が本当にとんでもないことをいたしました! あのコールマン軍曹の御子息に対してなんとお詫びしてよいやら!」

 ダグラスが慌てて俺の両手を取って謝って来た。
 ダフラスも泣いていた。

 「アンソニー! 本当に済まなかった! そしてありがとう!」
 「いいんだよ、ダグラス。俺たちは深い縁があったんだ。これからは仲良くやって行こう」
 「アンソニー! 俺は散々お前に酷いことをしたのに!」
 「俺の方こそ最低な人間だったんだ。父ちゃんが死んだ苛立ちで、本当にいい人から金を盗もうとしてしまった。亜紀さんのお陰で救ってもらったんだ」

 フブキがニコニコして言った。

 「アンソニーは亜紀姉と親しかったんだよね?」
 「フブキ、亜紀さんのことを知っているの?」
 「うーん、本当はあんまり話したらいけないんだけど、僕と亜紀姉は兄弟なんだよ」
 「え?」

 一瞬よく分からなかった。
 そしてようやくとんでもないことに気付いた。

 「え、じゃあ、フブキはもしかして「タイガー」の……」
 「うん。僕のお母さんはリッカ・イッシキ、《タイガー・レディ》だよ」
 「「「エェェェェェェーーーーーー!」」」

 俺たちは驚いたなんてものじゃなかった。
 《タイガー・レディ》を知らない人間などアラスカにはいない。
 ただ、コードネームとお姿は知ってはいても、本名は公表されていなかったのだ。
 この世のものとは思えない美貌にして、「虎」の軍の最強の一角だ。
 今は《キャッスル・クリムゾン》の城主であり、度々《クリムゾン・リッカ》を率いて戦場で大活躍している。
 俺の父ちゃんが戦死した《オペレーション・チャイナドール》でも《クリムゾン・リッカ》は共に参戦していたはずだ。

 「お願い、ここだけの話にしてね。お母さんもあの《オペレーション・チャイナドール》で戦っていたからさ。ここにいる三人だけには話しておこうと思って」
 
 本当に驚いた。
 
 「実はね、アンソニーのことは亜紀姉から聞いたんだ。アンソニーが亜紀姉を知っているって聞いた後でね。ごめんんね、黙ってて」
 「い、いや、それはいいんだけど……」
 「亜紀姉もアンソニーが大好きなんだって。ねえ、今度一緒に遊びに行こうよ」
 「え、いいのか?」
 「大歓迎だよ。ああ、ダグラスも一緒に行こう」
 「いや、俺なんてとんでもない!」
 「いいからさ」

 ダグラスのお父さんが言った。

 「しばらく前に、自分はストライカー大佐と一緒に《キャッスル・ディアブロ》に呼ばれたんです」
 「ああ、ダグラスから聞いていますよ」
 
 ダグラスが恥ずかしそうに下を向いていた。
 あの時俺に自慢気に話していたことが恥ずかしかったのだろう。

 「ええ、ダグラスも一緒でした。ダグラスには聞かせませんでしたが、その時に《ディアブロ》からコールマン軍曹の御子息と知り合ったお話を伺いました。縁あってアンソニー君と出会ったのだと。あの激戦の中で必死に戦っていた私たちに聞かせておきたかったのだと。あなたのことだったのですね」
 「亜紀さんが、そんな……」
 「あなたが優しい女性に引き取られ、幸せにしているのだと聞きました。私たちは本当に嬉しかった。あのコールマン軍曹に申し訳ないとばかり思っていたのですが、《ディアブロ》から救いを頂きました。あの方は常にお優しい。自分は今後も「虎」の軍のために精一杯捧げるつもりです」
 「俺も! 俺も頑張るよ!」

 ダグラスが涙を流しながら叫んだ。
 俺はあらためて自分のやった過ちと、サラとの縁を話した。

 「俺もです。俺も「虎」の軍に捧げます」

 フブキがニコニコしていた。
 
 「ああ、早く亜紀姉に話したいなー」
 「フブキ、俺、《ディアブロ》に鍛えてもらいたいな」
 「ダグラス、辞めといた方がいいよ」
 「やっぱ、俺なんかじゃダメか」
 「そうじゃなくってさ、本当に死んじゃうから」
 「え?」
 「僕もね、士王兄さんと何度も死んだからね。やるんならルー姉とハー姉もいないと。死んでも大抵蘇らせてくれるからね」
 「!」
 「あ、でも「オロチ」と「Ω」の粉末がないとなー。あれって特別なソルジャーにしか配られてないから、どうしよう」
 「あの、やっぱまだやめます」
 「うん。それがいいと思うよ」

 フブキの強さは遺伝的なものも大きいのだろうが、その上にそんなことがあったのか。

 「でも、亜紀姉は優しいよ!」
 「そうだ、カレーっていうのが最高に美味いんだぜ!」
 「ああ、「石神家カレー」かぁ!」
 「そうそう、それ! また喰いたいなー」
 「じゃあ、頼んでおくよ!」
 「本当か!」
 「うん、また連絡するね」
 「待ってる!」

 



 その後本当に《キャッスル・ディアブロ》でまたカレーを御馳走になり、《キャッスル・クリムゾン》にも誘ってもらった。
 実物の《タイガー・レディ》と話して、俺は舞い上がった。
 特別に《マザー・キョウコ》にもお会いして、最高の思い出になった。
 ダグラスとはその後親友となり、ダグラスは努力して卒業年にはAクラスにまで上がって来た。
 あの日、亜紀さんに救ってもらった俺の人生は、こんなにも輝かしいものになった。
 一生忘れることはない。
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