富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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道間家の休日 Ⅶ

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 ここは土地の波動が良いらしく、昨夜はぐっすりと眠った。
 だから翌朝は結構早い時刻に目が覚め、スッキリだ。
 顔を洗ってからコンバットスーツに着替え庭に出て見ると、もう虎蘭様が鍛錬をされていた。
 青月、美空も一緒だった。
 それに御堂家の正利様もいらっしゃった。
 正利様は子どもの頃から剣道をなさっているそうだ。
 今も全国大会にも毎年出場され、優勝されたこともある。
 お若いのだけど、既に御堂家の次の跡取りとして幾つもの仕事を抱えてお忙しくされている。
 虎蘭様が正利様の相手をなさっていた。

 「正利さん、あなたの剣はまっすぐでよろしいですね」
 「ほんとうですか!」
 「ええ、見事なものです。なかなかそういう剣は築けませんよ」
 「ありがとうございます!」

 虎蘭様が褒めていらっしゃった。
 この方は嘘を決して言わない方だ。
 そのことを正利様も御承知で、大層喜んでおられた。
 それに私には分かる。
 剣の道は強さだけではない。
 その人間そのものの道でもあるのだ。
 正利様は、きっと御堂家の良い跡継ぎになられるのだろう。
 天狼兄上も起きて来られた。
 私も一緒に稽古をする。
 虎蘭様が興味深げに観ておられた。

 「天狼さん、不思議な技ですね」
 「はい、道間家のものです」
 「私が拝見しても良かったのですか?」
 「もちろん構いません。母上も御承知のことです。石神家の方々とは今後共に歩む家なのだと言われています」
 「そうですか!」

 虎蘭様が喜ばれた。
 一緒に庭で鍛錬をした。

 「奈々さん、随分と変わった型ですね?」
 「はい、「シラッド」です!」
 「シラッド、私が知らない武術です」
 「どうぞご覧ください!」

 虎蘭様が御存知ないと伺ったので、嬉しくなった。
 私は幾つか「シラッド」の技を虎蘭様にお見せした。

 「なるほど、武器も扱う格闘技なのですね」
 「お分かりになりますか!」

 流石は虎蘭様だ。
 私の型を見ただけで「シラッド」の体系を見抜かれた。

 「父上から、幾つもの武技を教えて頂きました」
 「そうなのですか」
 「はい! その中でもこの「シラッド」が私には向いているだろうと。父上もお若い頃にある人から教わったそうです」
 「それは初めて伺いました」
 「父上は努力の方です。人知れず様々な武術、武技を研究されたようです。ですから本当に色々なものを御存知で。私のために、シラッドの師範を紹介して下さったのです」

 以前に道間家が襲われた後で、私は父上に頼んで武器の扱いや様々な武術についてお願いして教わった。
 「シラッド」は父上の紹介の方から数年に渡って教わったのだ。

 「それは羨ましい。そうですか、高虎さんはまるで怒貪虎さんのようなことをなさっていたのですね」
 「ドドンコさん?」
 「ええ、石神家の根幹にいらっしゃる方です。怒貪虎さんも様々な武術を納められた方なのです」
 「そうなのですか!」

 では昨日乗った「スーパードドンコ」とは、父上がその怒貪虎様のお名前を冠したものだったか!
 虎蘭様が言った。

 「青月、奈々さんのお相手をしなさい」
 「はい!」

 私は楽しくなって、M629「ステルスハンター」の弾倉から弾丸を抜いた。 
 腰の後ろからボウイナイフを抜いて右手に構え、ガンは左手に持った。
 青月は無刀だ。
 互いに向き合って始める。
 開始の合図も礼も無い。 
 実戦形式だ。

 私がガンを構えると青月の身体がブレた。
 すかさず右手のナイフで右の空間を薙ぎ、同時にガンでその左を撃った。
 ブレて消えたのがフェイントだと分かったからだ。
 でも青月は私の右側に忽然と姿を現わし、私の胸を狙う。
 石神家の足さばきは超絶だ。
 私は身体を回転させて、青月の脇腹にナイフを突き立てる。
 その右手を青月が払い、私に高速の中段蹴りを放った。
 私は飛びのいてバク転し、足を拡げて回す。
 「カポエイラ」の技だ。
 近づいた青月が今度は大きく後ろへ跳んでかわした。
 互いに攻撃は当たらず、いつまでも攻防が続いた。
 でも私がガンを捨てナイフを持ち直して青月の首に充てた。
 青月が笑って離れた。

 「そこまで! 奈々さん、見事!」
 「ありがとうございます!」
 「最後の一撃で、青月の首は落ちました」
 「いいえ、ギリギリでした。私が首を狙った瞬間に、何か出たでしょう」
 
 虎蘭様が笑っていらした。

 「銃弾を抜かなくても良かったですね」
 「銃の重さがあれば、また違った攻撃もあったでしょう」
 「はい!」
 
 虎蘭様は何もかも見通されていた。
 しかし青月が剣を持っていれば、全然相手にはならなかっただろう。
 青月が微笑んで握手を求めて来た。

 「奈々さん、やられました」
 「いいえ、青月も見事でした」

 次に美空が天狼兄上と手合わせした。
 美空は剣を握っている。
 美空は変幻自在の攻撃で天狼兄上に襲い掛かったが、天狼兄上は指先でその攻撃をいなしていた。
 素手で真剣をさばいているのだ。
 硬い金属同士がぶつかる澄んだ音が響いて行く。

 「天狼さん!」

 美空が嬉しそうに叫んだ。
 自分の全力を出しても良いのだと分かったのだ。
 剣速が上がり、美空の攻撃が見えなくなる。
 天狼兄上の動きも見えない。
 どんなに美空が攻撃しても、まるで見えない手で攻撃が止められているようになった。
 そしてその見えない何かが無数の攻撃になって美空に突き刺さる。

 「まいりました!」

 美空は汗をかきながら、激しく呼吸していた。

 「天狼さん、素晴らしい技ですね」
 「まだまだです。父上はもっと遠い場所におられます」
 「そうですか」

 天狼兄上が虎蘭様に言った。

 「虎蘭様、よろしければ未熟なわたくしに、「常世渡理」の型をお見せいただけませんか?」
 「はい」

 虎蘭様が「常世渡理」を持ち、美しく舞い始めた。
 しかし、その舞が恐ろしく鋭い攻撃技だと理解出来た。
 周囲に「シャララン」という美しく澄んだ音色が響いて行く。
 みんな見惚れてそれを見ていた。
 虎蘭様の舞が加速し、光の球体に包まれて行く。
 その時、意識が無くなった。

 「「ププププププププ……」」

 「あら、オロチ、来たのですか。おはようございます」

 虎蘭様の美しいお声が遠くで聞こえた。




 気が付くと朝食の席に座っていた。
 二種類の朝食で、パンケーキを中心とした洋食と、和食だ。
 部屋の脇に台があり、好きなように食事を選べるようになっていた。
 和食が多い道間家と、和食があまり食べられない虎蘭様たちのために御堂家の方が用意して下さったものだと分かった。
 私はパンケーキのトッピングを母上と一緒に楽しんだ。
 様々なフルーツや生クリームなどと、アイスクリームまであった。
 虎蘭様たちは主に和食を召し上がった。

 「あれ、神がいないわ?」

 神はまた食事を食べ損なうのだろうか。 
 久流々が傍に来て言った。

 「昨日、腰骨を折ったようでして」
 「そうなの!」
 「大事ありません。夕べのうちに「御堂病院」へ搬送いたしました」
 「可哀そうにね」
 「はい」

 どこで怪我をしたのだろうか。
 夕べはお酒を飲んで酔っていたので、どこかで転んだのだろう。
 私がついていてあげれば良かった。
 ちょっと残念だけど、朝食が美味しくて夢中で食べた。
  
 「この卵、美味しいですね!」

 青月と美空が喜んでいた。

 「そうですか! パンケーキにも使っていますが、うちの自慢のニワトリでして!」
 
 菊子さんが言った。

 「石神さんも好物なのですよ!」
 「父上の!」

 私もいただいて、青月たちと同じにタマゴかけご飯にした。
 普段は母上が下品な食べ方と止めるのだけど、今日は青月たちが食べているので何も言わない。

 「美味しい!」
 「ね!」

 母上も召し上がり、天狼兄上もやった。

 「本当に美味しいものですね」
 「母上、これは最高です」

 正巳さんと菊子さんが喜んだ。

 「そうですか、ではお土産に用意いたしましょう」
 「本当でございますか! ありがとうございます!」

 お腹一杯に頂いて、帰ることになった。
 本当に楽しい旅行になった。




 神とはその後一ヶ月連絡が付かなかった。
 絶対安静で入院していたそうだ。
 かわいそうに。
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