富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ゴルディアス》 XⅠ : 「業」

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 マルコルム大佐が嬉しそうな顔で俺に近付いて来た。

 「サクラ、《ディアブロ》がミハイルを討ったらしいぞ」
 「そうなんですか!」

 直後に俺たちにも《ウラノス》からの解析報告が来た。
 どうやらマルコルム大佐には特別な情報源があるようだ。
 俺が部下からの報告を確認していると、マルコルム大佐が俺に教えてくれた。

 「我々には「使い魔」がいるからな。美獣様とは別な方法で戦場を確認しているのだ」
 「お教えいただき感謝します」

 そうだ、本来は「グレイプニル」の情報網などは教えてもらえないだろう。
 しかし、マルコルム大佐は俺たちを戦友として信頼してくれている。
 だから俺たちにも情報が来ると分かっていながら、一瞬早く教えてくれたのだ。
 《ウラノス》は87%の確度の情報と言っているが、マルコルム大佐は確実な事実として俺に言っていた。
 本当に優秀な情報網なのだろう。

 俺たちはユーラシア大陸の西側から進軍している。
 石神さんと聖さんが東側から侵攻しているので、一応は挟撃となるが、ロシアがあまりに広大なので現実には二方面作戦であり、北側と南側からもストライカー大隊、「虎酔会」が侵攻しているので、正確には四方面作戦だ。
 ただし、ストライカー大隊と「虎酔会」は主に敵の拠点の攻略が中心なので、ロシア全土への無差別攻撃は石神さんたちと「グレイプニル」、それに同行している俺たちになる。
 そのため、蛇行しながらの進軍となり、作戦終了までは数週間を要する予測となっている。
 拠点を潰すだけの作戦では無いのだ。
 石神さんはロシアに一切のものを残すつもりは無い。

 「まだ我らにはそれほどの反撃はないな」
 「まあ、そういうことでもありませんが」
 「ワハハハハハハハハハ!」

 マルコルム大佐は大笑いした。
 俺たちも既に600京の妖魔を撃破している。
 主に「ゲート」での反撃だが、悉く短時間で駆逐していた。
 そのためか、無駄だと分かった反撃はいつしか無くなっていた。
 以前であれば到底まかなえない数の妖魔だったが、今の俺たちにとってはどうということもない。
 特に「異界魔導」と「花岡」の交差攻撃は絶大な威力を持っており、更に両軍での合同演習によってその精度と威力を高め合って来た。
 だから余裕を持った進軍であることは確かで、死傷者は一切出ていないし、疲労を見せる人間もいない。
 レジーナ様は自室にこもったまま出て来なくなった。
 時折マルコルム大佐などが出入りしているのを知っていたが、様子は一切分からない。

 「サクラ、油断するなよ?」
 「分かってます。我々も側近の誰かとぶつかる可能性はありますからね。それに残った拠点はどこも硬いでしょうし」
 「そうではない。「カルマ」との戦闘を前提にしろということだ」
 「はい!」

 そうだ。
 「業」がどこにいるのかはまだ分かっていないのだ。
 こうやって全ての箇所を蹂躙しているということは、どこかで「業」とぶつかる可能性はあるのだ。

 「レジーナ様はそれを待っておられる」
 「なんですって?」
 「レジーナ様は常に広大な世界と遙かな時間を観ておられるのだ」
 「そうですか」

 俺にはさっぱり分からなかった。

 「美獣様もそうだ。だから美獣様がレジーナ様に西からの進軍を頼まれ、レジーナ様もそれを受けられた。そうであれば、必ず何かがある」
 「なるほど」

 分からなかったが、俺はそう言った。
 普通は信じられないことだが、それは俺に学が無いからだ。
 石神さんは何手も先を読んで行動されている。
 特に今回の《オペレーション・ゴルディアス》はいつにも増して念入りに作戦を練っていらっしゃった。
 ロシア全土を亡ぼす作戦であるとおっしゃっていたが、それは単に国土を荒廃させることだけではない。
 「業」の全てを亡ぼすということだ。
 全土の大規模な破壊は既に終わっている。
 最初の亜紀さんの攻撃だけでも十分だったはずだ。
 だが、《オペレーション・ゴルディアス》の真の作戦行動は我々の進軍なのだ。
 ここから本当に「業」の全てを破壊する。
 既に「業」の側近の二人までを斃した。
 宇羅は妖魔を仕切っていた奴で、ミハイルはジェヴォーダンやバイオノイドを主に担当していた奴だと分かっている。
 両者の撃墜の情報では、二人とも「業」によって特別強力な妖魔と合体されていたようだ。
 《青い剣士》を遙かに上回ると分かった。
 残った側近で主だった者はキリールか。
 他の者もいる可能性が高いが。

 「業」の残った拠点は我々の側にも12カ所がある。
 さて、何が出て来るやら。




 3か所の拠点を潰した後で、マルコルム大佐がレジーナ様に呼ばれた。
 拠点は膨大な妖魔が噴出して来たが、「交差攻撃」の絶大な威力で蹴散らすことが出来た。
 非常に順調だ。
 移動の際にも見渡す限りの土地を再度破壊していく。
 マルコルム大佐が戻って来た。

 「サクラ、この先に大きな敵がいる」
 「そうですか!」
 「レジーナ様が捉えられた。そこへ進軍するぞ」
 「分かりました!」
 
 マルコルム大佐が俺を向いて言った。
 そして俺の耳元で呟いた。

 「レジーナ様は、「業」だと仰られている」
 「なんですって!」
 
 《オペレーション・ゴルディアス》で「業」に接敵する可能性は全員が考えていたが、まさか我々だったか!

 「イシガミ・レギオンも来るだろう」
 「石神さんは?」
 「美獣様は来られないらしい。我々に任せると言っている」
 「そうなのですか!」

 てっきり石神さんが飛んで来ると思っていた。

 「サクラ、気合を入れろ」
 「はい!」
 「美獣様はレジーナ様を信頼されているのだ。我々もその期待に応えるぞ」
 「そうですね!」

 俺は幹部士官たちにも伝達した。
 大隊の全員が「業」と交戦することを即座に知った。

 3時間後、俺たちは対峙した。
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