富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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《オペレーション・ゴルディアス》 X : ミハイル憐亡 2

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 「亜紀! あれはお前の両親の仇だぁ!」
 「!」

 突然上空から叫び声が聞こえ、巨獣に「連山」が撃ち込まれた。
 七重「魔法陣」での攻撃であり、巨獣の巨体に無数の斬撃が入る。
 同時に次元の壁が崩壊し、異次元の怪物が出そうになる。
 虎豪さんだった。
 無茶な攻撃であり、次元の崩壊は絶対にやってはいけない!

 「虎豪さん! 次元の壁が!」
 「バカ! お前、父ちゃんと母ちゃんの仇を放っておくのかぁ!」
 「!」

 あれがお父さんとお母さんを殺した?!
 わけが分からなかったが、私は全身が燃え上がるのを感じた。
 今、自分が迷っていたことがバカな考えだと気付いた。
 敵が目の前にいるのだ。
 散々私たちを苦しめ、多くの人の命を奪って来た敵!


 《最後の涙》


 私は最大の九重の「魔法陣」で撃ち込んだ。
 次元の壁が更に幾つも崩壊し、異次元の怪物が巨大な腕を伸ばして来る。

 「そうだぁ! 全力で行けぇ!」
 「「亜紀さん!」」

 虎豪さんが笑いながら異次元の怪物を押し返し、真夜と真昼も手伝った。
 私は唯、全力で攻撃を続けた。
 巨獣の巨体が崩れていく。
 次元の壁はますます大きく壊れて行った。
 異次元の怪物の半身が出て来るようにもなった。

 「お、おい! ちょっとやり過ぎだぁ!」

 虎豪さんの慌てた叫びが聞こえる。
 私はそれを無視して攻撃を続けた。

 「待てってぇ! あいつはお前の両親の仇じゃねぇ!」
 「え?」

 この人何言ってんの?
 でも私は攻撃を止めた。
 巨獣の身体は四散し、破片は崩壊を始めていた。

 「ゴルァ! てめぇもとっとと次元の壁を直せぇ!」
 「は、はい!」

 異次元の怪物がまた半身を出そうとしていた。
 あ、ちょっと危ない。
 巨大なカマキリの腕のようなものが何十本も見えている。
 一つが巨大なビルほどもある!
 慌てて異次元の怪物の周囲を攻撃した。
 真夜と真昼も必死に壊れた次元の壁を攻撃し、やがて収束して行った。

 ふぅぅーーー!

 全員で地上に降り、ストライカー大隊も降りて来た。
 それぞれに巨獣の残骸を尚も攻撃して消滅させて行った。
 虎豪さんが私の前に来て、頭を引っぱたいた。

 「てめぇ! やり過ぎなんだよぉ!」
 「だって! 虎豪さんが父と母の仇だから全力で行けって!」
 「お前がモタモタしてるからだろう!」
 「仇だったんですか!」
 「知らねぇよ!」
 「なんだとぉ!」

 真夜と真昼に後ろから羽交い締めにされた。
 虎豪さんは大笑いしている。

 「ああいうわけの分かんねぇやつはよ、最初から全力で潰すんだよ」
 「ナヌ?」
 「お前は何か知らんが様子を見てただろう。だからだよ!」
 「はい?」

 また頭を引っぱたかれた。

 「まったくよ。お前の力はでか過ぎなんだよ。ちったぁ加減を覚えろ!」
 「え、は、はい。スミマセンデシタ……」

 なんだよー!
 でも何とかなったのは虎豪さんのお陰だ。
 あの巨獣にもたついていたら、もっと犠牲者が出ただろう。

 巨獣の頭部の残骸から、何かが這い出て来た。
 軟体動物のような感じだが、何となく人の姿にも見える。
 私たちは近づいて行った。
 殺気も闘気も無い。

 〈たすけてくれ……〉

 英語だった。
 
 「なんだこいつ?」
 「さあな。助けてって言ったか?」
 「はい」

 〈死にたくない。殺さないで……〉

 憐れな声音だった。
 力尽きようとしているのが分かる。

 「お前、「業」の側近だろう?」
 〈俺は脅されていた。従わなければ殺される……〉
 「だから敵なんだろ?」
 〈ちがう……俺は死にたくないから……もうお前たちに逆らわない……だから……〉

 「おい、亜紀。とっとと殺せよ」
 「はい!」
 〈まってくれ……お前たちにみかたする……だから……だから……〉

 弱って来ているのが分かった。
 まあ、演技かもしれないが。
 でも、どうしてこいつが分離しているのかは何となく分かった。
 「業」はミハイルに特別な妖魔と合体させたのだろう。
 宇羅はそれと一体化していたと思われる。
 しかしこいつは最後まで「自分」を維持したかったのだ。
 妖魔の力は使えたようだが、それは「自分」を守るためのものだったに違いない。
 「業」のために全てを捧げるような奴では無かった。
 そうは言っても、もう遅いのだが。
 こいつが「業」に従った瞬間から、もう「業」に取り込まれる道しか残されてはいなかったのだ。
 
 「もう逝けよ」

 私が腕を挙げると、一層憐れに叫んだ。

 〈おれは死んだらあれの中に……あんなところはいや……しぬよりももっと……〉

 私はそのまま《龍槍》で止めを刺した。
 一瞬、黒い何かが地中から出て、虚空を掴んですぐに消えた。
 これであいつは「業」の中に行ったのだ。
 そこであいつがどうなるのかは知ったことではない。
 
 デュールゲリエたちが飛んで来て、巨獣が出て来た場所を調べ始めた。
 巨大な特殊《ハイヴ》であり、やはり「界離」によって隠蔽されていたようだった。

 「規模からして、ここが「ジェヴォーダン」と「バイオノイド」の研究施設であったと思われます」
 「じゃあ、あいつは!」
 「はい、恐らくは《ミハイル》であったかと予測されます。先ほど現われた《宇羅》と同様に、「業」によって特別な力を与えられたものかと」
 「そうなんだぁ!」

 そう感じてはいたが、じゃあ、宇羅に続いて「業」の側近を二人斃したかぁ!

 「おい、まだまだ残ってるぜぇ!」

 虎豪さんが言った。

 「はい!」
 「他の剣聖たちもどんどん喰い荒らしてっからな! 高虎たちもガンガンやってるしよ」
 「そうなんですね!」

 タカさん……
 自然に、あの美しく優しい顔が過った。
 
 「真夜! 真昼!」
 「「はい!」」
 「食事にするよー!」
 「「え?」」

 二人が驚いていた。

 「まだまだあるんだってさ! だから喰える時に喰っとかないとね!」
 「「はい!」」
 「虎豪さんも!」
 「分かったよ。ワハハハハハハハ!」

 そうだ、慌てることは無い。
 それに一旦落ち着かなきゃ。
 あんな側近ごときに右往左往していてはいけない。
 「業」を殺さなきゃ!
 私たちは《ジャガーノート》に戻って食事にした。
 ストライカー大佐たちも一緒に食事にしたようだ。
 戦いはまだ続く。




 私は先ほどのミハイルだったものの最期を思った。
 多分、自分が生き残りたいと思ったのは本当だろう。
 だけどあいつは嬉々として「業」に従ったはずだ。
 今更助かるわけはないだろう。
 大体にして、最後には「業」に殺されるのだ。
 そのことも分かっていたはずなのに……
 それでも少しでも長く生きたかったか。

 私はタカさんの顔を思い浮かべた。

 「タカさん……」

 私はずっとタカさんの傍にいる。
 あいつとはそこが違うのだ。

 「タカさん……」

 私たちは必ず勝つ。 
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