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六花、ドライブじゃねぇぞ。 Ⅱ
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「どちらへ行くんですか?」
「丁度昼だろ? 浜松でウナギを食うぞ」
「はい、分かりました」
もっと喜べよ。
日本人なんだろうが。
俺は浜松のあの店でウナギを食うために、出発時間を調整したんだからなぁ。
市内に入り、俺は迷うことなく店に着いた。
「あ、石神先生、お待ちしておりました!」
店に入ると、威勢のいい声で主人が出て来た。
「こちらへどうぞ」
店の中は、結構込み合っていた。
俺たちは奥の座敷へ案内される。
今日の六花は濃いグレーのフランネルのパンツスーツだ。
靴はパンプスだが、若干ヒールが高い。
そのせいで、普段でも高身長の六花は、本当にモデルのようだ。
ちなみに俺は、フォックス・フランネルの濃い燻んだ青のスーツだ。ピンストライプが入っている。
茶を持ってきた奥さんが
「まあ、ずい分とお綺麗な方ですねぇ」
「うちの看護師です。今日は愛知で勉強のため、連れてきました」
「そうなんですか。石神先生のいい人かと思いましたよ」
笑いながら愛想を言う。
「一色六花と申します」
六花はエロを出すことなく、丁寧に挨拶をする。
ホッとした。
「石神先生! いつものようで宜しいですか?」
主人が座敷に来て聞いてきた。
「はい、宜しくお願いします。連れの分も同じで構いません」
「分かりました!」
本当に美味いウナギは待たされる。
1時間以上待つのはザラだ。
だから俺は六花に電話させたのだ。
それでも15分ほど待たされた。
その間、俺は肝の串焼きを頼み、その他店のサービスでウナギの骨が出された。
「お待ちどうさまでした。特上ウナギの二重天井です」
「ありがとうございます。浜松はいつも通り抜けできませんね、この店がある限りは」
「ありがたいお言葉です。どうぞ、ゆっくり召し上がってください」
口に入れた瞬間、六花は叫んだ。
「ハァッー!」
空手の息吹のようだった。
「どうだ、美味いか?」
「はい、もう天国のようでちゅ」
夢中で箸を口に運ぶ。
この浜松の店は、大仏先輩に連れられて来た。
一緒に大阪に出張の際に、新幹線を途中下車して教えてもらったのだ。
以来、西へ行くときには、必ず寄るようになった。
それほどに美味い。
俺はウナギは好きだが、都内の名店でもここの味には劣る。
まあ、産地であるから仕方の無い部分もあるが。
それにしても、ここの主人の腕前はピカイチだ。
六花はひたすらに櫃を掻き込み、漬物などには見向きもしない。
ご飯の下に、更にウナギが敷いてあるのを知って、人間の言葉ではない何かを口にした。
たちまち喰い終わってしまい、やっと漬物と肝吸いを飲んだ。
「はぁー、食べ終わってしまいました」
「そんなに夢中になるなら、もっと多めに注文しておけば良かったな」
「いえ、もうお腹は一杯です。気持ちだけ残念という感じで」
「なるほどな」
デザートは頼んでいなかったが、主人がレモンアイスを持ってきてくれた。
脂が回った口の中が、爽やかになった。
会計を済ませ、俺は奥さんに東京の土産だと言って、虎屋の羊羹を渡す。
しきりに遠慮されるが、この店の味に対して、値段が安すぎるのだ。
金銭は受け取らないのが分かっているので、いつも土産を持ってきていた。
俺たちは再び東名高速に乗り、愛知を目指す。
「ああ、あんな美味しいものがこの世にあるなんて」
六花がため息をついた。
「そんなに美味かったかよ」
「はい、もう死にそうなくらいです」
エロに関する語彙は凄まじいのだが、普段の六花は案外普通だ。
「でも、石神先生」
「なんだよ」
「もうこれで精力満点ですね!」
「……」
「あ、ナンカ火照ってきましたぁ!」
「……」
「ナンカ濡れ……アウッ!」
俺は六花のこめかみに、結構強めにパンチを入れた。
「丁度昼だろ? 浜松でウナギを食うぞ」
「はい、分かりました」
もっと喜べよ。
日本人なんだろうが。
俺は浜松のあの店でウナギを食うために、出発時間を調整したんだからなぁ。
市内に入り、俺は迷うことなく店に着いた。
「あ、石神先生、お待ちしておりました!」
店に入ると、威勢のいい声で主人が出て来た。
「こちらへどうぞ」
店の中は、結構込み合っていた。
俺たちは奥の座敷へ案内される。
今日の六花は濃いグレーのフランネルのパンツスーツだ。
靴はパンプスだが、若干ヒールが高い。
そのせいで、普段でも高身長の六花は、本当にモデルのようだ。
ちなみに俺は、フォックス・フランネルの濃い燻んだ青のスーツだ。ピンストライプが入っている。
茶を持ってきた奥さんが
「まあ、ずい分とお綺麗な方ですねぇ」
「うちの看護師です。今日は愛知で勉強のため、連れてきました」
「そうなんですか。石神先生のいい人かと思いましたよ」
笑いながら愛想を言う。
「一色六花と申します」
六花はエロを出すことなく、丁寧に挨拶をする。
ホッとした。
「石神先生! いつものようで宜しいですか?」
主人が座敷に来て聞いてきた。
「はい、宜しくお願いします。連れの分も同じで構いません」
「分かりました!」
本当に美味いウナギは待たされる。
1時間以上待つのはザラだ。
だから俺は六花に電話させたのだ。
それでも15分ほど待たされた。
その間、俺は肝の串焼きを頼み、その他店のサービスでウナギの骨が出された。
「お待ちどうさまでした。特上ウナギの二重天井です」
「ありがとうございます。浜松はいつも通り抜けできませんね、この店がある限りは」
「ありがたいお言葉です。どうぞ、ゆっくり召し上がってください」
口に入れた瞬間、六花は叫んだ。
「ハァッー!」
空手の息吹のようだった。
「どうだ、美味いか?」
「はい、もう天国のようでちゅ」
夢中で箸を口に運ぶ。
この浜松の店は、大仏先輩に連れられて来た。
一緒に大阪に出張の際に、新幹線を途中下車して教えてもらったのだ。
以来、西へ行くときには、必ず寄るようになった。
それほどに美味い。
俺はウナギは好きだが、都内の名店でもここの味には劣る。
まあ、産地であるから仕方の無い部分もあるが。
それにしても、ここの主人の腕前はピカイチだ。
六花はひたすらに櫃を掻き込み、漬物などには見向きもしない。
ご飯の下に、更にウナギが敷いてあるのを知って、人間の言葉ではない何かを口にした。
たちまち喰い終わってしまい、やっと漬物と肝吸いを飲んだ。
「はぁー、食べ終わってしまいました」
「そんなに夢中になるなら、もっと多めに注文しておけば良かったな」
「いえ、もうお腹は一杯です。気持ちだけ残念という感じで」
「なるほどな」
デザートは頼んでいなかったが、主人がレモンアイスを持ってきてくれた。
脂が回った口の中が、爽やかになった。
会計を済ませ、俺は奥さんに東京の土産だと言って、虎屋の羊羹を渡す。
しきりに遠慮されるが、この店の味に対して、値段が安すぎるのだ。
金銭は受け取らないのが分かっているので、いつも土産を持ってきていた。
俺たちは再び東名高速に乗り、愛知を目指す。
「ああ、あんな美味しいものがこの世にあるなんて」
六花がため息をついた。
「そんなに美味かったかよ」
「はい、もう死にそうなくらいです」
エロに関する語彙は凄まじいのだが、普段の六花は案外普通だ。
「でも、石神先生」
「なんだよ」
「もうこれで精力満点ですね!」
「……」
「あ、ナンカ火照ってきましたぁ!」
「……」
「ナンカ濡れ……アウッ!」
俺は六花のこめかみに、結構強めにパンチを入れた。
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