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そして、サバト

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 会議当日。




 大森は懇意にしている魚屋から、スッポンを三匹手に入れた。

 「いやあ、大分苦労したよ。なにせ、専門料理屋に卸すのが基本だからねぇ。特別だよ?」
 「うん、おじさん、ありがとう」

 「今まで使ったことないルートで仕入れたもんで、本当に大変だったよ」
 「だからありがとうって。また買い物にくるからさ」

 「ああ、宜しく頼むね! じゃあ!」


 




 発泡スチロールの大きな箱に入れてもらったが、抱えている間中、中でゴソゴソしている。
 
 「生きてんのかぁ」
 大森はちょっと不安になった。

 魚などなら幾らでも捌けるが、生きたカメとなると、どうしても気後れする。

 「まあ、最初のうちだけだから!」
 自分で気合を入れ、マンションへ向かった。





 「やっぱりダメ! 生きてるのはダメだよー!」
 大森は半泣きになって大きな身体を屈めている。
 一応、人体を切り刻むのに抵抗はない。


 「栞、頼む」
 一江が栞に声を掛ける。

 「しょうがないなー」

 可愛らしいフリルのついたエプロン姿の栞は、大森から柳葉包丁を受け取った。
 何の躊躇もなく、栞はスッポンの首を切り落とした。

 「「「!」」」

 全員が驚愕して栞を見る。

 「え、なによ?」

 栞の手には、大量のスッポンの血が飛び散っていた。

 「あ、血は残さなきゃ!」
 一江が慌ててグラスを持って、スッポンの切り口を向けた。

 栞は次々と首を切り落とし、他の三人がその血を受けた。



 そこからは大森が中心となり、スッポンを解体していく。
 
 甲羅に難儀するかと思ったが、栞が包丁を一閃させると、呆気なく開いた。







 他の食材も切り終え、いよいよ鍋が始まった。

 一江の宣言の後、食材が投入されていく。


 「ああ、なんかクリスマスの鍋を思い出すわ」
 「楽しかったですね」

 栞と六花が言う。


 「なんか面白くねぇ」
 一江が言う。


 食事会は、それでも楽しく進み、四人はスッポンの醍醐味を味わった。

 「なんかさ、最初はちょっとグロイとか思ってたけど、案外美味しいもんだね」
 「そうだよね。誰かが頭なんか入れてどうしようかと思ったけど。案外美味しいよね」
 「なんか、身体が熱くなってきた気がします」
 「そうよね、なんかポカポカしてきた」

 初めてのスッポン鍋に、最初は全員戸惑っていた。
 何しろ、肉の煮え具合すら分からない。
 誰かが「あ、美味しい」と言うので、大丈夫なのがわかった。



 「お酒がちょっと欲しいけど、こういう食事会もいいもんだよね」
 そうだ、そうだ、とみんながうなづく。
 替わりに、生血をすすって、キャーキャー言う。

 酒は無かったが、いつもよりお喋りが盛り上がり、ゆっくりと鍋をつついていく。
 温かく、楽しい時間が経過した。





 最後のシメにウドンを入れようという時。

 「あ、ちょっとゴメン、トイレ」
 
 「ああ、大森、私も行きたいから早くね!」

 「すみません、自分もちょっと」

 「みんな、これからシメだっていうのに、まったくぅ」




 そう言った栞の腹がゴロゴロと鳴った。

 「あ、イタイ!」

 それを契機に、全員が一斉に腹痛に襲われる。




 全員がトイレに殺到するが、大森が出ない。

 「ちょっと大森、早く出なさいよ!」
 一江はトイレのドアを叩きまくる。


 「待て、まだ出てねぇんだ!」

 「半分で交代しよ? ね? お願い!」


 「自分のことは構わないで結構です。洗面器をお貸しください」

 「あんた、何言ってんのよ!」

 「あ、私も洗面器が必要かも!」

 「お前ら待て! 落ち着け! ここはあたしのマンションだぞ!」



 「そんなこと言ったって、あ、もう取りあえず服は脱がせてね、大変なことになるかもだから!」

 「六花、お前もうスッポンポンか!」

 「一江、上手いこと言うな」
 「お前は早く出ろ!」




 結局、大森以外の全員が全裸になる。



 「おい、大森、お前本当にいい加減に、グゥ!」



 栞が限界に来た。
 右手を閃かせると、トイレのドアの上半分が両断される。
 次いで、残った下半分は右脚の一閃で粉砕された。


 「え、なに、なに、なに?」
 大森は突然開いた景色に驚くが、次の瞬間栞に投げ飛ばされる。



 「おい、まだ途中だって!」

 壁と廊下に液体が飛び散る。

 「おい、こっちも限界なんだ、栞、お願いだからぁー」



 「あの、もしかすると、これは食中毒というものではないでしょうか」

 「「「言われるまでもねぇー!」」」





 六花は自分を律することをやめ、肉体の欲求にまかせた。
 太ももが生暖かい。
 六花は、そのままスマホを取りにリヴィングへ戻る。

 「おい、六花、その状態で歩き回るな! たのむからぁー!」

 他の三人も決壊した。
 そのまま、更なる腹痛でうずくまる。










 「はい、六花です。すみません、スッポンで食中毒発生です。場所は……」
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