富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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別荘の日々 XⅤ

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 六花がシャワーから戻ってきた。
 俺も、その後で浴びる。

 夕べのバーベキューや花火などは、きれいに片付けられていた。


 「タカさんたち、お疲れのようですね」
 亜紀ちゃんが心配そうに言った。

 「ああ、ちょっと二人で身体を鍛えていたからな」
 「はい」
 お前は黙ってろ。

 「そうなんですか。何か運動を?」
 「うん。ちょっとやり過ぎたな」
 「石神先生にたくさん責めていただきました」
 だからお前は黙ってろ!」

 「責める?」
 「いや、ちょっと格闘技的なものをな!」
 「お尻まで」
 俺は六花の頭を引っ叩いた。
 こいつ、疲れ過ぎて思考が混乱してやがる。

 「そ、そうなんだよ。だからちょっと寝たいかな」
 俺は六花を引きずり、寝室へ向かう。

 「おやすみなさい?」




 俺は六花の部屋のベッドに寝かせ、「しばらく寝ろ」と命じた。
 すぐに六花は眠る。

 俺も自分のベッドに横になると、響子が入ってきて、俺の隣に横になった。

 「タカトラ、大丈夫?」
 「ああ、ちょっと疲れたかな」

 響子は俺の枕元に座り、目を閉じた。
 「いたいの、いたいの、いたくない!」

 「お、痛くなくなったぞ?」
 「六花と同じだ!」

 響子は喜んで笑う。
 六花にもやってくると言うので、今は寝ているから後にしろと言う。

 「俺も六花もいなくなって悪かったな」
 「ううん。大丈夫だよ。アキが一緒にいてくれた」
 「そうか」

 響子は亜紀ちゃんとオセロで遊んだと言った。
 「勝てたか?」
 「うん」

 亜紀ちゃんが負けてやったのだろうと思った。

 「一緒に少し寝ようか」
 「うん」
 俺は亜紀ちゃんに、インターホンで響子としばらく寝ると伝えた。
 六花も寝ているので、昼食は適当に残しておいてくれと言う。

 夢を見た。
 着物の女性が畳の上に座り、俺にお辞儀をしている。
 俺も座り、挨拶を返す。
 女性が顔を上げ、俺に微笑んだ。
 美しい女性だった。
 「蝶の柄が素敵ですね」
 俺が言うと、女性は立ち上がってくるりと回り、全身の柄を俺に見せてくれる。
 石楠花の花の上を舞うデザインが素晴らしかった。

 そして何か俺に向かって言うが、その声は聞こえなかった。

 そこで目が覚めた。


 響子が俺を見ていた。

 「ああ、起きたのか」
 「うん、さっき」
 「そうか」

 「夢を見たの」
 「へぇ、どんな夢だった?」
 「キモノの女の人」
 「!」

 「 Butterflyのね、キレイなキモノの人だったのよ」
 「石楠花の花と一緒か!」
 「シャクナゲって、なに?」

 俺はデスクの鉛筆とメモ用紙に、石楠花の絵を描く。
 響子に見せた。

 「うん、こういう花」
 「白の花弁に、端がピンクになってる」
 「そうそう!」

 俺は、今見た夢を、響子にしてやる。
 「同じ人を見たの!」
 「そのようだな」

 何なのかは分からない。




 俺は響子を抱き上げ、六花の部屋の前に立った。
 大きな声で呼びかける。
 返事はない。
 俺はドアを開け、眠っている六花を揺り起こした。

 「あ、石神先生、またですね」
 即座に頭にチョップを入れる。

 「イタイ」

 俺は響子に馬乗りにさせた。
 「あ、響子」
 六花は響子を抱きしめた。

 食事をとるぞと言い、六花を連れてキッチンへ向かう。
 響子は六花に抱かせた。




 三時だ。

 子どもたちはテーブルでお茶を飲んでいた。

 「起きたんですね」
 亜紀ちゃんが立ち上がり、昼食の残りを温めてくれる。
 ラーメンを作ったらしい。

 響子は食べないだろうから、俺が卵スープを作った。
 クスクスと舞茸を細かく刻んだものも入れる。
 鍋を冷水に浸し、温度を下げた。

 スープ皿に移し、響子の前に置いた。

 六花は顔に汗をかきながら、ズルズルとラーメンを啜っている。
 キレイな顔なのに、意外とラーメンが似合う。

 響子はスプーンで一口飲み、美味しいと言った。

 「ラーメンも少し食べてみるか?」
 「うん」

 俺は椀に二口ほど分けた。
 響子は一口食べて
 「微妙」
 と言った。

 六花が、不思議そうな顔で見ている。
 こんなに美味しいのに、と目で訴えていた。



 夕方、子どもたちと一緒に餃子の仕込をする。
 俺と亜紀ちゃんがひたすらに材料を刻み、皇紀と双子がひたすらに包む。
 みんな慣れた作業で、バットにどんどん盛られていく。

 六花と響子も興味を持って、包む作業に参加した。

 普通の餃子の他に、エビやチーズ、卵やキノコ類、刻んだベーコンやコーン、様々な具材で作る。

 亜紀ちゃんがタバスコを持っている。
 「それを使うのかよ」
 「はい、皇紀用で」
 「やめてよー!

 俺たちは笑いながら、ひたすらに作った。



 亜紀ちゃんがひたすらに餃子を焼き、俺はひたすらにチャーハンを炒める。
 餃子は次々と大皿に盛られ、チャーハンも盛られていく。
 皇紀が両手でテーブルに運んでいく。

 双子は響子とアニメを見ている。
 六花は、俺がチャーハンを作るのを、そばで見ていた。
 時々メモをとっている。

 「お前、何やってんだ?」
 「タケに教えてやろうと思いまして」

 紅六花で俺のチャーハンが伝説となり、レシピを知りたがっているそうだ。
 


 亜紀ちゃんは300もの餃子を焼き、俺は12合のチャーハンを炒めた。
 皇紀がワカメのスープを担当した。

 「いただきます」
 「「「「「「いただきまーす!」」」」」」

 子どもたちはいつもの戦争だ。
 ただ、皇紀の前に一つだけ、亜紀ちゃんが餃子を置いてやった。

 「お姉ちゃん、これって」
 亜紀ちゃんはニッコリ笑う。

 皇紀が観念して一口で食べた。
 もの凄い唸り声を上げ、コップの水を飲み干す。
 塩水だった。


 「カワイそうに」
 響子は笑っていた。




 響子は餃子は苦手で、チャーハンを椀に一杯食べた。
 ワカメスープは気に入ったようで、二杯飲んだ。

 俺はフルーツの入った杏仁豆腐を出してやる。
 あまり冷えたものは響子にはよくないが、今日くらいはいいだろう。

 響子は初めて食べたようで、チュルチュルと最後の汁まで啜った。



 後片付けを子どもたちに任せ、俺は響子と風呂に入る。
 もう、当然のように六花もいる。

 俺はまた全身を洗わせた。


 子どもたちも風呂から上がり、俺たちは屋上へ移動する。
 飲み物は、ミルクセーキだ。
 響子のものは、また少し温めてある。






 「さて、今日は俺の子ども時代の話をしよう」
 子どもたちが目を輝かせて俺を見た。
 
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