富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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ゴールド Ⅱ

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 院長室に呼ばれた。

 「石神、入ります!」

 院長は机に座ったままだった。
 入ってきた俺をずっと見ている。

 「お前、五十嵐夫人の犬を預かったそうだな」
 「はい」

 「俺はそんなことまで頼んでねぇぞ」
 「はい、俺の意志でそうしました」

 「おい、最初に言ったけど、夫人はあと一ヶ月で死ぬんだぞ?」
 「はい、分かっています」
 「その後、犬はどうすんだよ」
 「そのままうちで飼おうと思っていますが」

 「ハァー!」

 「お前がそのつもりならいいんだけどよ。でも、それは医者としての領分じゃねぇぞ?」
 「はい、承知しています」

 「だったらなんで」
 「五十嵐さんと犬との絆を見ましたから」
 「なに?」
 「五十嵐さんはゴールドを自分の命よりも大事に思ってらっしゃいます」
 「そうだろうけどよ」

 「ゴールドも同じと見受けました」
 「お前、何言ってんだよ」
 「院長、俺はね、感動したんですよ。これから死ぬって時に、唯一考えてることが犬のことなんです。だったら何とかしたいと思ったんです」

 院長は頭を抱えた。

 「そうだったな。お前は山中の子どもたちを引き取った奴だもんな。今更犬の一匹くらい、何のこともねぇわな」
 「はい」

 「お前に相談した俺がバカだった。バカに任せたのがバカだったんだ」
 「その通りです」
 「お前なぁ」


 「分かった。面倒をかける。五十嵐夫人の犬のことは宜しくたのむぞ」
 「はい」





 五十嵐さんは家に泊まらずに、病院へ帰った。
 俺は家に戻り、ハマーで五十嵐さんの家に再び行き、五十嵐さんがまとめたゴールドの餌や用具を積み込んで、ゴールドを助手席に乗せた。

 ゴールドは驚くほどに大人しい犬だった。
 ゴールデンレトリバーがどういう性格なのかは知らないが、見知らぬ俺を怖がらず、時々俺を見ては窓の景色を眺めている。
 一応リードは着けているが、それも嫌がることもない。

 無事に俺の家に着き、玄関を開けた。

 連絡しておいたので、亜紀ちゃんが迎えに出てくる。

 「あ、本当に来たんですね!」
 嬉しそうに犬を見て、近づこうとする。
 ゴールドが唸った。

 「あれ、不味かったですか」
 「ああ、さっきまで大人しかったんだけどなぁ」

 亜紀ちゃんは取り敢えず下がり、俺はリードを握ったまま中に入った。
 ゴールドは俺と一緒に歩く。
 どこにいれば良いのか分からず、俺は自分の部屋にゴールドを入れた。

 「おい、ちょっとそこで待っててくれな」

 ゴールドに声をかけ、部屋を出た。

 子どもたちはリヴィングにいた。
 亜紀ちゃんから言われたのか、犬を見には来なかった。

 「犬は?」
 ハーが尋ねる。

 「ああ、俺の部屋にいる。慣れるまで、時間がかかるかもしれんな」
 「そうなの、早く仲良くなりたいな」
 ルーもハーも楽しみにしていた。
 
 俺は車からゴールドのものを降ろし、また自分の部屋へ行った。



 ずっと俺の部屋というわけにはいかない。
 少し考え、二階の空き部屋をゴールドに与えることにした。
 子どもたちと一緒に部屋を片付け、簡単に掃除もする。
 俺はゴールドの荷物をその部屋に入れた。


 俺が部屋に戻ると、ゴールドは俺のベッドで寝ていた。
 俺が入ると首を持ち上げて俺を見る。

 「ああ、待たせたな。お前の部屋を用意したから一緒に来てくれ」

 俺がそう言うと、ゴールドは俺についてきた。
 言葉が分かるのか?



 ゴールドは案内された部屋に入った。
 用意した布団を見つけると、そこに伏せる。

 俺は水を入れ、餌を出して皿に盛った。

 「お腹が空いてたら食べろ」
 
 ゴールドはまず水を飲み、それから餌を食べ始める。
 食べ終わると、俺に近づき、顔を舐めてきた。

 「じゃあ、ゆっくり休んでくれ。また後で来るからな」

 ゴールドは俺がドアを閉めるまで、じっと見詰めていた。



 夕飯を食べ、俺はゴールドの部屋へ行った。
 眠っていたのだろうが、俺が部屋に入ると起き上がってきた。
 俺の足に擦り寄る。

 俺は頭を撫でてやり、床に座ると顔を舐め、じゃれついてきた。

 「おい、ゴールド。この家には俺の他に子どもたちが四人いるんだ。みんなと仲良くしてくれるか?」
 ゴールドは短く吼えた。
 それを了承と受け取った。



 俺はリードを着け、ゴールドを居間に連れて行く。
 子どもたちは少し緊張し、しかし興味津々で俺とゴールドを見ている。

 「皇紀!」
 「はい!」
 「お前ならちょっと齧られてもいいだろう。こっちに来い!」
 「えぇー!」

 皇紀が恐る恐るゴールドに近づく。
 唸らない。
 俺が頭に触れと言い、ゴールドに触る。
 ゴールドは大人しく目をつぶっていた。

 俺は亜紀ちゃんを呼び、同じようにさせる。
 大丈夫だ。

 双子を呼んだ。
 「ゴールド!」
 名前を呼ぶと、僅かに尻尾を揺らした。
 二人で頭や背中をそっと撫でた。
 ゴールドは気持ち良さそうに腹ばいになった。






 ゴールドは、うちの一員となった。
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